BY MICHINO OGURA, PHOTOGRAPHS BY TAKEMI YABUKI AT W TOKYO
現代美術家の宮島達男は、うつろいゆく“時”に向き合っている。「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」という3つのコンセプトを掲げ、LEDのデジタルカウンターを用いた作品などを通して“時”への問いを投げかけてくる作家だ。その宮島が今、取り組むのは2011年3月11日に起きた東日本大震災をきっかけとする、犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承、そしてこれからの東北の未来を見据えた「時の海 – 東北」プロジェクトだという。

「構想を始めたのは震災が起きて4年目にあたる2015年頃。甚大な被害だったため、被災地では仮設住宅で暮らす方もまだいるのに、東京の都心部では震災の記憶がすでに風化しつつありました。こんなに文明が発達していても、あれだけの震災を前に人類は何もコントロールできなかった。自然からの問いに対して享受するだけだったことが絶望的に情けなくて、作品がつくれなくなった時期もありました。そんな何もできなかった自分に、落とし前をつけたい。“あの時”の記憶を失ってはいけない、作品を海の見える場所に設置したいと考えたのがこのプロジェクトの発端です」
宮島はこの構想を思いついてすぐに、宮城県石巻市で被災した地元の人にヒアリングを開始。参加者に配布するワークシートには“自分にとって一番大切な数字を考えて秒数にあてはめてほしい”と書いた。LEDの数字が「9」から「1」へと切り替わるタイミングの時間を希望する秒数(0.2秒〜120.0秒)に設定し、その秒数に込めた思いを記入してもらう。約10年かけてさまざまな地域でワークショップを行い、最終的に3000人が参加している。

プロジェクトに参加する3000という人数にも宮島の考えが投影されており、仏教の「三千大千世界」という、宇宙や無数を表す言葉を着想源にしている。「時の海 東北 美術館」を世界の人々が訪れ、その記憶が広がってほしいという希望が込められている。
昨年2月に開かれた記者会見では、福島県富岡町に「時の海 東北 美術館」が建設されること、前述のワークショップを経て生まれた作品《Sea of Time – TOHOKU》が美術館に恒久展示されることを発表。そして今年7月には日本橋三井ホールで実証実験が行われた。そこでは22.5×40mの水盤の中に3000人の参加者がタイム設定をしたLEDカウンターガジェットを設置するという構想を、3分の2の規模で試した空間が展開された。照明を落としたホールの空間に入ると、青と緑の数字が浮かび上がっては消えていく。LEDカウンターガジェットは“個”としてはタイム設定をした人の思いが込められているが、異なる設定の“個”がいくつも集まることでコントロールできない揺らぎが生まれている。
「2029年に開館予定ですが、福島県富岡町につくる美術館の構想を練っているところです。今回の実証実験では海が見える方向に入り口をつくり、そこからアプローチを少し長く取って最初に作品に出合うというアイデアを検証しました。暗闇の中を進み、目が慣れてくると、海が少しずつ真正面に見えてくるイメージ。そしてランダムに線を引いてLEDを並べることで、海の波のような、なるべく自然に見えるようなレイアウトを試行錯誤しています。
震災で思い知らされたのは、アーティストが意のままにできる世界はほんの一部だということ。ほとんどのことが、偶然に満ちたコントロールできない世界で起こっているのです。暗闇の中だけでLEDの光を見せるのはきれいですが、海の見える外光部をつくることで、自分たちにはどうにもできない光が入ってくる。でもそれを作品の一部として取り込みたいと考えています。水平線が見えて、海とともに人々が生きてきて、その海に脅威を与えられても、それでもやっぱり一緒に生きていく。3000人の人の思い、命の営みが瞬く空間をつくりたいのです」
宮島の強い思いを推進力に、このプロジェクトへの賛同は広がりを見せている。作家自身の資金と賛同者からの寄付金で建てるという「時の海 東北 美術館」へはサポート・アーティスト(資金支援者)として今からでも参加することが可能だ。2016年から東北復興へのサポートを続けているイタリアのファッションブランド「ブルネロクチネリ」の日本支社も宮島の理念に呼応した企業のうちのひとつ。
「現代アートというのはとても狭い世界です。その中で、ファッションという異なる分野から声をかけていただくのはありがたいと思っています。彼らは世界中の幅広い層に顧客を持っていて、その方たちに作品を知ってもらう機会になるからです。ブルネロ クチネリ表参道店のアートスペース『CASA CUCINELLI TOKYO』では展覧会の前期と後期にわたり、作品の展示販売を行なっています。購入者ご自身でタイム設定できる《Sea of Time – TOHOKU》を基にした作品を今後、展示販売予定です」

ブルネロ クチネリ表参道店の地下2階にある「CASA CUCINELLI TOKYO」。12月31日まで『INCONTROCON L’ARTISTA アーティストとの出会い ─「時の海 - 東北」プロジェクト 現代美術家 宮島達男』が開催中。貴重なユニークピースを入手できる。
COURTESY OF BRUNELLO CUCINELLI
作品を通して伝えたいのは
他者の痛みを想像し、
社会や未来を創造する二つの“ソウゾウリョク”を育むこと
世界的に確固たる地位を築いた現代美術家がここまでかきたてられる理由には未来への希望もある。「プロジェクトのワークショップは実際に被災していない若い世代にも参加してもらいました。彼らにも当事者になってほしいからです。作品を通して、次の世代にメッセージを伝えていくのはアーティストの使命だと感じています。僕が考える“ソウゾウリョク”は二つあります。一つは他者の痛みが感じられる感受性をもつ“想像力”。もう一つは新しい発想や方法を生み出し、社会や未来をよりよく変えていく“創造力”です。この二つの“ソウゾウリョク”は未来の社会にとって重要になってくると思う。アートの力で今できることはここだと思っています」

宮島達男(みやじま・たつお)
1957年、東京都生まれ。’88年に国際美術展ヴェネツィア・ビエンナーレで注目を浴びて以来、日本を代表する現代美術家のひとりとして国内外で活躍中。六本木ヒルズ内のテレビ朝日外壁やベネッセアートサイト直島などのパブリックアート作品も手がける。このプロジェクトは福島県富岡町に事務所を設立し、現地に足を運びながら制作。
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