9丁目のタウンハウスで、グリニッチビレッジに今も息づくボヘミアンのスピリットを大切に守り続ける仲間がいる。―― 少なくとも今年の9月までは、その炎を絶やさぬようにと

BY MARY KAYE SCHILLING, PHOTOGRAPHS BY ANTHONY COTSIFAS, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 だが、昨年の初め頃には、ともに90代となったフロスト夫妻の生活は明らかに厳しいものになっていた。彼らには子どもがなく、晩年の10年ほどは交友関係もなかったようだ。昨年2月、浴室の天井が抜けてしまったときに駆けつけた消防士は、夫婦の様子を見て大丈夫かと心配せざるをえなかった。ルースは91歳で認知症があり、93歳のエドがルースの世話をすることが難しいのは明白だった。さらにエドは何匹もいたビーグル犬たちの最後の1匹の面倒も見なくてはならなかったが、この犬は何カ月もアパートの部屋から外に出ていなかった(キッチンの床は糞だらけだった)。ルースとエドは病院に搬送され、そこから何軒かの老人ホームをたらい回しにされた。

画像: アパートメント2 フロスト夫妻の寝室。夫妻はこの建物を1958年に3万8,000ドルで購入した。ともに昨年秋に死去

アパートメント2
フロスト夫妻の寝室。夫妻はこの建物を1958年に3万8,000ドルで購入した。ともに昨年秋に死去

 フロスト夫妻がここを去ってからは、シュワルツが彼らに代わって管理することになった。それ以外、彼にどんな選択肢があっただろう? 彼はこのアパートに惚れ込んでいただけではない。この建物が象徴するものを見捨てられなかったのだ。シュワルツはすべてが滞りなく運ぶよう力を尽くした。光熱費を払い込み、住民たちの家賃の小切手を入金し、犬には新しい家を見つけるのも忘れなかった。

州が定めた管財人は、フロスト夫妻が介護施設の利用料を払うのを助けるために、空き家になっていた二つのアパートを貸し出して収入を得てはどうかと提案してきた。大量のメールのやりとりのあと、シュワルツの長年の友人であるサンタンジェロが庭つきの部屋に入居した。建物の表側、シュワルツの住まいの反対側にある二世帯用のアパートは、3人の知人たちがシェアして住むことになった。ひとりは英国人ジャーナリストで、彼女は下の階に引っ越してきた。らせん階段を上がった上の階にはアーティストで作家のリアン・シャプトンと作家のハイディ・ジュラヴィッツが入居し(ふたりは2014年に出版された『WomeninClothes』という本をシーラ・へティとともに執筆しているうちに友人になった)、自分たちの二つの部屋に小さな仕事場兼サロンのような空間をつくった。

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