9丁目のタウンハウスで、グリニッチビレッジに今も息づくボヘミアンのスピリットを大切に守り続ける仲間がいる。―― 少なくとも今年の9月までは、その炎を絶やさぬようにと

BY MARY KAYE SCHILLING, PHOTOGRAPHS BY ANTHONY COTSIFAS, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

1958年、グリニッチビレッジの古いタウンハウスをルースとエドワードのフロスト夫妻が購入。自分たちの居室以外の7室のアパート部分が「芸術に携わる人間限定」で貸し出された。舞台デザイナーやインテリア・デザイナー、彫刻家や作家、メイクアップアーティストなど、入居したクリエイターたちは、グリジッチビレッジがカウンターカルチャーの中心地だった60年代の面影を残すこのアパートメントを愛し、夫妻の死後もなんとか存続させようと力を合わせている。


 この建物を訪れるのは、クリスマスまで毎日、窓をひとつずつ開けてカウントダウンを楽しむアドベント・カレンダーをめくっていく感覚に似ている。それぞれの部屋をのぞくたびに新しい驚きがあるのだ。通りに面したシンプソンの住まいは、まるでビクトリア朝のおとぎの国のよう。オーバルの住居は裏側にあり、現代的でムダがなく、すっきりしている。シュワルツは彼の二世帯用の物件を、エレガントで、高級インテリア用品店「ジョン・デリアン」風の遊び心があふれる住みかに変身させた。

「それぞれの個性がはっきりと表現されているのがわかるよ」とサンタンジェロ。ウルグアイで育った彼は、1980年にニューヨークに移り住んだ。「最初にこの街に来たときは、みんなこんなふうにファンキーなアパートに住んでいて、面白い連中や変わった出来事にしょっちゅう出くわしてた。そういうことは今は珍しくなったね。人は“最新のトレンド”ってやつに影響されやすいから。この建物みたいな、いろんな個性が織り重なった場所は貴重だよ」

画像: アパートメント6 通りに面した最上階のスタジオではアーティストのリアン・シャプトンの作品が明かり取りからの光があたる壁にかけられている

アパートメント6
通りに面した最上階のスタジオではアーティストのリアン・シャプトンの作品が明かり取りからの光があたる壁にかけられている

 シンプソンとオーバルとシュワルツはすぐに友達になり、一緒に食事をし、互いの面倒を見合う仲になった。3人は、フロスト夫妻のエキセントリックさを共有していることでも結ばれている。「ルースはとんでもなく感情的で、大げさなところがあったよね」とシンプソン。「夫妻が僕にアパートに住んでいいと言ったとき、彼女はこう言ったんだ」。彼はキャサリン・ヘプバーンばりの震え声で「廊下に何が出るか、知らないわよ!」と言って笑った。それは、建物に出入りする住民たちの姿を夫妻が監視カメラで見ていたことを、彼が入居後に知ったためでもある。カメラはロビーに設置されており、夫妻は寝室の外側にとりつけた画面の真ん前に椅子を置いてそこに陣取り、観客二人だけのリアリティショーを観ていたのだ。

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