BY MIKI HONMA, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
2018年3月。東京・南青山に、イタリアを代表するラグジュアリー家具ブランド「ポルトローナ・フラウ」の日本初の公認フラッグシップストアが、イタリア本社の監修のもとで完成した。日本総代理店の大塚家具が、ポルトローナ・フラウの世界を存分に体感することができる次世代型の家具ショップとして展開する。そこに広がっていたのは、新しいライフスタイルに向かう老舗家具ブランドの姿だった。
ヨーロッパの中でもイタリアは、衣食住にバランスよく長けた珍しい国だ。ご存じのとおりの豊かな食、名高いジュエリーやファッションのハイブランド、そして世界屈指の家具デザインと製造技術。ポルトローナ・フラウだけではなく、イタリアにはB&Bイタリアやカッシーナ、フレックスフォルム、ミノッティと、個性と技術を持つハイブランドがひしめいている。その中でも、同社を特別な存在にしているのは、やはり革の技術だ。
例えば張りのあるボタン留めの背、優雅な曲線を描くアーム。「1919」という名を持つアームチェアは、日本でより豊かな暮らしを求める思いが加速した80年代に大ヒットした椅子だ。間違いなくイタリアの最高級家具のシンボルだった。そんな名作椅子を生み出したのが、イタリアの老舗家具メーカー、ポルトローナ・フラウだ。その名のとおり1919年に発表されたこのチェアは、ヨーロッパのインテリア誌でもたびたび紹介されているアイコン的なデザインである。
1912年にイタリアのトリノで創業。独特の柔らかさをもつ最高級の革「ペレ・フラウ」を使った家具で世界屈指の定評をもつ。美術館やホテル、ブランドショップの内装から、自動車や船のシート製造から家庭用の家具までを扱い、イタリアの産業を支えてきたメーカーだ。2016年からブランドディレクターに就任したニコラ・コロプリス氏は「自動車のハンドルや座を構成するステッチが家具に生かされたり、逆に家庭用のソファでの座面の張り方を応用して自動車のシートに心地よさを出したりと、相互の経験が生かされています」と語る。フェラーリなど世界の高級車や船舶のメーカーも同社の顧客だ。アームチェア「コックピット」は、そんな実績の賜物のひとつ。背もたれは人の体を包むスリットの入ったフォルム。ステアリングのパーツやパドルシフトをイメージしたシート調整レバーなど、随所にフェラーリのエッセンスをとり入れている。
「今なお、大切な工程は変わらず人の手によって作られています。体を支えるようにキュッと硬いボタン留めにする背もたれ、全体のデザインを引き締めるアームのプレッセ(プリーツ)、革のシワを残して緩やかに張った座面といった工程です。一脚の中に、いくつもの革張りの技が使われている。彼ら職人の手には知性が宿っていて、革を自在に扱うことができるのです」とコロプリス氏。馬具に使われる硬い皮革、サドルレザーもお得意の分野だ。一方で、革のカットや在庫の管理などはIT化し、人の力に頼らずできる工程は効率化を進めているという。もちろん革だけではなく、天然木や金属、テキスタイルなどあらゆる素材にも精通している。