ブロードウェイで活躍する舞台デザイナーが、アリゾナの砂漠に造った隠れ家

BY NATASHA WOLFF, PHOTOGRAPHS BY STEFAN RUIZ, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: 家具がほとんどないシンプルなリビングルームに置かれているのは、ヴィンテージのウシャック絨毯(オスマン帝国時代に織られたトルコ絨毯)と、ドン・S・シューメイカーがデザインした70年代のスリングチェア。コーヒーテーブルは、エリー運河で19世紀に使われていた平底船の板でできている。陶製の器はメキシコのマタオルティス村で作られたもの

家具がほとんどないシンプルなリビングルームに置かれているのは、ヴィンテージのウシャック絨毯(オスマン帝国時代に織られたトルコ絨毯)と、ドン・S・シューメイカーがデザインした70年代のスリングチェア。コーヒーテーブルは、エリー運河で19世紀に使われていた平底船の板でできている。陶製の器はメキシコのマタオルティス村で作られたもの

 サウスウェスト風のデザインは、悪趣味であるとか、強調された懐古主義で目を引こうとしているといった評価でインテリア装飾におけるタブーになってしまった。「僕はつねに、飾り気のまったくない、極端なシンプルさを好む」とパスクは言う。その言葉どおり、彼の家の中は、手塗りのしっくい壁や、陶製の壺、ヴィンテージもののナバホ族の絨毯、メキシコのアンティーク家具など、地元産のお気に入りの品であふれている。さらに陶器やモダンな品々や現代アートをインテリアに加えることで、土着とモダンという正反対の要素をミックスさせて斬新さを出した。

だが、それにも増して重要なのは、日の光によってできる影が、日中ずっと、その形を変えていく様子だ。舞台製作の仕事を通じて、パスクは光が空間をどう彩るかを熟知している。その結果、ひとつひとつの部屋は、まるでそれぞれが舞台セットであるかのように、太陽の動きによってムードが変わるよう造られた。光と影のパターンが生まれては消え、建築の幾何学的な側面をソフトに見せたり、あるいは強調したりする。そして午後遅い時間帯には、フィルム・ノワールと呼ばれた昔の犯罪映画を彷彿とさせるような、濃い黒と白の世界が広がる。何にも覆われていない窓が、砂漠とそこにのび放題に茂っている植物をまるで絵画のように縁取って見せる。パスクは日中、その窓を開け放ち、メスキートの木々の甘い香りが部屋に満ちていくのを楽しむのだ。

画像1: アリゾナの
「光の満ちる家」<後編>

 パスクの母親にとっては、この家はセカンドハウスでもある。パスクは、母親と兄弟が訪れたときのために、彼ら用の寝室もこしらえた。世界中をとびまわって舞台セットを作るパスクの仕事は十分恵まれたもので、刺激がありながらもやはり刹那的だ。そんな生活を長年送るにつれ、長く残るものへの渇望が彼の中で高まってきた。

「舞台を創るときは、3カ月かそこらのすごく短いスパンですべてが終わってしまう」とパスクは言う。

「でも、この家はいつもここにあって、永遠に残るんだ」

アリゾナの「光の満ちる家」 前編 へ

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