BY NATASHA WOLFF, PHOTOGRAPHS BY STEFAN RUIZ, TRANSLATED BY MIHO NAGANO
アリゾナ州のツーソンという街は、広大な砂漠と、日干しレンガでできた家並み、どこかアールデコっぽい、土色のダウンタウンでできあがっている。だが、市街の一部を囲むようにそびえるサンタカタリナ山脈の裾野に建つ一軒は、少し趣が違っている。その家は、この土地独特のテイストを巧みに採り入れながら、サウスウェスト風の建築の荒削りな魅力を前面に打ち出している。その一方で、1920~30年代に流行したインターナショナル・スタイルの教科書からそのまま抜け出たような、モダニズム建築の粋を凝らした手法で地元の建築物とは一線を画しているのだ。
「この建物は、土地のエッセンスを表現しながら、今までの焼き直しには陥っていない」
と語るのは、この家の主であり、舞台デザイナーのスコット・パスクだ。
「アリゾナにいることを十分感じられると同時に、よくある日干しレンガの家じゃないところがいいんだ」
パスクはブロードウェイで多くの業績を残してきた。50以上の舞台デザインを担当し、『ブック・オブ・モルモン』などの作品で、トニー賞を三度受賞した。本拠地はイーストビレッジのアパートだが、アリゾナは彼が育った故郷だ。彼と、彼の双子の兄弟で「バーグドルフ・グッドマン」のメンズのファッション・ディレクターを務めるブルースは、ともにユマで育ち、スコットはツーソンの大学で学んだ。ツーソンという街にたちまち魅せられた彼は、長いこと、ここに帰ってきて家を建てたいと願い続けてきた。
「ここの風景はゴツゴツしていて荒れ果て、まるで抽象画のようだ」
とパスクは言う。
「ここにいないときでも、僕はいつもこの風景のことを考えてしまう」