ピンクの漆喰壁が彩る玄関、コンクリート製の浴槽。豊かに生い茂る果樹園。ひとりのクリエイティブ・ディレクターとふたりの建築家は、究極のロサンゼルス・ファンタジーを、この家にいかに再現したのか

BY MAX LAKIN, PHOTOGRAPHS BY SIMON WATSON, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 そんな様子を眺めていると、これらすべてのスタイルに共通していて、この家のオーナーにヒントや影響を与えたのは、サンローランとベルジェだろうと容易に想像できる。だが実際は、それはウォルト・ディズニーだったのだ。ロサンゼルスの自己創造の守護神である、あのディズニーだ。「『自分の愛する世界を自分で創る』と言った人の一途なビジョンにとても共感するんだ」とクリスチャンセンは言う。フラミンゴ邸はつまり、彼のエプコット(註:エプコットはフロリダにあるウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにあるテーマパーク)なのだ。

それは世界中のあらゆるものがひとつに集められた楽しいパーティのような場所だ。スペイン統治時代の植民地風建築を模した家に、ベネチア風の床。その横にはペルシャ文化の影響を受けて作った浴室タワーがあり、その壁はモロッコ製のタイルで飾られている。これらすべての根底にハリウッド流の遊び心がある。

画像: 仕事部屋の壁はモロッコの職人が手作りしたタイルで覆われている

仕事部屋の壁はモロッコの職人が手作りしたタイルで覆われている

 ビッグ・チル銘柄の鮮やかな黄色の冷蔵庫とガスレンジがキッチンに並んでいる。台所器具は、新品だがレトロデザインで、時代を感じさせる。これもまた、永遠のドリーム・マシンであるロサンゼルスに賛同した表現だ。すべてのものから完全に解き放たれた自由な世界として創られた都市だけに許される、熱帯の理想郷というわけだ。

 この邸宅はまだ完成したわけではない(最近、コンクリート製のプールのデッキが真っ赤に塗られた。それはまるで1974年の映画『チャイナタウン』でフェイ・ダナウェイが真っ赤な口紅を塗った下唇を突き出したあの有名なポーズを思わせる)。
 だが、クリスチャンセンはもうこの家にすっかりなじんでいる。彼はマンハッタンのアパートを手放したことに未練はないという。「ニューヨークの自宅には、これまで一度だって誰かを夕食に招いたことはなかったし」と彼は言う。

 プールの近くには椿の木が鬱蒼と生い茂って垣根の役割を果たし、ピンクの花がまるで見張りのように咲き乱れる。そして、それを邪魔する存在は何もない。
 クリスチャンセンは、フラミンゴ邸を建てたことで「違った人生を生きると決心してロサンゼルスに移り住んできた多くのクリエイティブな人々に出会うきっかけになった」と語る。
「前より怠惰でゆったりした人生に落ち着いてしまったというわけじゃないんだ。これまでとはまったく違う人生に出会わせてくれたという意味さ」

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