ピンクの漆喰壁が彩る玄関、コンクリート製の浴槽。豊かに生い茂る果樹園。ひとりのクリエイティブ・ディレクターとふたりの建築家は、究極のロサンゼルス・ファンタジーを、この家にいかに再現したのか

BY MAX LAKIN, PHOTOGRAPHS BY SIMON WATSON, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 ふたりの建築家は、クリスチャンセンの母屋の核になる構造はほとんどそのまま残し、ピンクの漆喰壁の正面玄関部分を修理し、モロッコ産の黄色や緑や濃い赤のタイルで新しい屋根を作った。内装は、スタジオKOが手がけたほかの建物とほぼ同じように、豪華だがこれ見よがしではなく、精緻だ冷たさがない仕上がりになっている。アーチ型の複数の窓からまばゆい太陽の光が差し込む。新しく敷き詰められ、鮮やかな複数の色で彩られたベネチア風のテラゾ(人造大理石)仕上げの床に、日射しがきらきらと反射している。

キュビズムのコラージュパネルを屛風式にしたホックニーの1987年の作品《カリビアン・ティー・タイム》がリビングルームにどんと置かれている。自由に溢れた余暇の白昼夢を興奮と喜びに満ちて描いた作品だ。裏の部屋はマジョレル・ブルー(註:マラケシュのマジョレル庭園の外壁の鮮やかな青)に塗られ、鏡張りの天井は緑青でかすかに覆われている。カウチベッドにはヒョウ柄のカバーがかけられており、それは現在パームスプリングスに住むジョンへのオマージュだ。

画像: リチャード・クリスチャンセンの1940年代風のロサンゼルスの家のリビングルームには、デイヴィッド・ホックニーの《カリビアン・ティー・タイム》の屛風式の作品がある。同じ部屋には、ベルギー人のデザイナー、JP・デメヤーのソファに、パリの蚤の市で手に入れたガブリエラ・クレスピのテーブル、イビサ島のホテルにあった象の形をした椅子、コンゴ共和国のアフリカの仮面、オズワルド・ボルサーニの暖炉用の器具も。壁の塗料はマディソン・アンド・グロウの特注

リチャード・クリスチャンセンの1940年代風のロサンゼルスの家のリビングルームには、デイヴィッド・ホックニーの《カリビアン・ティー・タイム》の屛風式の作品がある。同じ部屋には、ベルギー人のデザイナー、JP・デメヤーのソファに、パリの蚤の市で手に入れたガブリエラ・クレスピのテーブル、イビサ島のホテルにあった象の形をした椅子、コンゴ共和国のアフリカの仮面、オズワルド・ボルサーニの暖炉用の器具も。壁の塗料はマディソン・アンド・グロウの特注

 家の外壁を修繕し始めたとき、マーティは、乾いたピンク色の表面の下から、緑色がかった下地が出てきたのに驚いた。彼はその色を「ミルクの中にミントシロップを注ぎ込んだよう」と表現した。彼とフォーニアーはその効果をぜひとも再現しようと、わざと古く見える加工を施すために、壁材をシャブリ・ワインに漬けて、かすかなターコイズ色が浮き出てくるのを待った。クリスチャンセンは、いかにも彼らしく、この家を「フラミンゴ邸」と名付け、何世紀も受け継がれてきた家紋のように見えるロゴまで作らせた。家の周囲には、モロッコの陶器職人がろくろを使って手作りした素焼きの壺を多数置いた。その壺には小さなフラミンゴの彫り模様があしらわれている。

 スタジオKOは、家の周囲にさらにいくつかの小さな建物を追加した。壁一面に英国人アーティスト、ルーク・エドワード=ホールの白黒の絵が描かれているランドリールーム。なめらかな曲線で構成された天井と、天井から床までの高さのドアと一体になった窓が造りつけられた、まるで教会のような造りのオフィス・パビリオン。さらに、スタンリー・キューブリックの映画に出てきそうな巨大な碑石のような、3階建てのコンクリートの四角い建物。これはクリスチャンセンが「入浴のための聖堂」と呼ぶ場所だ。それはハマム(註:トルコ式のスパ)でもあり、また墓でもあるような約37㎡の面積の建物で、暖炉と、コンクリートを流し込んで固めて作った浴槽があり、日の出の方向に向
かって建てられている。

ステンドグラスが造りつけられた扉状の窓は、鮮やかなバレアレス海の色をしており、窓からは下に広がる周囲の景色を眺めることができる。ちなみにこの窓は、フォーニアーとマーティがマラケシュに新しく建てたイヴ・サンローラン美術館で最初に使ったものだ。斬新なデザインのこの窓をこの浴室で再現することで、カリフォルニアの陽光の恩恵を十二分に味わえることになった。

画像: スタジオKOがデザインした、コンクリートを流し込んで固めた浴室の聖堂

スタジオKOがデザインした、コンクリートを流し込んで固めた浴室の聖堂

画像: クリスチャンセンが日課にしている入浴。浴槽は日の出の方向に面しており、その時間にステンドグラスの窓を通して、青色の影が西側の壁に映る。扉のように開く窓はロサンゼルスで手作りされたもの。浴室機器はウォーターワークス製

クリスチャンセンが日課にしている入浴。浴槽は日の出の方向に面しており、その時間にステンドグラスの窓を通して、青色の影が西側の壁に映る。扉のように開く窓はロサンゼルスで手作りされたもの。浴室機器はウォーターワークス製

 クリスチャンセンは入浴をきわめて重視しており、独立した浴室スペースを造ってほしいというのが彼の最初の注文だった。
 スタジオKOは、イスマーイール1 世が統治していた頃のペルシャのアラムート城壁をもとに建築模型を作ってプレゼンした。それは山の上に造られた城壁に囲まれた街で、そこで11世紀の兵士たちは、ハシシをふかしながら、天国にいるような夢心地をつかの間でも味わおうとしていたと伝えられている。「こんな建物を造ってくれと依頼されることはもう二度とないだろう」とマーティは言う。

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