ピンクの漆喰壁が彩る玄関、コンクリート製の浴槽。豊かに生い茂る果樹園。ひとりのクリエイティブ・ディレクターとふたりの建築家は、究極のロサンゼルス・ファンタジーを、この家にいかに再現したのか

BY MAX LAKIN, PHOTOGRAPHS BY SIMON WATSON, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 3人は4年もの間、綿密に連絡を取りながら作業をし、ともにモロッコを旅しては、毎月一度ぐらいの頻度でLAの家に集合した。まったく違う出身国の3人が、それぞれが抱くロサンゼルスの楽園の構想を持ち寄ったのだ。「ほとんどの彼らの作品はブルタリズム建築なんだけど、僕はピンク色の家が欲しいし、さらに僕はジェーン・フォンダの大ファンであることを彼らに伝えたんだ」とクリスチャンセンは言う。
「そりゃ、いつも大激論になったよ」

 3人はともにいわゆる典型的なカリフォルニア・デザインに敬意を払いながらも、同時にそれをまったく逆手に取る手法で家を造った。家のほとんどの部屋から眼下に広がる街の景観が眺められるため、室内にいても、まるで外にいるような感覚を味わえる。そして実際に部屋の外に出てみると、単に屋外にいるだけでなく、本当に自然に包み込まれている感じがする。

画像: 日本式のシバ草が生えた小道の上に覆いかぶさるように日陰をつくるアカシアの木。この小道は、サルビア、縁紅弁慶、アロエが生えている庭の中を通っている

日本式のシバ草が生えた小道の上に覆いかぶさるように日陰をつくるアカシアの木。この小道は、サルビア、縁紅弁慶、アロエが生えている庭の中を通っている

 75段ある煉瓦造りの階段(この階段は映画監督のクルツィオ・マラパルテのカプリ島の別荘からヒントを得て造った。このマラパルテの別荘で1963年のゴダールの映画『軽蔑』のブリジット・バルドーが物憂げに日光浴をするシーンが撮影された)の一番下には果樹園が広がり、この土地を見事に再生させた彼らの手腕がはっきりと見て取れる。

 クリスチャンセンがこの家に引っ越してきたとき、土には養分が残っていなかった。だが今ではパパイヤ、ズッキーニ、いちご、ザクロ、桃、プラム、イチジク、杏、そしてマカダミアナッツが生い茂っている。
 クリスチャンセンは、スタジオKOとの共同プロジェクトの常連であるフランス人の庭園デザイナーのアーナウド・カサウスと、地元LAの園芸家、ジェフリー・ハッチソンとチームを組んで果樹園を造った。ハッチソンはさまざまな種類のトマトを植えることに挑戦し、トマトの栄養分のリコピンの赤の濃淡で美しいグラデーションを出そうとしたのだが、いざ植えてみると、トマトはアートディレクションの指示を尊重してはくれないことがわかった。

 彼らはまた、土地固有の種の多様性も維持しようと努めた。カリフォルニアポピー(ハナビシソウ)やヨモギも植えた。ヨモギは記憶を覚醒させる成分を含む薬草で、クリスチャンセンはヨモギをセージと一緒に匂い袋に入れて、お別れの際のギフトとして人に贈っている。

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