BY KANAE HASEGAWA
“持続可能な”を意味するサステイナブルは、今やモノづくりに関わる者、そして消費者の多くが意識しているキーワードだ。4月にイタリア、ミラノで開催されたデザインの祭典、ミラノデザインウィークでは、サステイナブルな社会を実現するための具体的な方法として“サーキュラー” であることをモノづくりの中核とするメーカーの存在が目についた。
モノづくりにおけるサーキュラーとは、素材の調達に始まり、モノを作って、エンドユーザーのもとに届け、それが処分されたあと、廃棄物を引き取り、原料に戻し、巡り巡ってリユースする循環を意味する。こうした原料から原料へという循環の仕組みを、英語圏では“Close the Loop”と呼ぶ。
こうしたサーキュラーな取り組みを企業活動の核としているのが創業から130年の歴史を持つフランスの大手床材メーカー「Tarkett(タルケット)」だ。同社はこの60年あまり、原料にリサイクルビニールを用い、6月に開かれる株主総会でもサーキュラーなモノづくりにおける同社の方針を打ち出すことになっている。
タルケットが長年にわたり使用済みビニールの再利用に取り組む中でわかったこと。それは、「ビニールはリサイクルにとても向いている素材」だということ。ビニールは、何度かリサイクルしても性質をそのまま保つことができる素材なのだ。こうした理由から、タルケットでは使用済みのビニール床材を回収し、新たな床材として作り直してきた。今はタルケットのビニール床材の25%が回収ビニール材でできているという。
そんなタルケットはミラノデザインウィーク中、床材に対する見方を大きく変える展示をした。床材が床から解放され、円柱となり、家具となって空間の中に立ち現れたのだ。スウェーデンの建築事務所、「Note Design Studio」とともに開発した床材「iQ Surface(アイキュー サーフェス)」は、ビニールでありながら、花崗岩のような模様を施すことができる特殊ビニール材。厚さ2mmという薄さで円柱のようなカーブ状の表面も覆うことも、尖った角の立方体の表面を覆うことも可能だ。会場となった19世紀の建物の中、建築の要素として存在感を放っていた。
一般的に、床材は目線を落として見ないことには視界に入りにくく、脇役になりがちだ。しかし、柱や壁に施せば、普段の目線で視界に入ってくることになり、“光を当てる”ことができる。iQ Surfaceは、廃棄物(waste)が趣味のいい(taste)空間の主役にもなる可能性を持っていることを気づかせてくれた。
こうした床材の思いもよらぬ見せ方はデザインウィーク中、大きな話題となり、展示会場を足早に駆け回る人の足を止めた展示の一つだった。もちろん、これらの展示品も、ミラノでのわずか一週間の展示が終われば、床材が作られているスウェーデン南部の町ロンネビューの工場に送られ、処分されることなくサーキュラーの循環に戻っていくのである。