「人生で一度もひとつのことだけに取り組んだ時期はない」というラフ・シモンズ。ファッション界の第一線を走りつづけながら、デンマークのインテリア・テキスタイルブランド「Kvadrat(クヴァドラ)」と新プロジェクトを手がけ、インダストリアルデザイナーのルーツに立ち返ったシモンズに、メールで話を聞いた

BY JUNKO HIGASHINO

画像: クヴァドラ/ラフ・シモンズの〈Shaker System(シェーカーシステム)〉コレクションより。〝秩序から美を生み出す″というコンセプトのもと、シンプルで機能的な収納アイテムと小物を提案。デザインに一貫性があるので、ユーザーは好きなアイテムを自由に組み合わせて、思い思いの居住空間を演出できる。ニュアンスのあるカラーや質感も魅力だ

クヴァドラ/ラフ・シモンズの〈Shaker System(シェーカーシステム)〉コレクションより。〝秩序から美を生み出す″というコンセプトのもと、シンプルで機能的な収納アイテムと小物を提案。デザインに一貫性があるので、ユーザーは好きなアイテムを自由に組み合わせて、思い思いの居住空間を演出できる。ニュアンスのあるカラーや質感も魅力だ

 ファッションデザイナー、ラフ・シモンズが自身の名を冠したブランドを率いると同時に、ディオールやジル・サンダー、カルバン・クラインなど数々の大御所メゾンのクリエイティブディレクターを兼任してきたことは知られているが、インテリア分野でも才能を発揮していることを知る人は少ないだろう。彼がインテリアの世界に乗り出すようになったのは、ジル・サンダー在籍時代のことだ。

「服地以外のファブリックを使いたくなって、あちこち探しているうちにデンマークのテキスタイルブランド『Kvadrat(クヴァドラ)』に出会いました。彼らが展開している上質で独特の風合いがある素材に魅了されて、本来、椅子やソファの張り地とされてきたものを、思いきってジル・サンダーの2011年AWのスーツやコートに使うことにしたのです。その後、クヴァドラからコラボレーションの依頼を受けたのですが、このブランドの哲学に共感しただけでなく、学生時代にインダストリアルデザインを専攻していたこともあって、二つ返事で引き受けました」。

 クヴァドラはデンマークを代表するインテリア・テキスタイルブランドだ。1968年の設立以来、家具の張り地やカーテン、ラグなど、北欧の伝統に根ざした上質で洗練されたコレクションを展開してきた。建築・アート・グラフィックデザインやファッションなど多分野のエキスパートたちとのコラボレーションにも力を入れている。

 こうして2014年から「Kvadrat/Raf Simons」コレクションとして共同制作してきたテキスタイルは、シモンズ自身のブランドはもちろん、ディオールやプラダのコレクションにも取り入れている。

画像: シンプルな壁かけのバーに、出かけるときに必要な小物が整然と並ぶ。見せながら収納し、気持ちよく住まうことが叶う。キャップ、キー・チェーン、トートバッグなど小物も展開

シンプルな壁かけのバーに、出かけるときに必要な小物が整然と並ぶ。見せながら収納し、気持ちよく住まうことが叶う。キャップ、キー・チェーン、トートバッグなど小物も展開

 両者のコラボレーションがスタートして今年で8年目。これまではテキスタイルを中心に共同開発してきたが、8月にコペンハーゲンで新作のアクセサリーコレクション〈Shaker System(シェーカーシステム)〉を発表した。日本ではそのファーストコレクションが12月頃に展開される予定だ。キー・チェーン、キャップ、トートバッグといった小物やマガジンストラップなどの収納アイテムのほか、これらを壁に掛けるためのペグレール(シェーカー教徒が考案した壁掛けフック)に着想を得たバーまで約17アイテムが揃う。

 コンセプトの出発点は「1969年にドイツ、ケルンの家具見本市に出展された可動式住居「「Visiona1(ヴィジョナ1)」だと言う。イタリアの伝説的デザイナー、ジョエ・コロンボが提案した、寝室やキッチンなど各空間を機能的に分割した、近未来的なモジュールシステムである。

画像: バーにかかっているのは左から、ラムウールのスロー、レザーのストラップとスリーブ、ラムウールのクッション

バーにかかっているのは左から、ラムウールのスロー、レザーのストラップとスリーブ、ラムウールのクッション

 もうひとつの大切なアイデアソースはシェーカー文化だ。「アメリカで暮らしたときから、この文化の美意識と建築美にすっかり夢中で。シェーカー教徒たちの簡素で美しく機能的な住居や家具は、アメリカのモダンデザインの元祖とも言われてもいます。ほうきや椅子を吊るすことができるペグレールが、〈シェーカーシステム〉のバーの着想源となったのです」。

 同時にこのバーは幼少期の温かな記憶から生まれたものでもある。「母が、大きな鍵型の木の彫刻を持っていたのです。70年代に私が住む地域ではよく見かけたオブジェで、家にあったのは約50センチ大のもので、横長に壁に掛け、家族みんなの鍵を下げていました。子どもの頃からずっとこの彫刻が好きで、プロジェクトにシェーカー文化を取り込もうと思う前から、この鍵かけのことを考えていました。モダニズム建築では、フックのついた横長のバーがよく使われますが、美しいとは思えないものが多かったので、吊り下げるための仕組みが隠れるような、ごくシンプルなバーをデザインしたのです」。

画像: 壁にかけても持ち歩いても端正なキー・チェーン

壁にかけても持ち歩いても端正なキー・チェーン

「このプロジェクトで大事にしたのは、各製品につながりをもたせること、隠すのではなく見せたいと思わせる存在感のあるアイテムにすること。また美的な観点からアプローチするだけではなく、使う人の目線に立ってデザインすることでした。具体的に、人々が家の中で普段どのように暮らしているかを思い浮かべたのです。たとえば出かけるときには急いで鍵を探すだろうとか、帰宅したら犬を外に出さなきゃならないだろうとか、リビングルームを快適にするには何が必要か、といったことを想像し、これらを出発点に、収納システムやアクセサリーを考えだしました」。

画像: シンプルなバーに下げられた、レザーのストラップとスリーブ。出かけるときに必要な小物をスッキリ収納できる

シンプルなバーに下げられた、レザーのストラップとスリーブ。出かけるときに必要な小物をスッキリ収納できる

 こうして生まれたのは機能やニーズを重視したコレクションだが、カラーやディテールにはシモンズの譲らないこだわりが感じられる。

「4色のうち、まず起点としたのが自分にとってのニュートラルカラーであるブラックとオフホワイト。そこにフェミニンなピンクと、どちらかと言えばマスキュリンで主張の強すぎないVidar(ヴィダー)(※クヴァドラ/ラフ・シモンズで展開しているテキスタイル名)のダークグリーンを加えました。このヴィダールはソファを始め、自宅のインテリアでもたくさん取り入れているのです」。

 コレクションは視覚的に統一したいとも考えたそうだ。「大半のアイテムにヴィダー4というテキスタイルを使っているので、バー(壁掛けフック)も同じテキスタイルで覆うことにしました。クヴァドラの技術がなければこれほど美しく仕上がらなかったと思いますが、このバーは、何も掛けられていない状態でも存在感があり、アート作品とも共存できる美しい物にしたかったのです」。

画像: マガジンストラップ。バーもフックも一体感がある美しいしあがりに

マガジンストラップ。バーもフックも一体感がある美しいしあがりに

 今回のメールインタビューで、とくに心に留まったのが彼のこんな言葉だった。「クヴァドラとの仕事は、ファッション界のスピーディーなプロセスと、天と地ほど異なるペースである点が気に入っています。つねに新しいものが求められるファッション界では、毎シーズン、わずか一瞬のショーのために生地を開発する。いっぽうインテリアのファブリックは長年使われることを前提に、驚くくらい長い時間をかけて開発する。だから私がインテリアの創作にかかわるときには、より大きな責任感と充足感を得られるのです」。

 つねに秒刻みのスケジュールに追われているシモンズだが、このインテリアのプロジェクトではものづくりの喜びにじっくりと浸ることができたようだ。また自らのキャリアの原点を振り返るきっかけにもなったらしい。

「完成まで相当な年月を要しましたが、学校を卒業後、駆けだしのインダストリアルデザイナーだった時代を思い起こす体験でした。テキスタイル以外でインダストリアルデザインにかかわるのはあの時代以来、久々のことだったので、心から楽しめたプロジェクトだったとも言えます」

画像: シンプルだが緻密に計算されたフォルムのキャップも4色展開で。こちらはダークグリーン COURTESY OF Kvadrat/RAFSIMONS

シンプルだが緻密に計算されたフォルムのキャップも4色展開で。こちらはダークグリーン
COURTESY OF Kvadrat/RAFSIMONS

 このコラボレーションにおける自身の役割は「インテリア業界にいる人が普通は思いつかないような、新しい視点や解釈をもたらすこと」だと語るシモンズ。そのデザインは、きわめて機能的でミニマルでありながら、彼らしい美学と芸術性に溢れている。ファッションにインテリア、アートと、あらゆる領域を行ったり来たりしながら、彼は誰にもまねできない流儀で、独自の創作世界を切り開いている。

画像: ラフ・シモンズ ファッションデザイナー。ベルギー出身。95年に設立した自身の名を冠したブランドのほか、ジル・サンダー、ディオール、カルバン・クラインなどのアーティスティック・ディレクターなども手がけてきた。2020年よりプラダの共同クリエイティブ・ディレクターに就任。音楽とアートへの造詣が深く、ジャンルを超えたコラボレーションも多く手がけている PHOTOGRAPH BY WILLY VANDERPERRE

ラフ・シモンズ
ファッションデザイナー。ベルギー出身。95年に設立した自身の名を冠したブランドのほか、ジル・サンダー、ディオール、カルバン・クラインなどのアーティスティック・ディレクターなども手がけてきた。2020年よりプラダの共同クリエイティブ・ディレクターに就任。音楽とアートへの造詣が深く、ジャンルを超えたコラボレーションも多く手がけている
PHOTOGRAPH BY WILLY VANDERPERRE

問合せ先 
クヴァドラ/ラフ・シモンズ
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