イタリアのプーリア州を楽しむ大勢の中に、エトロファミリーの長男が加わった。購入した古い邸宅で、ほぼプライベートな時間を嗜(たしな)んでいる。

BY KURT SOLLER, PHOTOGRAPHS BY RICARDO LABOUGLE, TRANSLATED BY YUMIKO UEHARA

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画像: ヤコポ・エトロがイタリアのプーリアにもつ別荘の、1階の客室。18〜19世紀の人体解剖研究の図を壁に。小さなシノワズリのついたてはピエモンテ州から。黒塗装の椅子はナポレオン3世様式

ヤコポ・エトロがイタリアのプーリアにもつ別荘の、1階の客室。18〜19世紀の人体解剖研究の図を壁に。小さなシノワズリのついたてはピエモンテ州から。黒塗装の椅子はナポレオン3世様式

 ヤコポ・エトロは4人兄弟の長男だ。母ロベルタと父ジェローラモ・“ジンモ”・エトロは、ミラノで生地を扱っていたが、1968年に父が家族名でファッションカンパニーを創業した。ヤコポは20歳から父と働き、新たなペイズリー柄のジャカードなどをモチーフにしたヴィンテージ風テキスタイルを考案、のちにテキスタイル事業に加えて、ホーム(家具)、アクセサリー、レザーグッズコレクションを統括し、次男キーンがメンズウェア、長女ヴェロニカがウィメンズウェア、三男イッポリトが経営管理を担当した。株式の60%をアメリカのプライベート・エクイティファンド、L キャタルトンに売却したのち、2022年6月にクリエイティブ・ディレクターに就任したマルコ・デ・ヴィンチェンツォがさまざまな部門を一手に指揮することになった。その後も、エトロファミリーは少数株式を保有し、アドバイザーとして関与している。

画像: 冬用の食事エリア。20世紀初頭に農家で使われていたテーブルに、1930年代のピエモンテ州で作られた赤い椅子

冬用の食事エリア。20世紀初頭に農家で使われていたテーブルに、1930年代のピエモンテ州で作られた赤い椅子

 このプーリアの別荘では一族の歴史が垣間見える。各部屋の家具は少ないが、椅子、テーブル、書棚の大半はエトロが4世代前から受け継いできたものだ。それらとともにモダンな写真を飾り、つややかなソファを置き、40年かけて集めてきた装飾品も並べている。たとえば中庭には19世紀のミラノの石膏像。上階のダイニングにある飾り棚には、20世紀のイタリア人建築家兼デザイナー、ロレンツォ・モンジャルディーノの家にあったアンティークのタイル。

画像: 客室。北イタリアの教会にあった19世紀の鏡、ヴィクトリア様式のたんす、その上に18世紀後半の一連の版画がある。

客室。北イタリアの教会にあった19世紀の鏡、ヴィクトリア様式のたんす、その上に18世紀後半の一連の版画がある。

 装飾は控えめにしつつ、究極的には安心や居心地のよさを優先した。豪邸を買う人はミニマリズムにこだわって冷たい雰囲気にしてしまうことが多すぎる、とエトロは考えている。「休暇を心地よく過ごせることが大切なんだ」。心地よさへのこだわりを特に強く感じさせるのが、広いルーフトップテラスだ。小さいが深めのプールと、赤褐色の特大のデッキチェアが並ぶ。太陽が地中海に沈みゆく時刻にテラスに立つと、邸宅のどの部分が非常に古く、どの部分が少し古いのかがよくわかる。また、眼下の町並みが近代化の瀬戸際にあるのも見てとれる。通りの向こうには友人たちが買って、今まさに改築中の建物もある。エトロ自身も隣接する17世紀の建物を一軒購入した。最近はアメリカ人の姿も見かける。遠からず、この邸宅を囲む風景のような場所は、多分どこにも存在しなくなる。

 とはいえ、プーリアは変化しつづけてきた土地だ。16世紀から19世紀にかけてはオリーブオイルの輸出で栄えた。当時はオリーブオイルをランタンの燃料に使っていたからだ。エトロの別荘にも1000㎡ほどの地下蔵がある。かつての所有者が収穫したオリーブやオイルを貯蔵していたのだろう。もしこの邸宅をホテルにするとしたら、地下はジムかスパにするのがいいのかもしれない。けれど彼は照明をいくつか設置しただけで、がらんとした空間のままにしている――おそらく、永遠に過去の姿をとどめるべきものもあるのだ、と思い起こさせる役割として。ただし本人は「使い道もないよ」と言う。「全然思いつかない。湿度が高すぎるんだ」

画像: 冬の食事エリアとダイニングをつなぐ部屋。ロンバルディア州で19世紀に作られた、扉に絵柄の描かれた食器棚、その上にプーリアの陶製の花瓶。中央には金箔を貼ったシチリアのテーブル

冬の食事エリアとダイニングをつなぐ部屋。ロンバルディア州で19世紀に作られた、扉に絵柄の描かれた食器棚、その上にプーリアの陶製の花瓶。中央には金箔を貼ったシチリアのテーブル

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