アメリカで広がる、スタートアップ志向や働き方の改革、フェミニズム。その流れを受けて、女性をサポートする女性限定ビジネスが増加中だ。なかでも人気を集めている「ザ・ウィング」に潜入取材した

BY KATHERINE ROSMAN, PHOTOGRAPHS BY HILARY SWIFT, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI (RENDEVOUS)

 2016年の春、ゲルマンとカサーンは東20番通りにあるビルの12階に3500平方フィートの場所を借りることにした。そして自身たちのヴィジョンを実現するために、女性だけを雇って全員女性のチームを作った。建築家のアルダ・リー、インテリア・デザイナーのキアラ・デ・レージェとヒラリー・コイフマンといった面々だ。コイフマンはインテリア雑誌『Domino』の取材で、ザ・ウィングの空間を「TVドラマ『マッドメン』の、男のいないバージョンのよう」だと表現している。ザ・ウィングのブランディングは、デザインコンサルタント会社ペンタグラムの女性デザイナーチームとともに進められた。ソーシャルメディアマーケティングはゲルマン自らが担当した(彼女はインスタグラムで、ザ・ウィングについて「女子学生の社交クラブ“ソロリティー”みたいなものじゃなく、“魔女の集会”」だと表現している)。

 まずは創立メンバーとして200名の会員を獲得すべく、ふたりはメディア関係者や起業家やアーティストなど、自分たちの人脈をフル活用した。ときには交換条件として当時の年会費2,100ドルを免除する代わりにサービスを提供してもらうこともあったが、その後まもなく、入会待ちのウェイティングリストができるほどになった。

 クラブがオープンした当時、ザ・ウィングのメンバー、“ウィンガー”たちは全米の多くの女性と同じように、アメリカ合衆国に初の女性大統領が誕生する歴史的瞬間を期待していた。しかしそれが実現しなかったとき、ザ・ウィングには新しいニーズが生まれたのだと創設者のふたりは言う。
「私たちは、初の女性大統領が誕生することでフェミニストにとって輝かしい時代が訪れ、その結果として女性たちがここのように専用のスペースを持つことができるようになると期待していたんです」とゲルマンは言う。「でも一夜にして、その期待は保守的なムードに変わってしまった」

 当初、スペースではフラワーアレンジメントのレッスンや星座をテーマにした朝食会、識者を招いた時事問題の討論会などの催しを予定していた。だが、やがて女性の権利や政治に焦点を当てた講義やイベントにも興味があると言う意見がメンバーから届くようになったという。そこでふたりは、「トランプ当選後の世界、その不安と憂鬱についてのワークショップ」「ユダヤ教徒とイスラム教徒の女性同士の友情のための一夜」「カーステン・ギリブランド上院議員との座談会」といったイベントを企画。こうしたイベントに多くの参加者が集まった。

 彼女たちは、ワシントンD.C.で開催された反トランプ・デモ『ウィメンズ・マーチ・イン・ワシントン』に参加するメンバーのために往復バスの手配もした。そのデモで女性たちが被っていたピンクの帽子は、はからずもデ・レージェとコイフマンがザ・ウィングのインテリアに選んだ色と同じだった。

画像: メンバーは、この化粧室で着替えることができる

メンバーは、この化粧室で着替えることができる

 ザ・ウィングがオープンして数ヶ月後に、TVドラマ『Girls』で、ニューヨークにある女性限定のスペースにまつわるエピソードが放映された。レナ・ダナム制作のその回では、クラブは『Wemun(Women Entrepreneurs Meet Up Now:女性起業家たちよ、今こそ集まれ の略)』という名称で、会議を仕切る女性は「Wemunのメンバーは、仕事のイベントでつなぎの服をどう素敵に着こなすかも、誰に投票するべきかも(つまり、ファッションも政治も)語れる人」だと語っていた。

 批評家やライターたちの元には、放送前にこのエピソードが送られてきた。女性向けのオンライン・マガジン『The Cut』は、「レナ・ダナムは『Girls』でザ・ウィングをバカにした?」という記事を掲載。それに対してダナムは、ザ・ウィングやゲルマンに似ているところがあったとしてもそれは偶然だし、また、“Wemunのメンバーとは”について語るシーンは編集でカットしたと語った。
 女性のキャリアサポートを仕事にしようと奮闘するふたりの起業家には、この冗談は通じなかったようだ。ゲルマンは去年の11月までの何ヶ月か、ダナムをインスタグラムのフォローから外していた(「友だちとはケンカもするし、仲直りもする。人生は長いのよ」とゲルマン)。

 今シーズン、TVドラマ『Younger』でも、主人公たちがザ・ネストという女性限定クラブの会員になりたがるというストーリーが展開されている。が、これに関してカサーンとゲルマンのふたりは悪くは思っていないようだ。
「『Younger』は、現代版の『セックス・アンド・ザ・シティ』のようなものよね」とカサーン。「そう思うと、私たちがまるで『セックス・アンド・ザ・シティ』に登場したみたいで、とても素敵じゃない?」「『Younger』は、現代版の『セックス・アンド・ザ・シティ』のようなものよね」とカサーン。「そう思うと、私たちがまるで『セックス・アンド・ザ・シティ』に登場したみたいで、とても素敵じゃない?」

画像: ザ・ウィングは、シャネルを含めた複数のブランドとのパートナーシップで収益を得ている

ザ・ウィングは、シャネルを含めた複数のブランドとのパートナーシップで収益を得ている

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