先月、75歳で亡くなった樹木希林さん。今年2月、66歳で亡くなった大杉漣さん。日本映画にとって欠くべからざるふたりが遺した作品が、奇しくも同時公開される

BY REIKO KUBO

 そして今年もうひとつ、嘘であってほしいと願ったのが、66歳とは思えないバイタリティで大活躍中であった大杉漣さんの訃報だった。転形劇場出身のバイプレーヤーは、北野武監督作『HANA-BI』の成功後、出演作を増やし、自在な演技と耳に残る声、そして偉ぶらない人柄で愛されてきた。そんな大杉さんの最後の主演映画となったのが『教誨師(きょうかいし)』。佐向大監督の企画に共鳴し、大杉さんが初のエグゼクティブ・プロデューサーを務めた作品だ。

画像: 刑務所や少年院等の施設で、収容者の宗教上の希望に応じ、礼拝や講話などを行う教誨師。孤独な心に寄り添い、聖書の言葉を伝えようとする教誨師(大杉)に、死刑囚たちはさまざまな表情を見せる

刑務所や少年院等の施設で、収容者の宗教上の希望に応じ、礼拝や講話などを行う教誨師。孤独な心に寄り添い、聖書の言葉を伝えようとする教誨師(大杉)に、死刑囚たちはさまざまな表情を見せる

 大杉さんが演じるのは、プロテスタントの牧師であり、拘置所で死刑囚と向き合う教誨師。様々な罪で服役する死刑囚は、心を開いて洗礼を受ける者、不安を隠してよもやま話に興じる者、あるいはかたくなに心を閉ざしたり、社会を呪ったりとさまざまだ。拘置所の教誨室で繰り広げられる死刑囚たちとの一対一のスリリングな対話は、やがて教誨師その人にも封印した過去との対峙を迫る。光石研さん、古舘寛治さん、烏丸せつこさん、玉置玲央さんらを相手に、大杉さんは時折ユーモアをまじえながら、生と死のせめぎ合いを迫力ある演技で演じ切る。そうして、日本でいまだ続く死刑制度に一石を投じたいと願う、佐向監督の思いにもみごとに応えてみせた。映画のラスト、緑揺れる畑のあいだの一本道に、淡い陽の光を背にして立つ大杉漣さんの姿がなんとも象徴的で、胸に迫る。

画像: 妻とともに車に乗り込んだはずの教誨師だったが、ふと周りを見回すと……。死の側から描いた生の物語を、淡い光の中に立ち尽くす大杉漣さんの姿が象徴的に締めくくる(©「教誨師」members) © KYOUKAISHI MEMBERS

妻とともに車に乗り込んだはずの教誨師だったが、ふと周りを見回すと……。死の側から描いた生の物語を、淡い光の中に立ち尽くす大杉漣さんの姿が象徴的に締めくくる(©「教誨師」members)
© KYOUKAISHI MEMBERS

『教誨師』
10月6日(土)より、有楽町スバル座、池袋シネマ・ロサほかにて全国ロードショー
公式サイト

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