急速に発展する母国・中国の市井の人々を見つめ続ける鬼才ジャ・ジャンクー監督。4年ぶりの新作は、ある男女の17年にわたる愛の変遷を描いた物語だ

BY REIKO KUBO

 北京オリンピックの開催が決まり、中国が活気づいた2001年。中国の炭坑町、山西省・大同(ダートン)の雀荘で、くわえ煙草で卓を囲む男たち。その一人、ビン(リャオ・ファン)の横に体を寄せて恋人チャオ(チャオ・タオ)が座る。そんな二人は、若者たちで賑わうディスコでも向かい合い踊っている。若者たちが『Y.M.C.A』の曲に合わせ体を揺らすフロアにビンの懐から落ちる拳銃。後日、その引き金を引いたことから、二人は離ればなれになってしまう。そして2006年、チャオはビンに会うため、三峡ダム建設が進む長江の客船に乗っている。それからさらに11年の月日が流れ……。

画像1: © 2018 Xstream Pictures(Beijing)- MK Productions - ARTE France All rights reserved

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 北京電影学院の卒業制作として発表した長編第一作『一瞬の夢』が、ヌーヴェルヴァーグの金字塔ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』に例えられた早熟な天才監督ジャ・ジャンクーは、続く『プラットホーム』、2006年にヴェネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞した『長江哀歌』、カンヌ国際映画祭で受賞した『山河ノスタルジア』など、急速に発展する中国のなかの市井の人々の物語を紡ぎ続けてきた。最新作『帰れない二人』では、ビンを求めるチャオに、大同から新疆ウイグル自治区まで実に7,700kmの旅をさせ、17年にわたる愛の変遷の物語を描いた。

画像: ジャ・ジャンクー(賈 樟柯) 1970年、中国・山西省生まれ。18歳で山西省の芸術大学に入り、油絵を専攻しながら小説を書き始める。その後、北京電影学院に入学。卒業制作の『一瞬の夢』(1997年)でセンセーショナルな国際デビューを飾り、第二作『プラットホーム』(2000年)がヴェネチア国際映画祭で受賞。『青の稲妻』(’02)、『世界』(’04)、『長江哀歌』(’06)、『四川のうた』(’08)、『罪の手ざわり』(’13)、『山河ノスタルジア』(’15)と国際映画祭で受賞を続ける中国のトップ監督 © BITTERS END

ジャ・ジャンクー(賈 樟柯)
1970年、中国・山西省生まれ。18歳で山西省の芸術大学に入り、油絵を専攻しながら小説を書き始める。その後、北京電影学院に入学。卒業制作の『一瞬の夢』(1997年)でセンセーショナルな国際デビューを飾り、第二作『プラットホーム』(2000年)がヴェネチア国際映画祭で受賞。『青の稲妻』(’02)、『世界』(’04)、『長江哀歌』(’06)、『四川のうた』(’08)、『罪の手ざわり』(’13)、『山河ノスタルジア』(’15)と国際映画祭で受賞を続ける中国のトップ監督
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「今回は、長い時間の物語にするつもりはなかったんです。前作の『山河ノスタルジア』が未来にも及ぶ、長いスパンの物語でしたから。では、なぜ『帰れない二人』がまた2001年から17年間の物語になったのか。中国は今、激烈な変化を遂げています。情報も溢れ、社会が平穏であるとも限らない。経済や政治をはじめ、様々な変化が直接的に人々に影響を及ぼしています。その中で、どう自分は生きるのかを描くには、長い時間の中で人間を観察し、歴史の中で人というものを考えなければならない。そして変化する社会状況の中で、より客観的に人を観て、作品として語るためには17年間という時間が重要でした」

 2001年にデジタルカメラを手に入れたというジャ・ジャンクーは、持ち前の天才的な映像センスで自ら、地元・山西省の工場、駅、ディスコ、カラオケなどでカメラを回し、当時の人々の表情を切り取っていた。また『長江哀歌』、『四川のうた』でも描いた変わりゆく三峡ダムの風景。過去に収めた映像を巧みに今回の映画に挟み込みながら、チャオとビンの移ろいゆく心の背景をリアルに浮かび上がらせる。恋、裏切り、未練、怒り、焦燥、諦念。男と女の感情を、雄大なランドスケープの中で研ぎ澄ましてゆく。

画像2: © 2018 Xstream Pictures(Beijing)- MK Productions - ARTE France All rights reserved

© 2018 Xstream Pictures(Beijing)- MK Productions - ARTE France All rights reserved

「なぜ物語の始まりが2001年なのか。この年は、多くの古いものが新しいものへと変わった過渡期、ただ単に新しい世紀が始まったというだけでなくてね。WTOへの加入、北京五輪の決定、インターネットの普及。時代的にシンボリックな事象が現れたのが2001年。そういったことが、中国で生きる人々にライフスタイルの変更を強い、同時に、人心にも変化をもたらしました。この作品は、ラブストーリーでもありますが、古い世界から新しい世界に入っていく人の心の変化という部分を描いています。ビンもチャオも、古い処世術、社会の原則、人としてのルールを持っていましたが、彼らが新しい世界に入っていったときに、物事に対処する方法を変える必要に迫られます。それはそのまま恋愛にも及んだと思います」

画像: 『帰れない二人』予告編 © 2018 Xstream Pictures(Beijing)- MK Productions - ARTE France All rights reserved youtu.be

『帰れない二人』予告編
© 2018 Xstream Pictures(Beijing)- MK Productions - ARTE France All rights reserved

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 今や中国は、アメリカのトランプ大統領をさえ脅かすアジアの超大国だ。だが上昇機運が続く母国を見つめるジャ・ジャンクーの瞳は憂いを帯びている。『プラットホーム』以来、ヒロインを務める女優チャオ・タオと、やはり天才カメラマン、ユー・リクウァイとのタッグで確立してきたジャ・ジャンクー映画は、前作『山河ノスタルジア』が彼の40代の集大成だと確信させた。しかし最新作ではフランス人撮影監督エリック・ゴーティエ(是枝裕和監督の『真実』も担当)と新たに組んで、失われゆく風景と人情を見つめた心震わすラブストーリーで、軽々と新境地の先へと踏み出してみせた。

『帰れない二人』
9月6日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
公式サイト

 

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