現在公開中の映画『スキャンダル』でニュースキャスターのメーガン・ケリーを演じた、オスカー女優のシャーリーズ・セロン。この役を演じるのに不安もあったという彼女だが、特殊メイクで見事メーガンになりきった

BY KYLE BUCHANAN, PHOTOGRAPHS BY AMY HARRITY FOR THE NEW YORK TIMES, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

 映画『スキャンダル』が描くのは、米国大手の保守系テレビ局、FOXニュースで起こったセクシャル・ハラスメント問題だ。この映画の制作は簡単にはいかないだろうとわかっていたシャーリーズ・セロンだったが、結末を先に言ってしまうと、その道のりはギリギリの綱渡り状態だった。

 それでも、共演するニコール・キッドマンとマーゴット・ロビーという二大スターとの撮影を開始する2週間前に、『スキャンダル』が白紙に戻りかけるとは彼女も予想していなかった。「危険な場所に向かって全速力で走っていたら、いきなり落とし穴に落ちたような気分だった」とセロンは語った。

画像: メーガン・ケリーを演じたシャーリーズ・セロン。「彼女の発言には、私には間違いなく問題だと感じられるものもあるけれど、それで彼女の闘いに対して抱いた私の感情まで帳消しになるわけではありません」

メーガン・ケリーを演じたシャーリーズ・セロン。「彼女の発言には、私には間違いなく問題だと感じられるものもあるけれど、それで彼女の闘いに対して抱いた私の感情まで帳消しになるわけではありません」

 プロデューサーのひとりとして、彼女は何とか3,500万ドル(約37億8,000万円)の予算を工面していた。だが2018年秋、制作会社のアンナプルナ・ピクチャーズが『スキャンダル』の制作から手を引いてしまった。彼らが多額の予算をかけてつくったクリスチャン・ベール主演の政治コメディ映画『バイス』(2018年)が公開になる、ほんの数ヶ月前のことだった。「投資家から契約を破棄したいと告げられたときは、耐え難いほどつらかった」とセロン。「特に今作の予算は『バイス』のだいたい半額くらいなのだから」

 セロンはすぐさま行動を起こし、最後の瞬間まで資金繰りと新たな配給会社探しに奔走したが、その時点でもまだ、主役のメーガン・ケリーを自身が演じることへの個人的な懐疑心と闘っていた。ケリーは冷徹なFOXニュースのキャスターであり、2016年に同局のCEOであるロジャー・エイルズを告発して失脚させた人物だ。左派からも右派からも煙たがられる存在のケリーを演じるには、『モンスター』(2003年)でアカデミー主演女優賞を勝ち取ったアイリーン・ウォーノス役のときと同様に、特殊メイクによる身体的な変化が必要だった。

 だが待ってほしい。何しろこれはシャーリーズ・セロンの話だ。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)で女戦士フュリオサを演じた彼女は、困難を前にしても決してひるんだりしない。「本当に恐怖を感じる場合ーーたとえば岩棚に立っていて、もし落ちたら悲惨な状態になりそうなときとかーー以外はね。最近はもう、そういうことはやるものかと思ってる」と先月、ウェストハリウッドで彼女は私に言った。

画像: 映画『スキャンダル』TOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー 公式サイト © GAGA Corporation youtu.be

映画『スキャンダル』TOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー
公式サイト
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 以下に彼女のインタビューをお送りする。

――メーガン・ケリーを演じると聞いた周囲の反応は?

 はっきり言ってひどいものだった。変な話ですが、彼女が周囲からどんなことを言われているのか、少しだけ肌で感じられました。だけど撮影に入る4週間前まで、私は彼女がどんな人物なのか考え続けました。そして映画で描かれる1年半の期間に絞って考えたとき、初めて心から彼女の味方をすることができました。

――『スキャンダル』にはきわどいところも描かれています。セクハラ問題に関するメーガンの振る舞いには共感できますが、彼女が過去に物議をかもしたシーンも、この映画には登場します。たとえば、彼女が番組で「サンタクロースが黒人なわけがない」と主張した、有名な出来事も。(註:2013年12月、メーガン・ケリーが自身の番組で、サンタクロースの人種にも多様性を求めるべきかという問題に触れた際の発言)

 彼女の発言には、私には間違いなく問題だと感じられるものもあるけれど、それで彼女の闘いに対して私が抱いた感情までが帳消しになるわけではありません。彼女の共感できない部分がひとつも描かれていなかったら、この役を演じたいとは思わなかったはず。もし、これが私についての映画だったとしたらーーそんなものはやってほしくないけれどーー欠点や過ちがたくさん描かれるだろうし、ちゃんと描いてほしいとも思う。いささか問題アリな放送局で働いているにしても、彼女や彼女のような女性たちが経験したことは、間違ったことだと心から思います。

――あなたはアフリカ系の養子2人の母ですから、「サンタは白人に決まってる」の部分を再現するのはいい気分ではなかっただろうと思いますが。

(きっぱりと)ありがとう! そうね、すごく大変でした。

――メーガンを演じるために、オスカー受賞歴のあるメイクアップ・アーティスト、カズ・ヒロがチームに参画しました。ゲイリー・オールドマンをウィンストン・チャーチルに変えた彼の技術の他に、メーガンになりきるために何が必要でしたか?

 カズがいなかったら、この映画はできなかったでしょう。でもつい最近、メイキング映像で自分の姿を見たとき、すごく変な気分になったんです。特殊メイクをしているのに、役柄になりきっていなかったから。彼女が部屋に入ってくるときの歩き方を、自分がしていなかった。きっと、長いこと自分の能力を示す必要に迫られ続けた結果、彼女はそういう歩き方をするようになったのだと思います。

――部屋に入ってくるとき、彼女はどんな歩き方をするんですか?

 顎を引いて、こんなふうに無表情で、どんな感情も見て取れない静かな態度で。まるで「私の姿からは何ひとつ読み取らせないわよ」とでも言っているかのように。感情を揺さぶる話題を伝えるときも、彼女は常に自分を出さないようにしているんです。だけど私は、役柄が強い態度をとるとき、それは心理的な欲求から出てくるものだと確信しています。

 たとえばアイリーン・ウォーノスの場合、目を大きく見開いて、口元はいつもきつく結んでいました。撮影の最初の週にそういう演技をしたときは、ただの頭のおかしな人にしか見えなかった。でもそれから悟ったんです、そういう態度は彼女の身長がたった5フィート2インチ(約157センチメートル)で、13歳のときからずっとホームレスとして生きてきたという事実から出てきたのだとね。そういう状況だったら、誰だって自分を強く見せようとするはず。周囲の男たちに対して「なめんなよ、あんたが思ってるより私はデカいんだぞ」って伝えるためにね。

 

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