現在公開中の映画『スキャンダル』でニュースキャスターのメーガン・ケリーを演じた、オスカー女優のシャーリーズ・セロン。この役を演じるのに不安もあったという彼女だが、特殊メイクで見事メーガンになりきった

BY KYLE BUCHANAN, PHOTOGRAPHS BY AMY HARRITY FOR THE NEW YORK TIMES, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

――この映画におけるメーガンの心理的欲求とはどんなものだと考えましたか?

 ここで描かれる1年半の間、彼女は途方もない倫理的葛藤を抱えていました。つまり、彼女はロジャーのことが心から好きだったし、彼のおかげで自分のキャリアと現在の地位が築けたと思っている。さらに彼女は、セクシャルハラスメントの告発者だと思われるのは絶対に避けたいと考える女性なのです。そして残念なことに、世間から被害者だという目で見られたくないという女性はたくさんいる。これは大きな問題です。この事件から1、2年後、私は女性フォーラムでメーガンが話しているのを見たのですが、その問題について話す彼女はすごく自己防衛的な態度でした。心の壁はますます高くなっていて、この問題に関しては法律家として、ジャーナリストとしての態度をますます崩さないようになっています。

――それは、被害者だと見なされないように?

 そうですね、そうやって心の傷を慰めているのだと思います。おそらくプライベートでは違うのでしょうーー私は知りませんが。ただ、映画を作るときにはそれが厄介でした。映画では、登場人物が感情を爆発させて生身の人間らしく見える瞬間がほしいのですが、そんなとき彼女ならこうするだろうという確証を得るのは無理なので。

――それでは、どうやって心の奥底にある感情を見せようとしたのですか?

 証言録取(註:米国の民事訴訟で、裁判に先立って証人を尋問すること)の場で、弁護士がメーガンにこう聞く場面があるんです、「長期に及ぶ影響などはありましたか?」って。その質問のバカバカしさに、感情が爆発しかけたことがありました。つまりね、一体どこから話し始めればいいと言うんでしょう? 何度目かのテイクで弁護士役の俳優がそのセリフを言ったとき、思わず感情が爆発しそうになって質問には答えなかったの。最終的に(監督が)そのときのテイクを使ってくれたから、すごく嬉しかった。

画像: 「ある特定の性別の人間しかこういう話を語ることができないかのように決めつけるべきではない」と語ったシャーリーズ・セロン

「ある特定の性別の人間しかこういう話を語ることができないかのように決めつけるべきではない」と語ったシャーリーズ・セロン

――物語のカギとなるシーンでは、(ジョン・リスゴー演じる)ロジャー・エイルズが、(マーゴット・ロビー演じる)FOXニュースの若手従業員に、スカートの裾を持ち上げて脚と下着を見せるよう強要します。プロデューサーとして、ロビー自身を傷つけない形でこの場面を描くため、どこに気を使いましたか?

 私が気をつけたのは、下着姿になったときに彼女が不快じゃないかどうか。私たち3人ーーニコール、マーゴット、私ーーは全員、“ヌード映画”ではない映画で裸になったことがある。私自身は、裸になるシーンですごく力をもらったこともある。予想外なシーンだと思いますが。

『スキャンダル』のそのシーンが描いていて、見る人を不愉快にさせているのは、ロジャー・エイルズが主導権を握っていて、女性は何も言えない立場にあるという事実です。この要素は軽視されていると思う。「おまえにとことん嫌なことをやらせてやろう」と言っているようなもの。権力者をなだめなければならないということが、身体的にレイプされること以上に、そのシーンを見るに耐えないものにしているのだと思います。

 こういったシーンを目にすると、多くの人はハッとするでしょう。特に男性はこう言います、「なぜ女性たちがあんなことをしなきゃならなかったのかわからない」とね。こういうシーンを作ると心がくじけそうになる。だって何度も人々がこう言うのを聞いてきたから、「これは女性のための映画だ、男性はまったく興味をもたないだろう」と。私たちの経験に男性が感情的に引き込まれたり、もしくは単純に動揺するだけでも、大きな意味があるんです。

――この映画を見て、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ問題を訴え出た女優たち、アシュレイ・ジャッドやミラ・ソルヴィノらのことを考えさせられました。そして、自らがトップに君臨し続けられるシステムを維持するために、ワインスタインがどのように彼女たちの訴えを無視したか、どうやって女性たちをお互いに競わせたのか、ということを。

 そうね、それに彼はあらゆる人に対してそう振る舞ったんです。女性たちをお互いに競わせる? 彼は本当に、ものすごくそれに長けていた。「うーん、この映画の話は、グウィネス(・パルトロウ)にも持って行こうかと思っているんだけど……」そんな風に言われたりすることがいくらでもあった。彼の口癖のひとつは、レニー(・ゼルウィガー)と私は仕事を得るため彼と寝た、というもの。彼には限度というものがなかった。性的な接待においてさえ、女性たちを競わせようとしたのです。

(このセロンの発言に対し、ワインスタインからは代理人を通して以下のコメントが届いた。「シャーリーズ・セロンはよい俳優であり、映画を素晴らしいものにするとともに売れるものにもしてくれる存在です。私が『サイダーハウス・ルール』(1999年)や『裏切り者』(2000年)といった映画で彼女を起用したのは、それが唯一の理由です。彼女とはいつもうまくいっていたから、率直にいって驚いていますが、こういった言動は映画と彼女の役柄のプロモーションのための、時代にあったやり方なのだろうと思っています」。このコメントを受け取った数時間後、もう一度文書が送られてきたが、それも彼女の演技を賞賛するもので、それこそが初期の映画で彼女をキャスティングした理由であると述べられていた。しかし2度目の文書では、彼女の発言に対する驚きについては削除されていて、代わりに以下のように書かれていた、「この件に関して彼女は、弁償を求めて私を訴えている女性側の弁護士の主張を根拠にしています」)

――『スキャンダル』は女性についての映画ですが、実は脚本家(チャールズ・ランドルフ)も監督(ジェイ・ローチ)も男性です。観客の中には意外に思う人もいるかもしれません。

 そうね、まず思いつく理由は、この話題を映画化しようと決意したのが女性ではなかったということ。脚本ができ上がる前に映像化権を得たのだったら、私もまずは女性に書いてもらおうと考えたでしょうね。だけど私が脚本家を指名したわけじゃない。脚本家がこの話を選び出し、すべて彼自身の手で書き上げたのです。

 だけどこれは、ある特定の性別の人間しかこういう話を語ることができないかのように決めつけるべきではないという、すごくよい例です。女性の脚本家や映像作家にはもっとチャンスをあげてほしいと思うけど、同時にこういった映画を作る過程から男性を完全に排除するのは間違ったことだとも思う。その話を語るのにふさわしい男性が見つかったのなら、そこに真の価値があるのです。

 つまりね、この手の問題にはいつも疑いを持っているべきだと思うし、私はこういった話題には極めてオープンだけど、改めてすべてをもう一度やり直すことになったとしても、まったく同じようにやると思う。私が今までに出会った男性たちはすごく思いやりのある人ばかりだし、彼らの問題意識は私に刺激を与えてくれる。そんな彼らをなぜ排除しなきゃならないの?

KYLE BUCHANAN(カイル・ブキャナン)
ロサンゼルスを拠点にするポップ・カルチャー記者。『ニューヨーク・タイムズ』誌のコラム「Carpetbagger」の記事を担当している。『ニューヨーク・マガジン』のエンタメ専門ウェブサイト「Vulture」の元シニア・エディターで、映画界の話題を担当していた。Twitter: @kylebuchanan

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