威風堂々としたオーラをまとい、異彩を放つ女優、シガニー・ウィーバー。約半世紀にわたるそのキャリアにおいて、彼女はイメージを決めつけられることも定義されることも拒んできた。現在71歳になるが、ともすればこれまで以上に意欲的に、彼女らしく、“遊び心も携えて”、前へ突き進んでいく

BY FRANK BRUNI, PHOTOGRAPHS BY CRAIG MCDEAN, STYLED BY JASON RIDER, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 数多の出演作のうち、シガニー・ウィーバーという女優をもっとも端的に表した作品は何だろう。奇妙な髪型をした、アンドロジナスなユニフォーム姿の彼女が宇宙を駆け巡り、凶暴な異星生物と戦う例の映画か。ゴリラと心を通わせるためにゴリラと同じ生活をした女性の伝記、それともメラニー・グリフィス扮する部下に慕われる上司の物語だろうか。刑務所に送り込まれたり、幽霊に取りつかれたりする話、あるいは、こともあろうに公共トイレでハリー・コニックJr.に絞殺されそうになるストーリーか。いや、どれも違う。

画像: シガニー・ウィーバー。2020年8月7日、ニューヨークにて撮影 コート¥365,000/セリーヌ バイ エディ・スリマン セリーヌ ジャパン TEL. 03( 5414)1401 ボウタイブラウス ¥184,000/ロロ・ピアーナ ロロ・ピアーナ ジャパン TEL. 03(5579)5182 パンツ(参考商品)/ Eftychia ssense.com

シガニー・ウィーバー。2020年8月7日、ニューヨークにて撮影

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ボウタイブラウス ¥184,000/ロロ・ピアーナ
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 何よりウィーバーの魅力を凝縮しているのは、2017年4月、深夜トーク番組「The Late Show」で彼女がスティーヴン・コルベアと演じたコントだ。舞台は、遥かかなたにある宇宙ステーションの診療室。人気コメディアンのコルベアは、ふてぶてしい受付係を演じている。そこに『エイリアン』でおなじみのユニフォーム姿のウィーバーが駆け込んでくる。

「エイリアンのしわざだわ!」
ウィーバーが叫ぶ。
「格納施設から飛びだしてきたエイリアンの寄生体が、私の体内に植えつけられたのよ」

コルベアが答える。
「ここは産婦人科じゃないんですがね」

しびれを切らしたウィーバーは説明しはじめる。
「私はエレン・リプリーよ。この30年間、たったひとりで人類を救ってきたのよ。5年か8年おきにね!」
そして再び訴える。
「じきに成長したエイリアンが、私の胸元を突き破って外へ出てくるのよ」

コルベアが平然と切り返す。
「私はランチに食べたブリトーが、体のどこから出てくるかなんて言いたくありませんが」

 コントの間じゅう、真顔を保っていたウィーバーの忍耐力は超人的だ。コルベアのテンポに引っ張られることも、観客と一緒に笑うこともなく、彼女は分身とも呼べる『エイリアン』の主人公になりきっていた。映画で見るような緊迫感と恐怖感を醸しだしていたウィーバーは、戦う女性ヒーローの原型、リプリーそのものだった。1997年公開の『エイリアン4』はいまだ完結しておらず、この安っぽいセットと間抜けな小道具で作ったショートコントがじつは『エイリアン5』なのではと、思わず見まがうほどに。

 彼女がこの番組に出たのは、新作映画のプロモーションのためではない。特別な目的があったわけでも、売名行為でもない。単にこの“風変わりなアドベンチャー”に参加したかっただけだ。これこそウィーバーの特筆すべき、素晴らしい本質だ。彼女は次から次へと型破りな挑戦をし、そのつど全力投球をする。

“全力投球”とは陳腐な表現ながら、彼女にぴったり合う言葉だ。『アバター2』(撮影は大方完了、公開は2022年12月に延期。続編も制作されている)で、ウィーバーは何度も水中撮影に挑んだ。当時、70歳も間近だったがそんなことなど問題ではない(現在は71歳である)。撮影前の準備として、彼女はフロリダ州のキーウエストとハワイにダイビングに行き、マンタを頭上に眺めながら海底に寝そべった。ベテランのミリタリーダイバーを指導するプロのコーチについて、大きな深呼吸をしたあと6分以上の息止めができるようになる訓練も受けた。ウィーバーは、こうした困難があってこそ面白いと思う。「この広い宇宙には私が想像したこともない素晴らしいものがまだまだあるんじゃないかって期待しているから。だからこれもできない、あれもできないって決めつけず、まずは試してみるの」

 同世代の女優では、メランコリーが似合うシシー・スペイセク、情熱的な役柄に長けたサリー・フィールド、名悪役のグレン・クローズなどが、ウィーバーとは違った個性を発揮している。より多分野で伝説的な役をこなす、ジェシカ・ラングやメリル・ストリープなどもいる。だが、ウィーバーほどエネルギッシュで不撓不屈のチャレンジ精神を備えた女優はほかにいないだろう。1970年代半ばにイェール大学の演劇大学院で学んだ強みと(ストリープは同級生だ)、毅然とした美しさを武器に、彼女は驚くほど多様なジャンルで圧倒的な存在感を放っている。

 今年の夏、私はマンハッタンのミッドタウンにあるウィーバーの自宅を訪れ、ソーシャルディスタンスを保ちながら、彼女と長いあいだ話をした。イーストリバーの美しい景色が見渡せる大きなレセプションルームに入った途端、人々にはあまり知られていない、ウィーバーの遊び心を感じさせるディテールに目を奪われた。上品なダイニングテーブルと、優雅に配されたカウチソファの間に、高い天井からロープで吊られた分厚い木製のブランコがゆらゆら揺れていたのだ。そのゆったりした心地よい雰囲気は、彼女の“肩の力を抜いた生き方”を象徴している。『アニー・ホール』(ウディ・アレンの隣に無言で一瞬登場。1977年公開)を皮切りに、45年間に出演した50作以上のフィルモグラフィにも、同じしなやかさが感じられる。

 『エイリアン』(1979年)と『エイリアン2』(1986年)の間には、『シガニー・ウィーバーの大発掘』というフレンチコメディで、著名なセックスセラピストのルース・ウエストハイマーと共演。ビル・マーレイや巨大なお化け“ステイパフト・マシュマロマン”が登場した幽霊退治のドタバタコメディ『ゴーストバスターズ』(1984年)ではゴーストに取りつかれる役を演じた。シリアスな役にくだらない役、恋に落ちる役、汗だくになって動き回るアクションヒロインまで、彼女が演じてきた役柄には一貫性も共通項もない。またキャリアの絶頂期にありながら、1988年公開の『ワーキング・ガール』ではメラニー・グリフィスとハリソン・フォードの陰で脇役に徹した。だがこのおかげでゴールデン・グローブ賞の助演女優賞を受賞し、同時に『愛は霧のかなたに』の主演女優賞も手にする。同作で悲運の霊長類学者ダイアン・フォッシーを演じたウィーバーの共演相手は、主要ロケ地のルワンダに棲む“シルバーバック”と呼ばれるマウンテンゴリラだ。ウィーバーは撮影中、ジャングルに分け入ってゴリラの群れの間に座った。「ゴリラの赤ちゃんが私の上にのぼってきて、おしっこをかけたり、髪の毛を引っ張ったりしたときは、彼らに手で触れないように細心の注意を払ったわ。ゴリラの母親は、食べるのに夢中で周りのことなんて気にしていないみたいなのに、人間が赤ちゃんに触れようものなら、ものすごい勢いで飛んでくるから」

 この撮影を通じて熱心な自然環境保護論者になったという彼女は、当時のことを懐かしそうに語る。「ゴリラたちと過ごしたあの経験は、“至上の喜び”に近いかもしれない。彼らは人間よりずっと直観的に生きているの。スマートに、食べること、寝ること、交尾することを最優先しながら」

 1989年のダブル受賞の2年ほど前にも、ウィーバーは『エイリアン2』で突き抜けた才能を披露し、最優秀主演女優賞にノミネートされている。同作の脚本家兼監督であるジェームズ・キャメロンは回想する。「あれは体力的にタフな撮影だったと思うよ。シガニーは複雑な舞台装置の中をあちこち駆け回って、バルブやハンドルが飛び出た場所に腕や肩や腰をぶつけていたから。その後何週間も彼女の体じゅうがあざだらけだったのを今も覚えているよ」。このあと『アバター』(2009年)でもウィーバーを起用したキャメロン監督は、『アバター2』の過酷な水中撮影にも彼女ならたじろがないことを知っていた。

 ウィーバーは決してためらわない。何も生まれつき自信に満ちていたわけじゃない。ただ彼女には常に、普通の道とは違うほうへ引っ張られているような、背中を押されているような、そんな感覚があった。ウィーバーには自分自身の存在を肯定するものが必要だった。なぜなら、ほかの人よりずっと背が高かったから。

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「11歳のときすでに今と同じ身長だったわ」。つまり180cmあったということだ。「巨大な蜘蛛みたいだったの」。彼女の本名はスーザン・ウィーバー。両親はスーザンを医者に連れていき、検査を受けさせた。「私の背がどんどん伸び続けるんじゃないかって、きっと心配したのよね」。背はそこで止まったが、“規格外の、生物学的に見て頑強な人”というレッテルは一生ついてまわり、彼女は普通とは違うレールの上を歩んでいくことになった。のちに彼女がスーザン(Susan)から、『グレート・ギャツビー』の登場人物に由来するシガニー(Sigourney)という、長身に似合う長い名前に変えたのは至極当然のことかもしれない。ウィーバーの父親はマンハッタンのテレビ局で重役を務めており、彼女もその街で育った。コネチカット州の寄宿学校を卒業後、スタンフォード大学で英語の学位を取得し、イェール大学の演劇大学院に入学。「演劇の教師たちには『君には才能がない』って酷評されたわ。でもすぐあとに彼らは少し言い直したの。『今の言葉は取り消すけど、君にはコメディしかできないよ。ドラマは絶対無理だから』って」

 彼女は言われるがまま、コメディの道に進んだ。それも出だしから、クリストファー・デュラング(大学院の親友で劇作家)の、荒唐無稽な不条理喜劇に出演した。「デュラングの『タイタニック』がいい例だけど、当時私が演じた奇妙な役柄について知ったら、そのあとなぜ私がこんなに多くのクレイジーな役を演じることになったかがわかるはずよ」。このコメディには「私、バギナでヤマアラシを育てている統合失調症を演じているうちに自信を回復したの」というセリフがあったらしい。この舞台出演後は「ほかのことがみんなひどく簡単に思えたわ」とウィーバー。

 新人発掘のために舞台を見に来たタレント・エージェントたちは、彼女の“威風堂々としたオーラ”のせいで役の幅が限られるだろうと評した。だがそれでもオーディションの話はいくつか舞い込み、そのなかのひとつが『エイリアン』だった。当時のリドリー・スコットはデビュー作を1本撮っただけの新人監督であり、これがメガヒット作になるとは思ってもみなかったウィーバーは、どこか懐疑的な気持ちで面接に臨んだ。「ズボンに、娼婦みたいなオーバーニーブーツを合わせて出向いたのよ。8cmくらいのハイヒールだったわ」と述懐する。

「なぜあんな格好をしたか自分でもよく覚えていないけれど、何となくSFっぽいと思ったのかもしれないわね」。スコットから台本について意見を求められた彼女は「どんよりと暗い雰囲気で、セックスシーンは非現実的ですよね(最終的にそのシーンはカットされた)」と無遠慮に言い放った。だがスコットは彼女の意見に関心を示し、耳を傾けた。「彼は最終的に、独自の官能的な優美さを漂わせながら、白黒はっきりした明快なストーリーを作り上げたの。それまでの映画にはなかった“美しくも恐ろしい世界”に私は夢中になったわ」

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『エイリアン』でウィーバーはスターダムにのし上がり、わずか数年後、『危険な年』(1982年)ではメル・ギブソンの相手役を演じた。ギブソンは彼女より背が低かったが、ロサンゼルスでの公開記念セレモニーの際に「一番高いハイヒールを履いてきてよ」と言ってくれたらしい。「こんなことは滅多に言われないから、つい話したくなってしまって」とウィーバー。多くの男優、プロデューサー、監督は、彼女が部屋に入るなり慌てて椅子に腰かけたという。隣に並んで背を比べられたくないのが、ありありとわかったそうだ。

『エイリアン』の続編の話がきたとき、出演するか迷った彼女は、まずキャメロンが書き上げた脚本に目を通した。するとリプリーは前作よりずっと存在感のある、物語全体のキーパーソンとして描かれていた。一作目では、乗組員に次々と襲いかかるエイリアンと死闘し、地球に帰還できた唯一の生存者にすぎなかった。だが続編では、宇宙船内で起きた悲劇が入植した「LV-426」惑星で再発しないよう、リプリーは宇宙海兵隊と惑星調査に赴き、壮絶な戦いを繰り広げる。それはまさに女性主導の戦争映画で、女性という性から“弱さ”を切り離した世界だった。そのうえこのタフなリプリーは、一部の男性乗組員には欠けている謙虚さと人間性をも備えているのだ。この新しいヒロイン像と、ウィーバーの緊張感あふれる迫真の演技が功を奏して、『エイリアン2』はエポックメーキングなフェミニズム映画として一躍脚光を浴びた。こうして彼女は戦う強い女性の象徴として、『トゥームレイダー』シリーズのアンジェリーナ・ジョリー、『ハンガー・ゲーム』のジェニファー・ローレンスなどのロールモデルにもなった。

 ウィーバーは強さだけでなく、あふれだすような母性を演じるのも得意だ。その表現が見事なあまりキャメロン監督は『エイリアン2』の一部のシーンを不要とみなし、カットして劇場公開した。元の脚本にあった、人工冬眠状態で(年をとらずに)宇宙を漂流している間に、娘が先に老いて他界したことをリプリーが知らされる場面だ。その悲しみが、荒廃した植民地で出会った少女をリプリーが必死に守る伏線となるはずだった。だがキャメロンは編集作業をしながら、ウィーバーが少女と演じたシーンだけでその絆の深さが十分伝わることに気づき、前置きを省いたのである。

『エイリアン2』の撮影中に、母親になることについて真剣に考えるようになったというウィーバーは、その数年後、夫の舞台演出家ジム・シンプソンとの間に女の子をもうけた。名前はシャーロット、現在30歳になる。出産後ウィーバーは家族を中心にして仕事のペースを少しだけ緩めた。これは同世代の女優たちにとって自然なことだったが、シシー・スペイセクやデブラ・ウィンガーのように一度緩めたペースを二度と戻さないタイプと、演劇教育を受けたストリープやウィーバーのように、すぐに第一線に復帰するタイプに分かれていた。ウィーバーにとって休業は難しいことでも特別なことでもなかった。デビュー以来ずっと、好きなリズムで仕事をしてきたし、特定のイメージを保ちたいと思ったこともなかったからだ。ハリウッドでの定住を特に望んでもいなかったウィーバーは、ニューヨーク州北部、アディロンダック山地の奥深くに160ヘクタールの大邸宅を購入し、そこで家族と多くの時間を過ごした。

「シガニーは何時間だってハイキングに出かけるし、凶暴なカミツキガメがいる湖なのに、そこで泳ぐのが一番幸せって言うような人なの」と語るのは、イギリスの監督兼女優のセリーナ・カデルだ。ウィーバーの親友で、ふたりは知り合って40年以上にもなる。初めて会ったのはロンドンの屋外のパブ。ふたりの共通の友人と一緒にウィーバーを待っていたカデルは、その日ウィーバーがどんなふうに現れたか今でもよく覚えている。「ガゼルみたいな生き物が、危なっかしい様子で跳びはねるようにして道路を横切ってね。気づいたら今度は壁を飛び越えて、私たちのところに座り込んできたのよ。シガニーの快活でクレイジーな性格にも圧倒されて『なんて変わった子!』って思ったわ」

ウィーバーは確かに人と違う。高い背と、イェールの演劇教師の冷評(悩んだからこそ、わざわざ私に話したのだろう)が引け目になって、自分には似合わず、演じられない役を前にすると、彼女はつまはじきにされた気がしたという。そもそも当時ロマンティックなヒロインといえば、小柄なブロンドヘアの女優の専売特許だった。だが彼女は負けずに、自分が得意とする、自分にふさわしい役を、自分らしく演じるために全精力を注いだ。

「ちょっと変わった、どこか普通とずれている女性の役をとにかくたくさん演じたわ」とウィーバー。作品に少しでも興味をもったら、何だって挑戦した。商業的すぎるとか、俗っぽいからという理由で出演を断ったこともない。気取ったり偉ぶったりするつもりはみじんもなかったからだ。

 ウィーバーと3本の映画で共演した俳優ケヴィン・クラインとは、からかい合いながら、現場に互いのエゴや自意識を持ち込まないようにしてきた。クラインは、ふたりともそのことに感謝しているからこそ、友情が長続きしていると言う。ホワイトハウスを舞台にした『デーヴ』(1993年)で初めて共演したとき、ウィーバーはクラインの背後で、スタッフたちにあくびや居眠りのポーズをさせて写真を隠し撮りしていたそうだ。「最後にその写真をまとめてアルバムを作ってくれてね。ものすごい力作だったから、相当時間がかかったはず。あんな手の込んだいたずらをされたのは初めてだったよ」

 その肩肘張らない、のびやかな性質は一貫していて、彼女は同世代の俳優たちのようにアカデミー賞狙いの作品だけに出たり、選り好みをしたりはしなかった。1994年に私が初めてインタビューをしたとき、彼女はこんなふうに話してくれた。「ときどき(ストリープと共通の)エージェントに、私だって『ソフィーの選択』(ストリープ主演、1982年)や『愛と哀しみの果て』(ストリープ主演、1985年)みたいな映画に出たいって、ぼやいたものよ。だからといって、そのために自分自身で何か特別に動いたわけじゃないんだけれど。ただ私は“正統派”じゃないって感じていたの。“シリアスな役が似合う女優”と聞くと、私は違うなと。自分はアーノルド・シュワルツェネッガーとアイヴァン・ライトマン(『ゴーストバスターズ』等の監督)の掛け合わせで、メリル・ストリープやグレン・クローズの要素は雀の涙ほどしか持ち合わせていないと思っていたから」

 だがそんなふうに話しながらも、当時おとめの彼女は『死と処女』(1994年)で主演を務め、そのプロモーション活動をしているところだった。彼女が演じたのは、過去に自分を拷問した容疑者を見つけ、その男を監禁するという女性だ。ブロードウェイの舞台版(『死と乙女』)ではグレン・クローズが演じた役である。1990年代のスクリーンに頻繁に現れた“死”をテーマにした作品を通して、ウィーバーは女優として徐々に自信をつけていった。時がたつにつれてストリープやクローズが、ユーモラスな役を演じるようになる一方で、ウィーバーは以前よりシリアスな役を任されるようになった。『アイス・ストーム』(1997年)では、冷酷で魅惑的な不倫妻に扮し、再びクラインと共演した。彼女がもっと多くの人に観てもらいたかったという『マップ・オブ・ザ・ワールド』(1999年)では、身に覚えのない児童虐待の疑いで逮捕される女性を演じた。

 これらの人物も“アウトサイダー”ではあるが、以前の役とは違って、ひっそりと地味で、哀愁を帯びている。もちろん彼女らしい遊び心は失わず、1990~2000年代には奇抜な演出の小規模作品にも多く登場した。『コピーキャット』(ハリー・コニックJr.と共演したサスペンス。1995年)のような大衆映画や、『ギャラクシー・クエスト』(傑作SF作品をパロディ化したカルトムービー。1999年)といったコメディがその一例だ。

 それ以降は彼女のキャリアを象徴してきた“折衷主義”がますます顕著になり、ここ10年間、活躍の幅は広がるばかりだ。ブロードウェイでは、デュラングがチェーホフを現代パロディ化した『ワーニャ、ソーニャ、マーシャ、と、スパイク』(2012年初演)に出演。ケーブルテレビ番組では『ポリティカル・アニマルズ』(2012年)でヒラリー・クリントンを彷彿させる国務長官に扮し、映画ではホラーからアニメまで多様なジャンルで活躍している。どんな意外な場所にも足を踏み入れる彼女は、英『ドクター・マーティン』や仏『コール・マイ・エージェント』といったコメディドラマにゲストとして登場したりもした。『スポンジ・ボブ/スクエアパンツ』や政治風刺番組『フル・フロンタル・ウィズ・サマンサ・ビー』では自らをネタに笑いをとって楽しんでいる。型破りなキャリアを築いてきた彼女は「若さを武器にしたことがないから年齢はさほどネックにならない」と言いきる。多くの女優が名乗り出て告発したセクシュアルハラスメントにも、屈辱を味わうような出来事にも遭ったことがないという。彼女はやはり正真正銘のリプリーなのだ。「ある意味、デビューしてすぐに火炎放射器を手に駆け回るヒロインを演じられたのはラッキーだったのかも」とウィーバーはいたずらっぽく笑った。

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 確かに、一時代前にこの世界に入った彼女はラッキーだった。今、俳優の“ブランド”は細かく定義され、ソーシャルメディアでイメージを保つことは、その人なりの戦略を立て、実績を積み重ねていくことと同じくらい重要になっている。ウィーバーやクラインのエスプリはもっと自由だ。前はあっちを向いていたから、今度は違うほうへと、思うままに進んできた。彼らは振り幅の大きい演技力があってこそ、充足感を伴った息の長い活躍ができるのを知っているのだ。ウィーバーの最新出演作は、今年末から来年頭にかけて3本封切られる予定だ。内容は極秘だという『ゴーストバスターズ/アフターライフ』、“プラダを着ていない悪魔”とも呼ぶべき出版エージェントを演じた『サリンジャーと過ごした日々』。そして、小さな町を舞台に、ウィーバー扮する繁盛した不動産業者と、クライン(再び共演)が演じる地元の便利屋との関係や、この女性が隠していたアルコール依存症が招く問題を描いた『The Good House(邦題未定)』である。

『ゴーストバスターズ/アフターライフ』と同様に、『アバター2』の内容については「ノーコメント」とのことで、水中撮影の目的はわからない。だが、彼女とほかのキャストたちが、巨大な水槽の中で何度も撮り直しをする間、口を開けておく必要があったことだけは教えてくれた(普通水中では口を閉じるはずだが)。腰回りにウエイトをつけていたので、プロのダイバーが急いで彼女を水面に浮上させては空気を吸わせたらしい。これを聞いて、思わず私は言ってしまった。「撮影中に『こんなのナンセンスよ』って一度も言わなかったんですか?」

「たしかにちょっと怖かったわ。でも不安を減らすために訓練したわけだし、私は絶対やり遂げたかったの。『ああ、彼女はもう年だから無理だよね』って誰にも思われたくなかったから」いったいウィーバーには、まだ足を踏み入れていない地などあるのだろうか。彼女は嬉々としながら『My Daughter Keeps Our Hammer』(ブライアン・ワトキンス原作、2014年初演の舞台劇)の映画化のプロジェクトについて語りだした。「ちょっと厄介な母親を演じる予定よ。この母親の親友は羊でね、羊と一緒にメロドラマを観たりするの」

 いかにもスター然とした役柄は、ほかの俳優たちに任せておこう。だが異星人や羊や笑いとも無縁なスターたちはどうもがいても、ウィーバーの高みにはたどりつけないはずだ。

HAIR BY SERGE NORMANT AT STATEMENT ARTISTS USING SERGE NORMANT. MAKEUP BY BRIGITTE REISS-ANDERSEN AT A-FRAME USING DIOR BEAUTY. SET DESIGN BY STEFAN BECKMAN AT EXPOSURE NY.

PRODUCTION: PRODN. MANICURE: MEGUMI YAMAMOTO FOR SUSAN PRICE NYC. DIGITAL TECH: NICK BRINLEY. PHOTO ASSISTANTS: ALEX HOPKINS, PETER DUONG AND NICHOLAS KRASZNAI. SET ASSISTANT: EMMA MAGIDSON. TAILOR: CAROL AI. STYLIST ASSISTANT: ZANE LI

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