パティ・ジェンキンスは、『ワンダーウーマン』の続編の監督として高額な契約を結び、映画業界の歴史に名を残した。同作品はHBO Max(アメリカの動画配信サービス)でも公開されることに決まり、「3作目は?」 と聞かれた彼女は、「今は様子見」だと話した

BY KYLE BUCHANAN, TRANSLATED BY NAOKI MATSUYAMA

 パティ・ジェンキンスが監督した1作目『ワンダーウーマン』は、女性ヒーローの力が男性ヒーローに引けを取らないことを証明した、革新的な映画だった。その続編となる『ワンダーウーマン1984』は、1作目とはまた違った意味で、映画界に革新をもたらすことになる。10億ドルの興行収入が見込まれていたこの作品が、ワーナー・ブラザースとその親会社であるAT&Tが多大な力を注いでいるストリーミングサービス「HBO Max」で劇場公開と同日に配信されることになったのだ。

画像: PATTY JENKINS(パティ・ジェンキンス) 続編のための困難な契約交渉について、ジェンキンスは「はじめてのスーパーヒーロー映画製作で『ワンダーウーマン』のようにはうまくいかなかった監督たちと、同じくらいのギャラはもらうべきだと思いました」と語った PHOTOGRAPH BY NATALIA MANTINI for The New York Times

PATTY JENKINS(パティ・ジェンキンス)
続編のための困難な契約交渉について、ジェンキンスは「はじめてのスーパーヒーロー映画製作で『ワンダーウーマン』のようにはうまくいかなかった監督たちと、同じくらいのギャラはもらうべきだと思いました」と語った
PHOTOGRAPH BY NATALIA MANTINI for The New York Times

 パンデミックの影響で多くの劇場が閉鎖を余儀なくされるなか、自身の映画やニキ・カーロ監督のディズニー映画『ムーラン』のような大ヒット作品の公開が延期される状況を見てきたジェンキンスは、「今年は、女性が興行で大きな収益を生み出しているということがニュースになってたはずなんですけどね」と、もらす。「でも、もっと重要なことは、映画館で映画を観たいと切望している観客に映画作品がきちんと届くということです」

『ワンダーウーマン』の数十年後を舞台にした、続編『ワンダーウーマン1984』は、超大型作品に飢えたファンにとって盛りだくさんの内容だ。時は1980年代。ガル・ガドット演じるスーパーヒロインは、世俗にうずまく欲望を煽る大企業家、マックスウェル・ロード(ペドロ・パスカル)と、コミック版ワンダーウーマンに登場する、典型的な文系女子が悪役チーターに変貌し宿敵と化した、バーバラ・ミネルヴァ(クリステン・ウィグ)との争いに引きずり込まれていく。

画像: ジェンキンス監督作品『ワンダーウーマン1984』のワンシーンに登場する、ガル・ガドット WONDER WOMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC. Wonder Woman 1984 © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ジェンキンス監督作品『ワンダーウーマン1984』のワンシーンに登場する、ガル・ガドット
WONDER WOMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC. Wonder Woman 1984 © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『ワンダーウーマン1984』は、数あるワーナー・ブラザースの大ヒット作のなかから、初めてHBO Maxで配信される作品となったが、これで終わりということではない。ここ最近で、ワーナー・ブラザースは2021年公開予定の全作品をHBO Maxで配信することに合意し、一部の作品は、映画館公開中に配信されるということもあり、映画製作者や製作パートナーの怒りを買った。2020年12月17日に行ったインタビューで、ジェンキンスは『ワンダーウーマン1984』が、劇場公開のタイミングで各家庭でも見られることに関しては納得することができたが、彼女の未来は、ワンダーウーマンシリーズとともに、ワーナー・ブラザースがもう一度、劇場公開をベースとしたモデルにコミットするかどうかにかかっていると話した。

 ここでは、その会話の一部を編集したものを紹介する。

―― 1作目の契約では続編の製作は保証されていませんでした。いつ頃から次回作の交渉を始めたのですか? そして、続編に求めていた条件を達成するのは難しいことでしたか?

『ワンダーウーマン』が公開されて、成功を収めたすぐ後から話が持ち上がったんですが、契約交渉がとても難航して時間がかかってしまいました。でも、『ワンダーウーマン』を撮った後の私だからこそ、それ相応のギャランティをもらってもいい。少なくとも、初めてのスーパーヒーロー作品で『ワンダーウーマン』ほどにはうまくいかなかった監督たちと同じくらいは、もらうべきだと思いました。

―― この作品で約800万~900万ドルほど(約9~10億円)稼いだと報道されていますが、これは女性監督としては記録的な数字ですよね。

 最高の気分です。本当に。ただおかしなことに、こんな大金を手にしたことがなかったからか、どれほどもらったのか自分でもうまく理解できていません。「なるべくしてこうなったのか」という疑問に気を取られて、きちんと状況を飲み込めなかったんです。

―― この映画の舞台を1980年代にしようと思ったのは、なぜですか?

 本格的な『ワンダーウーマン』の世界観を映画化したかったのですが、本当に伝えたかったのは、私が、いま世界で起きていると感じていることです。重い話にはしたくないのですが、――実は気候変動をテーマにした映画だということを観客に知ってほしいと思っているわけでもなく―― この世界は失われようとしているのです。より多くを求め続けるとき、度を過ぎた私たちは、この世界にとっていったいどのような存在なのでしょうか? 自分の生活を変えることは容易いことではありませんが、変えていかなければすべてを失うことになります。1980年代は、まだこのように私たちの欲望に支払うことになる対価を知らない時代でした。そういった意味で理想的な舞台だったんです。

画像: 『ワンダーウーマン 1984』BD/DVD/デジタル【予告編】 youtu.be

『ワンダーウーマン 1984』BD/DVD/デジタル【予告編】

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―― そういった意味では、ペドロ・パスカルが敵役として、どこかドナルド・トランプにも似ている金髪のビジネスマンを演じているのは、興味深いです。ただ、彼が敵役として非常に共感できる背景が与えられていますよね。

 1980年代の悪役の壮大さはとても気に入っています。でもこれに関しても、少し変わったことをやってみたかったんです。単に1980年代の型にはまったビジネスマンをわざとらしく見せるのではなく、そういったビジネスマンをウォールストリート・ジャーナル紙で見て、自分もそうなりたいと思っている移民の人という設定にしたんです。だから、彼は髪をブロンドにして自分が白人に見えるようにする。

 この映画では誰もできなかったことをいくつかやっています。まず、映画のなかで誰も死にません。そして、主人公は最後に会話で敵に勝ちます。私としては、「トロイの木馬」のようなことをやったつもりです。スーパーヒーロー映画に求められるものをすべて満たしていると思わせながら、実は、そのような期待を覆すことを狙いました。この映画を見ている若い世代に「自分の中にあるヒーローを見つけなさい」と伝えようとしているんです。

―― 主人公がもたらす“勝利”が、誰かを物理的に倒す能力以上のものに基づいているスーパーヒーロー映画は珍しいですよね。

 だって、この世界ではそれではダメだ、ということを私たちは思い知りましたよね?

―― 果たして本当にそうでしょうか?

 どこかの国を爆撃したとしても、40年後くらいにわれわれに迫っているリミットまでの時間を止めることはできない。つまり、大切なのはそういうことなのです。

―― そのような真摯に向き合う気持ちを映画で表現するために、戦わなければなりませんでしたか?

 今はもう必要はありませんが、これまでのキャリアにおいて戦ってこなければならなかったし、これからも戦い続けるつもりです。この世界では、皮肉や厭世観に執着する傾向があります。理解はできますが、もっと勇気を持つべきだと思うんです。本当の悲劇や愛を経験すると、どちらも皮肉や厭世観でそれらを語れるものではありません。監督としてのキャリアをスタートした頃、まさにそういったムードを作り始めていたクールな子たちがそばにいたので、「私はそういうことはしない。感情や誠実さを表現しようとすることで恥ずかしい思いをするかもしれないけど、その方法がわかるまではやめない」と、自分に約束したんです。

―― そういった考えは、1作目の『ワンダーウーマン』に、簡単に反映させることができましたか?

 ワーナー・ブラザースには、この映画のことをよく理解していなかったり、作品に自信を持てなかったりする人がたくさんいました。「笑いが強すぎる」「主人公が柔らかすぎる」などとも言われました。でも、試写会の夜、すべてがガラッと変わりました。私が反応してほしいと思っていた部分で、観客が反応したり興奮したりするのを見られたのは素晴らしい経験でした。でも今回はそれが見られないのが悲しいです。本当に残念。

――『ワンダーウーマン1984』は、もともと2019年末に公開される予定でした。延期されない方がよかったと思いますか?

 とりあえず、冬に公開してほしくはなかったですね。2020年夏に公開することになっていたのに、2019年に大作がないということで……。配給会社との戦いでした。私はその頃、別件でシリーズもののTVドラマの撮影していたのですが、突然、公開日を7カ月繰り上げたと発表されたんです。『ワンダーウーマン』の時よりも、はるかに限られた時間で映画をつくることになりました。彼らには、「なんで製作期間を短縮して、よい作品をつくることができる保証がなくなるような真似をするのか」と言いましたね。

 一年中、そのことで議論していたんですが、ドラマの方は全話撮ることを諦めて、最初の2話分だけをやることにしました。それで80ページの脚本を書くのと、TVドラマの演出を同時に急いでやらなければならなかったんです。なので、最終的に公開日が後ろ倒しになったのはラッキーでした。予定どおり公開されていたら、あまりよい映画にはなっていなかったでしょうね。

画像: PHOTOGRAPH BY NATALIA MANTINI for The New York Times

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―― パンデミックが加速し、映画館が閉館し始めた後、『ワンダーウーマン1984』は当初の2020年6月の公開日から8月、10月、そしてクリスマスの日へとずれていきました。映画公開を延期し続けることになったことは、どのような経験でしたか?

 興味深い体験でした。何度も電話がかかってくるんですが、どれも自信がないものなんです。皆で座って「とりあえず3カ月後ということにして、その時にどうなっているか見てみよう」と話したりしてました。不思議な体験でしたね。大作映画の話を配給会社やマーケティングのトップをもってしても、みんな「じゃあ、まあ10月にしておきますか」みたいな感じだったので。

―― HBO Maxでの公開の連絡が来たのは、いつでしたか?

 公表される2~3週間前でした。年中そうなってしまうんじゃないかと恐れていたので、変な感じでしたね。こういった作品では、多くの興行収入を上げないといけないので、配給会社の人たちは皆、「絶対にやらない」って口を揃えてたのに――。だから、実際に(配信を)提案されたときはショックでした。すぐに同意したわけではないです。非常に長い時間をかけて、やりとりをしました。ただ、いま彼らがやっていることを見ると、実際に私たちは「ノー」と言えたかというと、そうとは言い切れない。私は、この作品では、都合よくその提案に反対しなかったわけです。

―― ワーナー・ブラザースは、すべての映画をHBO Maxで配信するのは一年間の計画だと言っていますが、その説明に懐疑的な人もいます。このようになる前の状況に戻るのは、果たして可能なのでしょうか?

 今回の対処は一時的なものだと信じたいのですが、そうとは言い切れません。でも、きっとどこかの映画配給会社が従来の劇場公開モデルに戻し、業界を騒然とさせることになると思います。偉大な映画監督が皆、その会社と仕事をするようになりますから。このような根本的な変化(劇場公開作品をストリーミングサービスに移行させること)を、特にアーティストに相談することなく行う配給会社からは、質の高い映画製作者がどんどん離れていくでしょうね。

―― 次は『スター・ウォーズ』シリーズの新作映画『ローグ・スコードロン』を監督されますが、その後、『ワンダーウーマン』の3作目を監督する予定はありますか?

 どうでしょう、今は様子見ですね。本当に分からないです。もしいろいろと条件が揃って、劇場公開モデルが可能であれば、3作目をやりたいという気持ちはすごくあります。そうでない場合は、わかりません。

画像: 『ワンダーウーマン 1984』ブルーレイ&DVDセット(2枚組)¥4,980 発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 販売元: NBC ユニバーサル・エンターテイメント WONDER WOMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC. Wonder Woman 1984 © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved. Amazon Prime Video、dTV、U-NEXT、ひかりTVほかでデジタル配信中

『ワンダーウーマン 1984』ブルーレイ&DVDセット(2枚組)¥4,980
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 販売元: NBC ユニバーサル・エンターテイメント
WONDER WOMAN and all related characters and elements are trademarks of and © DC. Wonder Woman 1984 © 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

Amazon Prime VideodTVU-NEXTひかりTVほかでデジタル配信中

本記事の著者、カイル・ブキャナンは、ロサンゼルスを拠点に活動するポップカルチャー・レポーター。コラム「The Projectionist」を執筆中。以前は『New York Magazine』のエンターテイメントサイト「Vulture」のシニアエディターとして映画業界を取材していた。@kylebuchanan
この記事は、別バージョンで2020年12月22日発行のニューヨーク版『The New York Times』のCセクション1面に、「She Also Knows How To Fight」というタイトルで掲載された

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