「一番好きな料理はイタリアン。お菓子は、あんこよりも断然クリーム派。趣味は「旅」で も、国内旅行は仕事で訪れる撮影ロケ地くらいの経験値。日本の伝統文化や和の作法に触れないまま、マチュアな年齢となってしまった私ですが、この度、奈良の煎茶道美風流に入門させていただくことになりました。」そんなファッション・ディレクター、菅野麻子さんが驚きと喜びに満ちた、日本文化「いろはにほへと」の学び路を綴る。連載十二回目は、やまと薬膳料理教室のお話です

BY ASAKO KANNO

 大好きな奈良で、もうひとつ素敵な出会いがありました。食養料理研究家のオオニシ恭子先生です。

 煎茶道美風流に入門する前、新茶のお茶摘み会に参加させていただいたことを「は」の回でお話ししました。美風流のお家元と、自然茶師の健一さんが運営する奈良の茶農園「瑞徳舎」でのイベントです。

画像: 中級クラスでつくったスペルト小麦の玄米ひじきパン。衝撃の美味しさと、思ったよりは簡単なレシピで、家で挑戦してみたいナンバーワンです

中級クラスでつくったスペルト小麦の玄米ひじきパン。衝撃の美味しさと、思ったよりは簡単なレシピで、家で挑戦してみたいナンバーワンです

 そのお茶摘み会の際、健一さんが、奈良を拠点に活動するオオニシ恭子先生のお話をしてくださったのが、ことの始まりでした。「食養法の第一人者で素晴らしい先生ですよ」と。すると、お茶摘みに参加していた女性が、偶然にもオオニシ先生が主宰する薬膳教室の生徒さんで、料理教室に通いはじめてからどれだけ自身の体質が改善したかを、とうとうと話してくれたのです。

 実は、私の東京の友人たちもオオニシ先生とおつきあいがあるのは知っていました。かねてから先生の活動にはとても興味があったので、奈良で聞いた情報をきっかけに、急に私のなかの健康志向スイッチがオン。とまらなくなってしまいました。お茶摘みから帰宅するやいなや、東京の料理教室に関するインフォメーションを問い合わせてみることに。すると、ラッキーなことに、ちょうどコースの始まったタイミング。翌月からは「やまと薬膳メディスナルクッキング お料理教室」の初級クラスの生徒となっていたのでした。

画像: 初級クラスの最終回のメニュー。上から時計回りに、白菜と大根のサラダ、車麩のフライ、玄米、しぐれ味噌。右上のデザートは、もちきびとサツマイモのモンブラン

初級クラスの最終回のメニュー。上から時計回りに、白菜と大根のサラダ、車麩のフライ、玄米、しぐれ味噌。右上のデザートは、もちきびとサツマイモのモンブラン

 ここまで読んだ方は、自分ですらびっくりの迅速な動きに、きっと私が大の料理好きなのだろうと思われたかもしれません。が、食べることは大好きでも、料理は苦手。そこそこ作れるものといえば、初めて一人暮らしを経験したイタリアで覚えたパスタくらいというお粗末レベル。

 ただ、子供の頃から母が有機食品志向だった影響や、インドに通い始めるきっかけも最初はアーユルヴェーダだったこともあり、食事療法について学んでみたいとはかねがね思っていました。奈良でのお茶摘みをきっかけに、背中をぐいっと押されたようです。

画像: オオニシ恭子先生。東京ではいつもスタイリッシュな洋服姿の先生が、奈良では上品な和服姿で迎えてくださったのも印象的でした。後ろの屏風は、画家だったという先生の旦那さまが描かれたもの

オオニシ恭子先生。東京ではいつもスタイリッシュな洋服姿の先生が、奈良では上品な和服姿で迎えてくださったのも印象的でした。後ろの屏風は、画家だったという先生の旦那さまが描かれたもの

 初級クラスで学んだのは「食の方程式」。“体質”は生まれもったもの、でも“体調”は後天的なもので、食べ物や環境で変わるのだそう。今の自分の体調を35の項目からセルフチェックし、体が陰性に傾いているのか、陽性に傾いているのかを診断します。その分類は、以下の7つのタイプです。

① 極陰 ② 陰 ③ やや陰 ④ 中庸 ⑤ やや陽 ⑥ 陽 ⑦ 極陽

 極陰は体が冷え切って衰弱している状態。極陽は逆に体に熱を持ち、喜怒哀楽が激しく、エネルギー過多。どちらも不調や病気を発症しやすい状態です。心も体も健康でいるには、③④⑤を目指すのがよいとのこと。それを調整するのが食べ物です。食べ物や調味料にも陰陽があるので、体調が陰の時には陽の食べ物を体に取り入れ、陽の時には陰の食べ物をとる。こうして体のバランスをとってゆくという方程式です。

画像: やまと薬膳・弥生のお食事会では、丁寧に手作りされた10品以上のお料理が体にしみわたります。写真は、華やかなちらし寿司の御前

やまと薬膳・弥生のお食事会では、丁寧に手作りされた10品以上のお料理が体にしみわたります。写真は、華やかなちらし寿司の御前

 現在、中級クラスに通っていますが、食療法はあまりに奥が深く、私の浅い知識では、ここでさらりと説明することは不可能です。しかも、学んだことを日々実践しているかといえば、先生ごめんなさい!と謝りたくなるような食卓であることも白状しましょう。けれど、知識として知っているのと知らないのとでは大違い。そして何より、月1回、オオニシ先生にお会いできるのがとても刺激的で、楽しいのです。

 30年以上もヨーロッパで暮らし、ベルギーを拠点にオランダ、フランスでその土地にあった食養法を広めてきたオオニシ先生。現在は文字通り、東京はじめ、全国をかけまわっていらっしゃいます。こんなに多忙でイキイキとした女性が、先生と同年代のかたでいらっしゃるかしら。その豊富な経験談や、先生のチャーミングなお人柄、そして、みなの体調相談にもすぐに的確なアドバイスをくださるのも、ありがたい。先生の理論が正しいことを、まさにご自身で実証している魅力的なオオニシ先生。お会いするたび、歳を重ねたからこそ醸し出せる美しさを放つ女性になれたら、と思うばかりです。

画像: オオニシ先生の食事会のあと、仲間たちと訪れた長谷寺は圧巻でした PHOTOGRAPHS BY ASAKO KANNO

オオニシ先生の食事会のあと、仲間たちと訪れた長谷寺は圧巻でした
PHOTOGRAPHS BY ASAKO KANNO

 オオニシ先生の奈良の拠点は、長谷寺門前に位置する古民家「源氏物語」。毎月、歳時料理をテーマにお食事会を開催されています。去る3月、弥生のお食事会へ、美風流の先輩と、そこに健一さんの素敵なお仲間も加わり、ともに訪問する機会に恵まれました。美風流への入門、オオニシ恭子先生との出会い、そしてお茶摘み会から1年後に、美風流の仲間たちとオオニシ先生のお料理を囲んでいる自分に驚きと喜びを感じます。奈良が運んでくれた、素敵な出会いに感謝です。

オオニシ恭子のやまと薬膳

菅野麻子 ファッション・ディレクター
20代のほとんどをイタリアとイギリスで過ごす。帰国後、数誌のファッション誌でディレクターを務めたのち、独立し、現在はモード誌、カタログなどで活躍。「イタリアを第2の故郷のように思っていましたが、その後インドに夢中になり、南インドに家を借りるまでに。インドも第3の故郷となりました。今は奈良への通い路が大変楽しく、第4の故郷となりそうです」

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