BY LINDSAY TALBOT, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
マルニのクリエイティブ・ディレクター、フランチェスコ・リッソ。現在35歳だが、その幼少期はフェリーニの映画さながらだ。サルデーニャ島の近くで生まれ、4歳まで両親と帆船で地中海を回遊して過ごした。その後、ジェノヴァの16世紀に建てられた豪奢な邸宅に住む。そこには3人の祖父母もいて、国外からの華やかなゲストがしょっちゅう訪れた。
「家族には実に多彩な顔ぶれが揃っていました」。16歳でフィレンツェのポリモーダにてファッションを学ぶ。安定を求めての “エスケープ”のはずだった。その後、NYのファッション工科大学とロンドンのセントラル・セント・マーチンズへ。「くらくらするような毎日で、常に自分の安全地帯の圏外にいました。おかげで私は大胆でオープンマインドになりました」
彼は2008年から8年間、プラダのウィメンズ・デザインとスペシャルプロジェクト部門で活躍した。2016年、マルニを1994年に立ち上げたコンスエロ・カスティリオーニに代わり、同ブランドの舵取りを任された。インパクトのあるフラワープリントや上品だがどこか違和感のあるシルエットといった、このミラノ発のブランドらしさと名声を守りつつも、彼はそこに自身の美意識を加えることも忘れていない。
その美意識は多様で、ディズニー・アニメから18世紀のタータンチェック柄ハンティングジャケットまで、あらゆるものに内包されている。「私を突き動かしているのは、“retrovolution”(革命的回帰)と私が名付けたコンセプトです。伝統について今まで学んだことを総動員して、それを超えていくという意味です」
「父が、私に数の数え方を教えているところだと思います。どこかコルシカ島の近くですね」
「私の最初のテディベアで名前はニンナ。ニンナのセーターとそっくりなものをネパールで作ってもらいました」
「イザベラ・ウェンツェルの写真《テーブル3》(2010)。この写真のもつ脱構築への誘いと物事を刷新する力が大好きです。これを見ていると、私も自分の心をさらけ出そうと思えるのです」
「15歳の頃からずっと、60年代ヴィンテージのミリタリーブーツを愛用。毎日、これかコンバースのスニーカーのどちらかを履いています」
「ラテックスのトップスは2003年にイギリスで購入。ロンドンではアンダーグラウンドなパーティやナイトクラブに行くときいつもこれを着ていました」
「17世紀イタリア製の、幸運を呼ぶチャーム。コーラルとシルバー製で手には悪魔の頭3つと鍵2つ。運命の扉を開けるという意味が込められています」
「70年代のチェコで活躍したデザイナー、リブシェ・ニクロヴァの作ったプラスティック人形やビニールトイを集めています。小さな彫刻のようだと思う」
「プラダで働いていたときロマン・ポランスキー監督とのコラボレーションで彼と仕事をしました。どうしても彼のサインが欲しかった私は、彼が食べ終わったばかりの紙皿にサインをお願いしました。まだホイップクリームが少し残っているでしょう?」
「マルニの私のオフィス。椅子は50年代のスウェーデン製。ランプはディモーレ・スタジオの制作によるもの。レザーの犬のオブジェはヴィンテージで名前はぺぺ」
「マルニ1998〜’99年秋冬コレクションには、とても感銘を受けました。このブランドについて私が特に愛する部分がすべて入っている。遊び心に満ち、のびのびとしているところです」
「フィリップ・ハルスマンが1967年に撮影した『マリリン・アズ・マオ』が大好きです。私は中国風の4ポケットのスーツを20着持っています。60年代の生地を用いてタイで作り、ずっと着続けています」
「映画監督ジョン・ウォーターズの『Role Models』。このタイトルがすべてを表現しています! 彼は私のミューズのひとり。不条理な事柄について書いた彼の文章を気に入っています。彼と親交の深いコム デ ギャルソンの川久保玲にまつわる章は非常に刺激的ですね」
「シチリアのストロンボリ島で休暇を過ごしたときにアーティストのフランク・ナヴィンが作ってくれたネックレス。いつも身につけています」
「2016年、メキシコ・カレイエスでの私と、パートナーのローレンス。すばらしい場所でしたね」
「祖母リチアが亡くなったあと、70年代に建てられた家を、彼女がジャマイカに所有していたことがわかりました。一日でいいから当時に戻り、祖母とその島で過ごしてみたいですね」
「ランチの最中に手持ちぶさたでナプキンに落書きをしていたとき、ふとこの女性が頭に思い浮かんだのです。そして、彼女はマルニの2018年春夏コレクションのインスピレーション源になりました。20年代風の女性ですが、スケートボードをしているのです」
「マルニの2018年春夏コレクションの中で気に入っているルックのひとつ。ナイロンのストラップがついたジャカードニットのトップスは、水着をイメージして作ったもの。スカートにはフューシャピンクの花柄の刺しゅうを施して。これは50年代のクチュール・テクニックに影響を受けています」