パリのアートコレクター、ディアーヌ・ヴェネは宝石を身に着けない。彼女が身に着けるのは、「芸術家がつくったジュエリー」だけだ。その希少なコレクションがパリ装飾美術館で公開される

BY LAURA RYSMAN, PHOTOGRAPHS BY DMITRY KOSTYUKOV, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

 ディアーヌは以前、TVやラジオ界でジャーナリストとして活動していた。アートコレクターの一家に生まれ、彫刻家のベルナール・ヴェネと結婚。ベルナールは高い評価を得ているコンセプチュアル・アーティストで、ヴェルサイユ宮殿で開かれた現代美術展に招致された数少ないアーティストのひとりだ。1985年、ベルナールは銀の棒をディアーヌの指にくるくると巻きつけ、その無造作な彫刻作品を婚約指輪にした。これがディアーヌの最初のコレクションとなった。

画像: 「Venin」と書かれたネックレスはクロード・レヴェックによるもの

「Venin」と書かれたネックレスはクロード・レヴェックによるもの

「宝石は好きになったためしがないの。個性がなさすぎるから」とディアーヌは言う。「よく広告にあるように、若い女の子はみんなダイヤモンドのついたエンゲージリングを夢見るけれど、ダイヤモンドはただの金銭的な存在でしょう?」
「多かれ少なかれ」と彼女はつけ加えた。「宝石はみんな同じ。だけどアートはまさに特別なものなんです」

 2014年に、夫妻はサントロペ近郊に残る18世紀の広大な製粉工場跡地にヴェネ財団を設立した。そこには、ベルナールの作品と並んで、ジェームズ・タレル、ロバート・モリス、フランク・ステラといったアーティストの作品が展示されている。フランク・ステラは夫妻の親しい友人で、変形させたキャンバスに絵を描くアーティストだ。彼は長年にわたって、自身の作品を思わせるいくつかのジュエリーをディアーヌのために制作してきた。それらのジュエリーは3Dコンピューターでデザインし、鋳造工場で成形して作られたものだ。

 ジュエリーそのものを作るために高度な技術に本気で取り組もうとするアーティストはめったにいない。もっとも有名で、おそらくもっとも多作なアーティストはアレクサンダー・カルダーだろう。彼はモビールや彫刻を作る一方で、1,800点を超えるジュエリーを作り出した。

 そのほかにジュエリーを作るアーティストといえば、アルナルド・ポモドーロが挙げられる。現在、イタリアでもっとも重要な存命中の彫刻家とされている彼は、小さなジュエリー制作から活動を始めた。彼が作るのは「解読できないシンボル。あまりにも時が経ちすぎて、読み解けなくなってしまった言語体系」のような作品だと、昨年、ミラノで全市を挙げて開催されたポモドーロの大回顧展の際に作家自身が語っている。彼は故郷の職人から金銀細工を学んだ後、謎めいた、大がかりで一貫したスタイルの球状彫像をいくつも鋳造した。彼はジュエリーの製作も続け、その中のひとつであるネックレスをディアーヌは所有している。彼は「ジュエリーは人間の身体を飾るものだが、彫刻はもっと規模の大きいもの。もっと大きな存在と響きあうものだ」と語っている。

画像: マックス・エルンストによるゴールドのペンダント。200点を超えるディアーヌのプライベートコレクションのひとつ

マックス・エルンストによるゴールドのペンダント。200点を超えるディアーヌのプライベートコレクションのひとつ

 しかし、なぜアーティストたちはわざわざジュエリーを作るのだろうか? ミラノでジュエリー制作会社「ジェム・モンテベッロ」を経営するジャンカルロ・モンテベッロは、60年代から70年代においておそらくもっとも特筆すべきワークショップを開催した。アーティストとジュエリーを作るワークショップだ。彼はアルナルド・ポモドーロ(一時期、ポモドーロと彼は義理の兄弟だった)、ルーチョ・フォンタナ、ソニア・ドローネイ、ニキ・ド・サンファルをはじめとする40人ほどのアーティストとコラボレーションを行った。

「アーティストにとって、ジュエリーはビジョンを広げるためのもうひとつの方法なのです」とジャンカルロ・モンテベッロは語る。いわく、アーティストたちには"反抗の季節"とでもいった時期があり、より自由で実験的なカルチャーのために創造したいという欲求が高まるのだと。
「ジュエリーは、アートの開かれたビジョンを象徴するものでした。体系化も組織化もされておらず、お金のためだけに作るものでもない。ジュエリーは彼らにとって、純粋に探求の場だったのです」

 今回の展覧会のために、パリ装飾美術館はジャンカルロ・モンテベッロのアトリエを(そして、アーティストのジュエリー作りをプロデュースしたほかの何人かのアトリエも)再現する予定だという。ディアーヌ・ヴェネのコレクションの中から、モンテベッロのアトリエで制作された作品がそこで多数展示されるはずだ。

 展覧会のキュレーター、カリーヌ・ラックモンは、この展覧会を過去のディアーヌのジュエリー展より一歩進んだものになると見なしている。彼女は絵画や彫刻、タペストリー、陶器といった美術館の収蔵作品のもろもろとディアーヌのジュエリーを、ペアにして展示するつもりだ。彼女の表現するところによれば「ヒエラルキーを消し去って」展示し、「きわめて小さいものを非常に大きなものと組み合わせて」展示する予定だという。

 いわゆるアート作品と並べて語るなら、ジュエリーはもはやその素材ではなく、アーティストの思いをいかに形にしているかに価値があるはずだ。ディアーヌ・ヴェネは言う。「ジュエリーはミニチュアの形をとったアート。アートの中のアートなのです」

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