親友が語るマノロ・ブラニク

An Insider’s Account of Manolo Blahnik
12月23日からドキュメンタリー映画『マノロ・ブラニク トカゲに靴を作った少年』が公開される。46年間にわたって友情をはぐくんできた今作の監督マイケル・ロバーツとブラニク本人の貴重なインタビュー

BY DANA THOMAS, PHOTOGRAPHS BY LAUREN FLEISHMAN, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI(RENDEZVOUS)

 映画は、ふたりが出会った当時から始まる。現在74歳になるブラニクは、カナリア諸島で育ち、ジュネーブ大学で法律と政治学を、パリで芸術と舞台美術を学んだのち、ロンドンに渡った。そこで彼は、滞在許可証を得るためにフェザーズの販売アシスタントとして仕事に就いた。

「そのとき私は、“New Man”のためのジーンズを担当していたんだ」。バニラ色のリネンのオーダーメイドスーツに、スカイブルーと白のストライプのニットタイを締め、サドルシューズを履き、粋に盛装したブラニクは言う。「すごく美しいアシッドグリーンのデニムがあってね。僕自身もそれを買ったよ」。

 色あせたネイビーのレインコートと、GAPの青い格子柄のパジャマパンツにサドルシューズを合わせた69歳のロバーツも、「僕はオレンジ色のを買ったよ」という。

 その後、彼らは1980年代にファッションでもコラボレートした。

 ブラニクが「あのコレクションは、なんていったっけ? ザ・グリーク・コレクション?」と尋ねると、「そう!」とロバーツが即答する。「どこかの街の通りで、僕らもそれを着たよね?」とブラニクが言うと「チェルシーだよ」とロバーツ。「レモンイエローのクレープデシン(薄地のシルクのちりめん)でできたチュニックに、細いコードベルトを合わせたんだ。その格好で、タクシーを拾うためにチェルシー街の裏通りを歩き回った。僕はあのチュニックを着て、髪をショッキング・ピンクに染めてて眉毛がなかったから、もちろん誰も止まってくれなかったけどね」

「そうそう! 君はまったく眉毛がなかったね。どれだけひどかったか。本当に恐ろしかったよ」とブラニク。ロバーツは「いや、恐ろしくなんかなかったよ」と返すが、ブラニクはこう言い切った。「真剣に恐ろしかったよ、マイケル。君はまるでフリッツ・ラング監督の映画『メトロポリス』に出てくる人物のようだった」

画像: 1990年代のテレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』をきっかけに、マノロ・ブラニクは広く知られるようになった

1990年代のテレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』をきっかけに、マノロ・ブラニクは広く知られるようになった

 メトロポリタン美術館のコスチューム部門の責任者であったダイアナ・ヴリーランドのアイデアで、ブラニクは靴を作り始めるようになった。すると、ファッションエディターのグレース・コディントンが彼の靴のファンになり、英国版『ヴォーグ』に取り上げた。「毎号ね! ノーマン・パーキンソンが撮影して、モデルはアポロニアだった」とブラニク。

「それは、君にとって決定的な出来事だった。君が当時作っていたのはブーティだったけど、当時は誰もブーティを作ろうとはしていなかった。それにミュールもね」とロバーツは振り返る。

 ブラニクは言う。「いまもミュールは、誰にも作れないものを作っているよ」

 ブラニクは、1990年代のテレビドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』をきっかけに、アメリカで誰もが知る人物となった。サラ・ジェシカ・パーカー演じるキャリー・ブラッドショーがきまって履くのがマノロだった。ロバーツはその頃、『ニューヨーカー』誌のファッションディレクターを務めていた。そこでの彼の仕事のひとつは、好き嫌いが激しいことで名高い写真家のアーヴィング・ペンとの作業だった。

「毎週、ペンに会うためにスタジオに行き、彼に撮影してもらいたいと思う候補者のリストを渡していた」とロバーツは語る。「すると、彼はそのリストを見て『ノー』と言う。『だめだめ、だめだよ坊や』ってね。でも2003年に、彼はマノロを撮ることを承知したんだ」

 ニューヨークでの撮影中、アーヴィング・ペンは、ブラニクに向かって「ちょっと、手になにか持ってくれないか。宝石かなんか持ってるかい? いや違う! ヒールだ!」と言った。「だから、僕たちはオフィスに走っていき、2足のヒールを持ってきたんだ」とブラニク。

「ペンは『こっちだ』とヒールを決めると、『なにか考えてみて』って。だから僕は、16世紀のスペイン・カルメル修道女会の修道女、サンタ・テレサとその回顧録のことを考えた。そしたら『そう! サンタ・テレサにとり憑かれたように! そのヒールを持って!』と言って、ペンはシャッターを押したんだ」

画像: 自作のシューズとともにポーズ

自作のシューズとともにポーズ

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