ファッションデザイナー、ワタナベ ジュンヤのラディカルな服の背景にあるアイデアはどこから来て、どのように形づくられるのか

BY ALEXANDER FURY, PHOTOGRAPHS BY JAMIE HAWKESWORTH, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO AT PARARUTA

画像: ワタナベの2016-’17年秋冬コレクションの特徴であるラディカルな構造は、高度な数学理論にインスパイアされたところもある Tシャツ¥17,000、スカート¥135,000 コム デ ギャルソン(ジュンヤ ワタナベ・ コム デ ギャルソン) TEL. 03(3486)7611

ワタナベの2016-’17年秋冬コレクションの特徴であるラディカルな構造は、高度な数学理論にインスパイアされたところもある
Tシャツ¥17,000、スカート¥135,000
コム デ ギャルソン(ジュンヤ ワタナベ・ コム デ ギャルソン)
TEL. 03(3486)7611

 ワタナベのデザインに関して、よく使われる形容詞はもうひとつある。「日本的」という言葉だ。「ジャーナリストやファッション業界の人たちは私がつくる服を日本 的だとか、日本的なスタイルやテイストがあるとか言いたがりますね」と本人も認めている。そしてこう尋ねられた。「私のほうこそ、聞きたいです。なぜですか。カテゴライズするため? それとも本当に、本当に私の服に日本とのつながりを感じているんですか?」。彼は質問に答えるよりも、質問するほうが好きなようだ。好奇心が彼を偉大なデザイナーたらしめている要素なのだ。おそらく「日本的」という発想には「異質なもの」、つまり昔から西洋人が抱いている捉えどころのない極東の文化(絵のように見える漢字、複雑な手順の古式ゆかしい儀式)への憧れが暗に込められていると思われる。ワタナベの作品にある「異質なもの」とは、西洋人がもつ常識の枠を超えているということだ。

 ワタナベ ジュンヤを語るうえで、最も引き合いに出されるデザイナーは川久保玲だ。必ずしも的を射た比較とは言えないが、無理もないことだ。ワタナベのブランドがコム デ ギャルソ ンのブランドとして創設される前は、8年間も川久保のそばで働いていたからだ。コム デ ギ ャルソンのランウェイ・コレクションは創造的表現という文脈の中で服にアプローチすることが多い。実際、川久保の近年の作品は服というより、ソフトスカルプチュア(布やプラスチックなどで作られた彫刻)のようだ。だが、ワタナベのコレクションはもっと実用的だ。川久保は文字どおり、ファッションを解体することに意識を傾けてきた。1981年のパリ・コレデビューではファッション界の常識に真っ向から挑んで、それを覆した。そこで発表されたランダムに大きな穴をあけたセーターやニットを川久保はあえて「レース」と呼び、彼女のアナーキーな作品は世界のモード界に衝撃を与えた。ワタナベもアナーキーで挑発的だが、あくまでファッションのルールに従って作品をつくっている。 川久保は「4本袖ジャケットの女王」だが、ワタナベのつくる服の袖は2本。 2本ともちゃんと袖の役割を果たしている。

「美しいもの、あるいは美的な満足感を与えるものとは何かという僕の考えと、川久保玲の美に対するビジョンとはまったく違います」とワタナベも認める。「これまで川久保玲の仕事を見てきましたが、感じていることは同じです。ある程度理解できるし、共感できる部分もあります。しかし、まったく同じというわけではありません。向き合う中で、考えていることが違うなと思うことがあります。そして、これから先も『何をもって美しいとするか』というビジョンが同じになることはないでしょう。おそらく川久保はそのビジョンの違いを感じ、それぞれが違うクリエーションをするためにジュンヤ ワタナベというブランドを立ち上げることになったのだと思う」

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