ファッションデザイナー、ワタナベ ジュンヤのラディカルな服の背景にあるアイデアはどこから来て、どのように形づくられるのか

BY ALEXANDER FURY, PHOTOGRAPHS BY JAMIE HAWKESWORTH, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO AT PARARUTA

 私がワタナベ ジュンヤと会ったのは東京青山のビルにあるコム デ ギャルソン本社だった。青山が「ファッションの街」として知られるようになったのは、1975年にコム デ ギャルソンがここに第一号店をオープンしたのが始まりだった。今ではミュウミュウ、モンクレール、ヘルツォーク・ド・ムーロン設計のプラダ(昆虫の眼のように出っ張った格子の窓ガラスが外観を覆っている)といった有名ブランドが軒を連ねている。

 コム デ ギャルソンの本社が入居するビルはもっと落ち着いた雰囲気だ。何の変哲もない赤レンガのビルの中にあるオフィスはまるでハムバグ(黒と白の縞模様のキャンディー)のようだ。黒い床、白い壁、黒い窓枠。そしてまた、黒い椅子、白い椅子、黒いテーブル。2階のフロアでは総勢30人のワタナベのデザインチームが来シーズンのコレクションに向けて準備を進めている。多くのファッションデザイナーのスタジオと同じように、20人ぐらい座れるものすごく大きなテーブルの上にティッシュを何枚も重ねたような薄い型紙やコレクションの資料が並べられ、スタッフが覆いかぶさるようにして生地をカットしている。スタッフが着ている服はたいていジュンヤ ワタ ナベかコム デ ギャルソン、あるいは両方の組み合わせだ。彼らが黙々と忙しそうに動き回る音以外は何も聞こえない。別の部屋では生産のスタッフがずらりと並んだコンピュータ端末の前に座っている(コム デ ギャルソンがジュンヤ ワタナベの服の製造と世界各地での販売を行なっている)。

 オフィスを訪ねたとき、ワタナベのチームは次の2017年春夏コレクションの準備をしていたが、見せてはもらえなかった。ドレスを着せたマネキンにはナイロンの黒いカバーがかけられ、シェイプや生地がまったく見えないようにしてあった。スタッフが私の訪問を前もって知らされていたのは間違いない。

 それでも、私がワタナベのクリエーションのプロセスについて質問すると、彼は部屋から出ていき、すぐに紙で折った試作品と写真を持ってきてくれた。それは鍾乳洞のつらら(鍾乳石) か、顕微鏡で見たバクテリアのようで、見るも恐ろしいトゲトゲの突起がついている。ワタナベはクリエーションのプロセスをこう説明する。「すべて私の頭の中から生まれたイメージです。自分が興味をもてるアイデアを探すことから始めます。それから、自分のアイデアを言葉にし ます。パタンナーと一緒にその言葉を形にして、本当にそのアイデアに命を吹き込むことができたかを見ます。写真やアート作品、クリエイティブなものはすべて私が今話しているようなプロセスで生まれるのではないでしょうか。視覚化された形になったアイデアをじっくり検討してから、服づくりが始まるのです」

 ワタナベは紙の試作品を手にとって、折り紙でパクパクを折るようなしぐさをする。「これもペーパークラフトの一種です。いつもこんなふうにできるわけではありません。でも、ペーパ ークラフトのほうが形にしやすい場合があります。アイデアのピースやまだまとまっていないアイデアを紙で作ってから、こういった断片的なアイデアとボディとの関係や、ボディの上でどう形にすることができるかを考えます。こうやって少しずつアイデアが服の形になっていきます。それから、コレクションをつくりあげるのです」

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