「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」が主催するハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ氏の作品展。画家バルテュスの娘でジュエリー・デザイナーとして活躍する彼女が、その詩的で幻想的な作品を通じて、真に願うこととは

BY MASANOBU MATSUMOTO

 2015年に米国版「T magazine」に掲載されたインタビュー記事で、彼女は「自分のホロスコープ(西洋占星術で、個人を占うために用いる天体の配置図)には“土のエレメント”がひとつもない」、「宙に浮いた世界に生きている」という旨を語っている。「悪く言えば、地に足がついていないということでしょうか」と笑い、こう続けた。「よく考えれば、私が田舎を好んで住んでいるのは、無意識に“土”を求めているからかもしれませんね。少し前からブレアと一緒に、農薬や化学肥料を一切使わない庭も作っているんです。さまざまな鳥、そしてたぬきやきつねなどの動物も、そこにやってきます」。こうした庭づくりの体験は、フランスのジュエリーブランド、グーセンス パリのために作ったいちじくやざくろモチーフのオブジェの着想源にもなったという。

画像: (写真左)「FIG LEAF TRINKET TRAY」 イチジクの葉をモチーフにした小皿。グーセンス パリのために作ったインテリアのひとつ (写真右)「POMEGRANATE BOX」 同じくグーセンス パリのざくろのボックス。ハルミ氏はざくろというモチーフに、生命、豊饒、蘇生といった意味を託す

(写真左)「FIG LEAF TRINKET TRAY」
イチジクの葉をモチーフにした小皿。グーセンス パリのために作ったインテリアのひとつ
(写真右)「POMEGRANATE BOX」
同じくグーセンス パリのざくろのボックス。ハルミ氏はざくろというモチーフに、生命、豊饒、蘇生といった意味を託す

“土のエレメント”がひとつもない、“宙に浮いた”世界観は、今回、レコール主催のエキシビション『ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ〜《自然の痕跡》』の展示方法にも表れているように思える。天井、床、壁を湿度を感じさせる黒で塗った真っ暗な空間の中で、作品だけが輝くようにライトが当てられている。足元はほとんど見えない。「作品が天と地の間に浮いているように見せたかった。作品を見ている私たちも浮遊感が感じられるように」と、彼女はその意図を語る。心地良く、同時に畏くもあるその空間は、ハルミ氏独特の自然観を思わせる。

 展示品のなかでも、特にリアルに表現された蝶々のペンダントやイヤリングに目を奪われた。そのことを伝えると「これは蝶の持つ“軽やかさ”について思いを馳せながらつくったもの」と彼女。「蝶が飛んでいるときの“軽やかさ”、どこからか私の指先にやってきて、またどこかに飛び立っていってしまう“儚い瞬間”をどう表現できるのだろうって」。ベースは金属ではなく、物理的にも軽くまた透明感もある牛のツノを使用。まるで蝶がはばたいているかのように、胴体や羽の上にあしらわれたブラックダイヤモンドやガーネットなどを配置したという。蝶々をそのままそっくりジュエリーとしてかたどるのが目的ではなく、彼女はそこに人間が美しいと感じる自然のかたちを描いた。「たとえば、蝶々が群がって飛んでいる様子。そんな姿を朝一番に見ることができたら、それだけでとてもハッピーな1日を過ごせるでしょ?」

画像: 「AGLAIS IO」 自然界の美を、蝶々の軽やかさで表現したペンダント。羽部分は、アフリカに生息するアンコール牛の透明度の高いツノを使用 PHOTOGRAPHS: © 2019 HARUMI KLOSSOWSKA DE ROLA, COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

「AGLAIS IO」
自然界の美を、蝶々の軽やかさで表現したペンダント。羽部分は、アフリカに生息するアンコール牛の透明度の高いツノを使用
PHOTOGRAPHS: © 2019 HARUMI KLOSSOWSKA DE ROLA, COURTESY OF VAN CLEEF & ARPELS

 ちなみに、彼女はジュエリー制作を独学ではじめた。いまは彫刻も習っているそうだ。自然への賛美とともに、職人の技にも敬意をはらう。最後に“もし、レコールで講師をするとしたらどんなことを教えたいか”と尋ねた。「レコールは、職人のノウハウがいかに大事で、いかに守っていく必要があるかを一般に広く伝える、素晴らしい学校です。先日ここで、友禅染の人間国宝である森口邦彦先生のレクチャーも開かれていましたが、私は教えるのではなく、まだ教わる身だと思います。今回のレコールでもたくさんの学びと発見がありました」

「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」
日本特別講座 エキシビション
『ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ〜《自然の痕跡》』
会期:〜3月8日(金)
会場:京都造形芸術大学 外苑キャンパス
住所:東京都港区北青山1-7-15
開館時間:11:00〜18:00
入場料:無料
フリーダイヤル: 0120-50-2895(レコール 日本特別講座 事務局)
公式サイト

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