BY MASANOBU MATSUMOTO
ネコやライオン、蝶々、ワニ、蛇、そしてイチジクやざくろ――。ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ氏がジュエリーのモチーフとして選ぶのは、人間が太古から崇めてきたようなシンボリックな動植物だ。それを、ゴールドやダイヤモンドなどの宝石、牛のツノ、木材(なかには何百年の時を経て化石化した木も)などの素材を組み合わせ、幻想的でエスプリが効いた姿に仕上げる。
父は画家バルテュス、母も同じく画家の節子。幼い頃から、アンリ・カルティエ=ブレッソンやフェデリコ・フェリーニなど芸術家や文化人たちが家に出入りした。どこか神話的で特別な物語を感じさせるハルミ氏の作品は、こうした少女時代の体験や、そこで育まれた彼女の“内なる世界”から湧き出てくるものだと考えていた。だが、彼女は「私の作品の根本にあるのは、もっと確かなこと、目の前にある現実です」と言う。
「ニュースなどで、日々いくつもの生物が絶滅の危機にあると聞くと、非常に胸が痛くなります。 人と自然は、うまく共存できているとは言えません。また、便利なものが増えた分、人と自然の関わりが希薄になっていることも感じます。そうした現代に生きる身として、私は、私が想う“自然と人間の関わり方”、“自然への賛美”をジュエリーで伝えたいのです」
彼女のアトリエのひとつは、スイスの田舎町にある。窓の外は森。動物はもちろん、一本の木の枝でさえインスピレーションになるという彼女にとって、うってつけの場所だ。一方、アトリエ内では、どんなものに囲まれているのか? そう尋ねると「まず、最愛のネコたち」。父譲りのネコ好きで、彼女の作品には、多くのネコ科の動物が登場する。「でも猫はじっとしてくれないでしょ? だから、ブレア(パートナーで写真家)がチーターやピューマの剥製をプレゼントしてくれて。あとは、たくさんの書物に囲まれています」
その書物とは、古代エジプトや中南米のマヤ文明の美術から、動植物の世界を紹介する書籍、日本の襖絵に関するものまで。そういった本から、“すべてのものには魂がある”というアニミズムの精神、ひいては、人間はずっと自然に敬意を払いながら生きてきたということを学び直すのだという。