「すべてのブランドは、もはや中立ではいられない」と語るビッザーリは、いかにしてグッチの‟カルチャー”を構築し、ブランドを再生し得たのか

BY KEI WAKABAYASHI, PHOTOGRAPHS BY YASUHIDE KUGE

 企業は炎上する。しょっちゅうだ。理由はいろいろある。キャンペーンにおける過ちであったり、ずさんな社内人事であったり。そのたびに企業は「時代錯誤な組織」と誹(そし)られる。制御不能なSNSというモンスターは、企業にとってますます大きなリスクとなっていく。企業を責めるのは簡単だ。けれどもおそらくは、責める側も責められる側も、その背後にある大きな変化がどういうものであるのかを明確に特定できていない可能性がある。「企業の中立性(コーポレート・ニュートラリティ)は終わったのです」。

画像: MARCO BIZZARRI(マルコ・ビッザーリ) グッチ社長兼CEO(最高経営責任者)。1962年イタリア生まれ。2005年ケリング・グループに入社、ステラ・マッカートニー、ボッテガ・ヴェネタの社長兼CEOを歴任し、2015年より現職

MARCO BIZZARRI(マルコ・ビッザーリ)
グッチ社長兼CEO(最高経営責任者)。1962年イタリア生まれ。2005年ケリング・グループに入社、ステラ・マッカートニー、ボッテガ・ヴェネタの社長兼CEOを歴任し、2015年より現職

2メートルはあろうかという長身のイタリア人ビジネスマンはそう語る。「これはファッション業界に限った話ではありません。政治が混乱し、巨大IT企業が国家よりも影響力をもってしまった時代のなかで、企業の役割は変化してきています。10年前まで企業は、政治に足を突っ込むことをことさら嫌がってきました。なんらかの政治的な立場を明かすことはむしろタブーでした。『みんなに好かれること』が企業にとっては大事だったからです。ところがこの2、3年で状況は激変しました。今、企業は自分たちがどんな価値を支持するかを表明せざるを得ません。特に若い世代の消費者がそれを望んでいます。ブランドエンゲージメントとロイヤリティの観点から言えば、立場を明らかにして誰かに嫌われるよりも、立場を明らかにしないことのほうがはるかに大きなリスクとなります」

「企業の中立性は終わった」。言われてみれば、みながうすうすと気がついていることではあるのかもしれない。けれども、それを明言し、その状況のなかで、政治的なステートメントも含めてブランド戦略を構築し、しかも事業としてサステインさせていくということは、多くの企業にとって初めての体験となるはずだ。当然、それは一朝一夕で解決の方程式が見つかるようなものでもない。マルコ・ビッザーリが「中立性は終わった」と明確に感じたのは、わずか2、3年前のことだったという。2、3年前といえば、トランプ大統領とブレグジットに世界が激震した、その頃だ。そこから時代は激変した。2016年を境に、ビジネスの世界はそれまでの世界とは完全に断絶したと言っていいのかもしれない。それはごく最近に起きたことだが、その余波を本当の意味で体感していくことになるのはむしろこれからなのだ。

 マルコ・ビッザーリは2015年よりグッチのCEOを務める辣腕ビジネスマンだ。経営コンサルティング企業のアクセンチュア出身。その後いくつかのブランドでの職を経て、ステラ・マッカートニー、そしてボッテガ・ヴェネタのブランドCEOを務めたのちに、グッチのCEOに就任した。彼が当時無名だったデザイナー、アレッサンドロ・ミケーレを大抜擢し、数年でブランドを劇的にターンアラウンドさせたサクセスストーリーについて、ここでくどくど説明するまでもないだろう。

画像: ビッザーリ自身が抜擢したグッチのクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレ(左)とともにCOURTESY OF GETTY IMAGES FOR GUCCI

ビッザーリ自身が抜擢したグッチのクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレ(左)とともにCOURTESY OF GETTY IMAGES FOR GUCCI

 

This article is a sponsored article by
''.