BY LINDSAY TALBOT, STILL LIFE BY MATTHEW AVIGNONE, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
時計の針が文字盤から宙に浮いて見えるミステリークロック。まるで魔法のようなこの時計を、カルティエが初めて世に出したのは1912年のこと。実際には、透明なロッククリスタルでできた2枚のディスクに針を取りつけているという仕掛けだった。半透明のクリスタルが再び流行していた時期だったこともあり、この時計は人気を集め、カルティエのハイジュエリー部門が誇る革新的な技術を象徴する存在となった。
それから約20年後、1920年代を代表する映画スターのひとり、グロリア・スワンソンがカルティエのブレスレットを購入。ロッククリスタルとダイヤモンドでできたドーム型のパーツが連なったデザインで、留め具はついておらず、伸び縮みするブレスレットだった。色使いはワントーンで、中央が膨らんだ大ぶりのデザインだったため、ローレンス・オリヴィエと共演した映画『彼女の選んだ道』(1933年)の白黒スクリーンの中でもひときわ目を引いた。何しろスワンソンはゴージャスな女性だったので(ビバリーヒルズに24部屋もある豪邸を所有していた)、このカルティエのブレスレットも自身のトレードマークのひとつとして、映画の宣伝スチールやさまざまな授賞式のパーティなど、スクリーンの内外を問わず身につけていた。のちに、ビリー・ワイルダー監督による映画『サンセット大通り』(1950年)のノーマ・デズモンド役で映画界にカムバックしたときも、このブレスレットをワードローブに組み込んでいた。
このスワンソンが身につけた1930年代のブレスレットからインスピレーションを得て制作されたのが、カルティエの新作ウォッチ「カルティエ リーブル」だ。ブランドの伝統である華麗なアール・デコ調のブレスレット型腕時計で、だまし絵風に三角形のモチーフがあしらわれたデザインは3タイプ展開。その中のひとつはピンクゴールドの地にレッドガーネットとブラックスピネル、グレームーンストーン、輝くダイヤモンドがあしらわれている。ストラップには伸縮性があり、くるりと裏返してリバーシブルで使用できる──表面は腕時計に、裏返せばブレスレットになる(ほかにサファイア、レッドコーラル、ブラックスピネル、クリソプレーズ、ダイヤモンドをあしらったバージョンと、ロジウム仕上げのホワイトゴールドの地にダイヤモンド、ブラックスピネルなどをあしらったモノトーンのモデルがある)。このなんとも大胆な仕掛けには、ノーマ・デズモンドだって大満足するに違いない。
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