身にまとうものには、その人の思いや考え、ときに主義や信条や、生きる時代の空気までも映し出されるもの。自他ともに認める稀代のモード愛好者、ファッションライター・栗山愛以が、自らの装いや物欲の奥にあるものを、ゆるゆると紐解き覗き込む

TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA

画像1: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.21 フィービー ファイロのトップス

 Vol.15で、基本的にネットでしか入手できず、欧米にしか配送してくれないブランド、フィービー ファイロのパンツをどうにかこうにか通販した経緯をご紹介しましたが、9月初めそのフィービー ファイロが「欧米の実店舗での取り扱いをスタートし、パリではドーバー ストリート マーケットで販売予定」と報じられました。ちょうど月末からパリ・ファッション・ウィークを取材予定です。「ついに実物を手に取りながら買い物できる時が来た!」とわくわくしながら渡航したのですが、ショップのスタッフに聞くと、滞在中には入荷しないとのこと。がっくりと肩を落として帰国したのでした。

 すると数日後、今度は「アジア太平洋地域での販売を開始し、日本にも上陸する」というニュースが駆け巡りました。10月末からドーバー ストリート マーケット ギンザで販売するよう。発売日を聞きつけ、当日たまたま立ち寄った某編集部のエディターの方も誘って意気揚々と駆けつけました。

 インスタレーションや限定商品の発売、特別なディスプレイが行われる「オープンハウス」の日だったこともあり、業界関係者も多く訪れていて現地では日頃お世話になっているスタイリストさんにも遭遇。連れ立ってはやる気持ちを抑えながら取り扱いフロアへ。

 とくにブランド名が掲げられてはいませんでしたが、なかなかの分量がラックにかかっていて、すでに数名のお客さんが興味津々で商品を見ています。思わず「負けてはいられない!」という謎の競争心がむくむくと生まれ、自らも参戦。さらに「初上陸した記念すべき日だし、とにかく何か買って帰らねば!」という強迫観念にかられてしまうのは一種の病気なんでしょうか。高めに設定された値段とにらめっこしながらなかなか適当なアイテムが見つからず苦戦していた時、「これ、栗山さんに似合いそうですよ!」というスタイリトさんの声がしました。目をやると、アメフト用のように丸みのある肩パッドが入った黒いタートルネックのトップを手にしている。まさに、フィービーらしいパンチの効いた一品です。日々のスタイリングの参考にもしていたのでブランドのサイトはよく見ていたのですが、こんなアイテムあったかしら?!祈るような気持ちで恐る恐る値札を見ると、決して安くはないものの買えない値段ではない。せっかく試着できる環境になったのに、着替えるのが面倒な服を着ていたこともあり目分量でサイズを選択。歓喜してレジに走ったのは言うまでもありません。

画像2: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.21 フィービー ファイロのトップス

 帰宅して着てみると、サイズはぴったり。やっぱりシルエットが絶妙だし、かっこいい人になったような気分になります。そうしてうきうきと鏡の前でポーズを取っていたのですが、ふと何だか丈が長く、伸ばすとお尻がぎりぎり隠れることに気づきました。「ひょっとしてミニドレスなのかも?」と念のためサイトを見てみたものの、最初に発表されたコレクションなのか、やはり掲載されておらず、真偽のほどを確かめることができません。とりあえず今のところはトップとして活用していますが、レギンスなどを合わせてドレスとしても着てみようと目論んでいます。

画像3: 我、装う。ゆえに我あり。
栗山愛以、モードの告白
Vol.21 フィービー ファイロのトップス

 ともあれ、戦利品には大満足。ネットショッピングや1人で買い物するのが常ですが、たまには連れ立ってわいわい言いながら買い物するのも楽しいものですね、と思ったのでした。

栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama

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