TEXT AND ILLUSTRATION BY ITOI KURIYAMA
昨年11月、かつてセリーヌを手がけ一世風靡したのちにモード界から姿を消していたデザイナー、フィービー・ファイロが約5年ぶりに復活したことについて書きました(Vol.9)。私は他に媚びない堂々とした女性像を打ち出し、肩の力を抜いてパンチのあるアイテムを提案する彼女のファン。しかし、先月NYにある百貨店、バーグドルフ・グッドマンに期間限定の実店舗がオープンしたというニュースはあったものの彼女の名を冠したブランドの販売先は基本的にオフィシャルサイトのみで、欧米にしか配送していません。新作が発表されるたびに指をくわえて見るだけの日々でした。
そんな折、恒例のパリ・ファッション・ウィーク取材の季節がやってきました。パリには2月末から3月頭にかけて9泊する予定。旅の準備をしている最中、ふともし何かトラブルが起こっても、それだけ期間があればホテルで商品を受け取れるのでは、と思いついたのです。そこで初めて買い物目線でうきうきと吟味。Vol.9でも触れた、「後ろに裾からウエストまでファスナーが走っていて全開すればお尻を見せて着ることだってできるハイウエストのパンツ」に目星をつけたのでした。
パリ到着の月曜日の夕方に受け取るにはブランドが拠点を置くロンドンから金曜日に発送と見込み、木曜日にオーダー。すると、意外とスムーズに対応してくれ、月曜日の午前中にホテルのフロントに届けたという連絡が。無事DHLの箱を手にしたのでした。
サイトの画像のみで判断して選んだなかなか高額なパンツ。我ながら冒険したもんだと呆れつつ、荷解きもそこそこにドキドキしながら封を開けるとカーキだと思い込んでいた色味がもう少し茶色寄りの印象。タグに「ウール100%」で「MADE IN ITALY」という記載がありましたが、しっとりとした手触りで、質の良い素材であることがわかりました。そして恐る恐る着てみると、想像どおり10数センチ裾上げが必要ではあったものの、ウエスト周りはぴったりで、ざっくり見積もったにも関わらずサイズ選択が合っていてホッと胸を撫で下ろしたのでした。試しにファスナーを思いっ切り開けて歩いてみると、ばさばさっと裾がはだけ、何だかパワフルな人になったような気がする。それに、脚が大胆に見えてもあんまり生々しくない。シルエットや素材感でフェミニンさの出し方を絶妙に調整しているんだろうなあ、と感嘆したのでした。
「後ろにファスナーが走るパンツ」は以降も型違いが展開されていて、きっとアイコニックなアイテムだったんだと自らの審美眼にひとり満足。TPOやスタイリングのバランスでファスナーの開け具合を変えつつ、クロップド丈のトップを合わせたりトップをインしてパンツを主役にして楽しんでいます。
周囲にこのパンツを手に入れた経緯を話すと、「わざわざそこまでして!」と驚かれることがほとんど。日本にも配送してくれたり、実店舗が増えることを願うばかりなのですが、困難が伴うからこそ愛着が湧いているところもあるのかもしれません。それからも引き続き魅力的な新作がアップされていて、すっかり味をしめたスリリングな入手方法を駆使して次は何をゲットしようかしらと考えてしまっているのでした。
栗山愛以(くりやまいとい)
1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。Instagram @itoikuriyama