アンチガスピアージュが世界を変える

BY MIKA KITAMURA

 ある日の「ベージュ アラン・デュカス 東京」。天井までの窓からやわらかな光が舞い、ゲストたちがシャネルツィードの瀟洒(しょうしゃ)な椅子でゆったり食後を楽しんでいる。多忙な来日スケジュールの合間を縫って、アラン・デュカス氏は少々遅れて現れた。世界で最も有名な料理人のひとり。現在、世界8カ国24店舗をプロデュースし、年に数回、すべての店を訪れ、料理を試食する。 この日のインタビューは、「ベージュアラン・デュカス 東京」で昨年から行われている「コレクション・ベージュ」の話から始まった。フランスやモナコから来日するデュカスグループのシェフが、総料理長・小島景とコラボレートしたり、日本やフランス各地から届く最高の食材の個性を引き出し、コースとして披露する特別なガストロノミー体験だ。

画像: アラン・デュカス パリ、モナコ、ロンドンでミシュランガイドブック三ツ星を獲得。フランス料理の世界への発信や伝統継承のための「コレージュ・キュリネール・ド・フランス」 代表。料理学校、ADF(アラン・デュカス・フォルマシオン)を設立。著書も多数 PORTRAIT BY YASUYUKI TAKAGI

アラン・デュカス
パリ、モナコ、ロンドンでミシュランガイドブック三ツ星を獲得。フランス料理の世界への発信や伝統継承のための「コレージュ・キュリネール・ド・フランス」 代表。料理学校、ADF(アラン・デュカス・フォルマシオン)を設立。著書も多数
PORTRAIT BY YASUYUKI TAKAGI

「フランスやモナコを訪れるのと同様の料理をお出しします。シャネルと組んだ世界で唯一のレストランらしい、高度な料理を楽しんでほしいですね。あちらのレストランが日々進化していることも日本のゲストにお伝えしたい。また、スタッフ同士の交流によって、互いに刺激を受けてほしいという狙いもあります」

 1990年、モナコのパラスホテル「オテル・ドゥ・パリ」内のレストラン「ル・ル イ・キャーンズ」(当時)の総料理長に就任。33カ月目、33歳にて史上最年少(当時) で三ツ星を獲得。この数字を見れば、天運に恵まれているとしか言いようがない。 ここまで成功している料理人は珍しいだろう。

「私が成功してるって? 自分でそう思ったことはないな。成功より失敗の数が多いからこそ今があると思っていますから。私は自分なりに役立つことをしたいとずっと考えてきました。それは人を育てること、レストランをつくることであり、持っているものを伝え広げていくことで す。1軒のレストランをつくれば大勢が働けるでしょう? とにかく、自らの力を惜しまないこと。スタッフのみんなにも、そのように生きてほしいと考えています」

 そんなデュカス氏が今最も力を入れているのが、「anti-gaspillage( アンチガスピ アージュ)」。フランス語で「ガスピアージュ」とは「無駄」を意味する。料理をす るうえで、食材の無駄を出さないという啓発活動だ。「今、地球上で1億人が食べすぎている一方で1億人が飢えている。この状況を変えなければならない。まず、その意識をもつことが大切なのです」

 デュカス氏が率いる店は、多くがオートキュイジーヌ(高級フランス料理)を提供する。高級料理とアンチガスピアージュは対極のイメージがあるが......。

「そうは思いません。実際、われわれの厨房ではほとんど食材の無駄を出していませんよ。たとえば、にんじんなら葉も料理に使うし、皮はブイヨンのために使う。工場で人工的に作られた野菜は使わない。フランス料理だからといって魚は鯛でなけ ればなどと決めつけず、旬の青魚も使います。パリのプラザ・アテネの店では、98% の食材がフランス産です。魚は大西洋で 1 本釣りされたもの。野菜はヴェルサイユ宮殿にある畑と契約し、電気自動車で毎日運んでもらっています。旬の上質な食材を仕入れることから徹底した管理をし、その材料を最大限に生かし、使いきるよう、料理人が責任と自覚をもって行動する時代がきています。資源は無限ではないのです」

画像: PHOTOGRAPH BY PIERRE MONETTA

PHOTOGRAPH BY PIERRE MONETTA

画像: この冬の「コレクション・ベージュ」は「白トリュフの誘惑」。秋から冬に旬を迎える白トリュフを主役に、 初冬の美味を提供する。11月2日(水)~27日(日)ランチ ¥25,000、ディナー¥40,000 ※11月4日(金)特別ディナーの詳細は公式サイトで PHOTOGRAPH BY PIERRE MONETTA

この冬の「コレクション・ベージュ」は「白トリュフの誘惑」。秋から冬に旬を迎える白トリュフを主役に、 初冬の美味を提供する。11月2日(水)~27日(日)ランチ ¥25,000、ディナー¥40,000
※11月4日(金)特別ディナーの詳細は公式サイトで
PHOTOGRAPH BY PIERRE MONETTA

デュカスグループの店では、厨房の隅に必ず大鍋が数個置かれている。野菜や肉のクズを何時間も煮込み、ていねいにアクをとりブイヨンを作る。確かにこれならほとんど生ゴミは出ないだろう。「まじめに食材を作っている生産者たちを守ることも大切です。彼らが作る上質な食材があるからこそ、素材の持ち味を生かすという料理法を実践できる。安心安全な食材だから、皮まで使いきれるのです。料理人は安価な食材に流れず、生産者の経済基盤を支えて安定的に生産を続けられるようにサポートしなければ」

 デュカス氏が料理界におけるアンチガスピアージュを訴えかける相手は、料理人だけではなく、むしろ政治家たちだ。厨房の中にとどまらず、社会的な現象にする ためには政治家を巻き込むことが重要、との計算だ。関連する書籍も年内に出版する。

「私の家は農家でした。家族で過ごす日曜日には、外へ出て旬の野菜を採り、祖母 や母が料理してくれた。幸せな思い出です。私がアンチガスピアージュを唱え続けるのは、そうした出自からくる自然な発想なのです。自然の恵みである食材を、もっとも豊かなときにまるごと味わう―そんな暮らしを取り戻したい。そのためにも、今こそ地球規模で考え、行動に移すことが大切なのです」

ベージュ アラン・デュカス 東京
住所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング10F
電話:03(5159)5500
営業時間:11:30~16:00(14:00 LO)/ 18:00~23:30(20:30 LO)
定休日:月・火曜
公式サイト

 

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