鮨の華ともいうべきマグロが、今、危機に瀕している。マグロ本来の香りをもった「成魚の太平洋クロマグロ」が消えつつある日本の水産資源の現状を、マッキー牧元が追った

BY MACKY MAKIMOTO

 阪口教授によれば、巻き網漁は産卵期のマグロを獲るだけでなく、幼魚の乱獲も問題だという。「本来巻き網漁船はアジやサバ、イワシを標的にしていましたが、乱獲で枯渇したために経営的に行き詰まり、90年代からマグロの幼魚を標的にするようになったんです。マグロの幼魚は深いところに潜れず表層にいるので、簡単に獲れてしまう。当初は安い刺身商材でしたが、最近は養殖用の漁獲が増えています。太平洋クロマグロの世界全体の漁獲高の、じつに98%が幼魚です。しかも残りの2%を産卵期に大量に漁獲してしまうので、資源が減らないわけはないですよね」

太平洋クロマグロの資源量推移

画像: 2010年には、太平洋クロマグロの資源は「歴史的最低水準」まで低下。幼魚の漁獲規制によりやや上昇したものの、まだ危機的状況にある 出典:国際水産資源研究所

2010年には、太平洋クロマグロの資源は「歴史的最低水準」まで低下。幼魚の漁獲規制によりやや上昇したものの、まだ危機的状況にある
出典:国際水産資源研究所

 さらにはそんな状態にもかかわらず、ほかの漁法と巻き網漁とで不可解な漁獲枠配分が行われているという。
「今日本は成魚漁獲枠の70%近くを巻き網漁という一漁業種に配分しています。なぜか水産庁はこの巻き網漁を守るために懸命なんです。理由として水産庁担当者は、『日本の消費者は、容易に手の出せない高級クロマグロではなく、1サク1,000円のクロマグロを欲している』と言っています」。

巻き網漁の漁獲枠は直近比でほぼ減らされず、対して沿岸の漁業にはわずかな枠しか与えられなくなり、沿岸漁業者の廃業や倒産も起きている。近年、幼魚漁獲はやや規制されるようになったが、産卵期漁獲は規制されていない。資源が枯渇した状態では、親が減れば子も減り、太平洋クロマグロの全体量は減っていく。そして今、市場に出回るのは、値段の安い産卵期のマグロか養殖マグロばかりということになる。

「私の予想だと、来年正月の食卓を飾るのは、輸入マグロか養殖マグロになるだろうと。天然の国産マグロはほとんど漁獲されない。結果として家庭の食卓では提供できないし、高級鮨店ですらまったく扱えなくなるというような状況になりかねません」

画像: アメリカで市販されているツナ缶。いずれも、一本釣りなど「持続可能な」漁法を示すマークが明示されている PHOTOGRAPH BY TOMOKO SHIMABUKURO

アメリカで市販されているツナ缶。いずれも、一本釣りなど「持続可能な」漁法を示すマークが明示されている
PHOTOGRAPH BY TOMOKO SHIMABUKURO

 日本の漁業規制はなぜ緩いのか。じつは、天下り先への配慮や政治的配慮などの、日本的問題があると阪口教授は指摘する。だがこのままでは、確実に日本を代表する食文化は失われていく。われわれ消費者は、これにどう関わっていけばいいのだろう?

ひとつには、この問題をテーマに活動している団体のイベントに参加するという方法もある。たとえば「Chefs for the Blue」というグループがある。日本の水産資源減少に危機感を抱き、持続可能なシーフードの普及を目指した活動で、三ツ星フレンチ「カンテサンス」の岸田シェフほか大勢のシェフが参加し、イベントやトークショーなどを行なっている。この冬には、各店でマグロを使った料理イベントも企画しているという。

「このままでは、おいしいマグロを知る日本人はいなくなっちゃうね。もう言葉でしか伝えられない日がくる」と、小野二郎氏は嘆く。その日は近い。だがまだ間に合う。われわれが日本の水産資源について知り、何ができるかを真摯に考えるべき時期がきている。

 

This article is a sponsored article by
''.