伊豆高原でふたりの女性が営むレストラン「jikka(ジッカ)」。童話の世界から抜け出したような建物の中では、とびきりの家庭料理と温かいもてなしが待っている。自ら作った終のすみかで過ごす彼女たちの生き方とは?

BY JUN ISHIDA, PHOTOGRAPHS BY YASUYUKI TAKAGI

 12時に開店するこの日のランチのテーマは、アメリカ南部の家庭料理だ。須磨さんは夫の転勤でヒューストンに暮らしたことがある。jikkaが提供するのは世界の家庭料理だが、メニューはなく、その日に手に入る食材によって決まる。食材は朝市や近所に住む人からのおすそ分けで、「須磨さんは思いつきで料理を作るから大変」と藤岡さんが言うと、「野菜を見るとアイデアが浮かぶのよ」と須磨さん。今日のラインナップはバターミルクチキンフライ、エビとカニのガンボスープ、パンプキンパイなど手の込んだボリュームたっぷりの7品だ。「大変なものしか作らないから」と藤岡さんがぼやくと「この頃、世の中は簡単なことしかしないでしょ」と須磨さんが呟き、再び家族の痴話喧嘩のような会話が続く。

画像: 野菜をふんだんに用いた前菜の盛り合わせ。ワインはランチ会のために真鶴にあるワイン・ラバーズ・ファクトリーの高橋景子さんがおいしい自然派ワインをセレクトした

野菜をふんだんに用いた前菜の盛り合わせ。ワインはランチ会のために真鶴にあるワイン・ラバーズ・ファクトリーの高橋景子さんがおいしい自然派ワインをセレクトした

画像: ガンボスープの材料。エビとカニがふんだんに用意されていた

ガンボスープの材料。エビとカニがふんだんに用意されていた

須磨さんに、なぜ友人の藤岡さんと終のすみかで住むことを選んだのかと尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。「小さい頃から自分が天涯孤独になったらどうしようと心配で、老後はどう暮らすかをよく夢物語として話していました。藤岡さんとも老後はなるべく自分らしく生きてゆきたい、何かのときにお互いに助け合えるといいわねと話しているうちに、子育ても終わり、ひと家族よりふた家族のほうができることも多いので、まだ身体が動けるうちにと行動に移したんです」

画像: 地元の人々を招いてのランチ会。jikkaではたびたび地域交流のイベントも主催している

地元の人々を招いてのランチ会。jikkaではたびたび地域交流のイベントも主催している

 夫もリタイアし、東京に住む必要もなくなったふたりは、須磨さんの地縁のあったこの地に土地を見つけ、jikkaを建てた。温暖な気候に恵まれた伊豆高原には、同じようにリタイアして移住した人々も多く、独自のコミュニティがあった。「自分は特に秀でた能力はないけれど、台所ひとつあれば人の役には立てる。地域の人にお弁当を配達するサービスやみなさんの集まる場所を提供できればと思って始めました。でも一番最初に助けられたのは、私たちでしたね」と須磨さんは笑う。

画像: レストラン入り口に置かれたjikkaのタペストリーは藤岡さんが作製

レストラン入り口に置かれたjikkaのタペストリーは藤岡さんが作製

「jikka」の名称は、実家のようにアットホームな場所に、そして実家のものを活用しよう、というふたりの思いからつけられた。「若者はミニマムに生活しがちだけれど、歴史のあるものを大事にしたい。だからここでは、実家にあった家具や食器を持ってきて使っています。いつかお店を開いたときにと思い、以前から買い集めていたものもあって、そんなことを想像しながら過ごすのも楽しかったですね」。レストランの入り口には、刺しゅうや裁縫が好きと言う藤岡さんの作ったjikkaのタペストリーが置いてある。そこには一清さんが教えてくれた「Where my heart belongs(心が立ち返る場所)」との言葉も刺しゅうされている。

 やがて台風への備えを終えた本日の会のゲストたちが、次々と集まってきた。食事会に向けてちょっとしたおしゃれをしてきた人々は、互いの近況を報告し合いながら席に着く。みんなのjikkaの開店だ。

jikka
住所:静岡県伊東市池890-6
電話:080(5007)8444
営業時間:12:00〜15:00
定休日:日・月・木曜
完全予約制
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