さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。人気を博した連載「おやじのおやつ」が、このたび復活。連載第23回は、「電気グルーヴ」の石野卓球さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

 天才、偉才、鬼才……etc。

 ミュージシャンの石野卓球さんと関わったり、作品に深く触れてきた人が口を揃えて発する言葉だ。耳にするだけで疾走感や浮遊感を与え、瞬時に異世界へと誘う————そんな音楽界のカリスマ・パイオニアであり、一握りの猟奇と狂気をはらんでいるようにも見える石野さんが、「じつはおやつ好き」と言うチャーミングな一面をのぞかせてくれた。ルーツは幼少期までさかのぼる。

「実家がパン屋を営んでいて、お店の隅っこにお菓子コーナーがあったんです。初孫の特権か、おばあちゃんに『ちょうだい』って言うといろんなお菓子をもらえたんですよ。小学5年生からは“学校から帰ったらポテトチップスを食う”というルーティンを課し、平日は毎日食べていましたね。朝ご飯、給食、ポテトチップス、夕食という4食体制で過ごしていたら、みるみるうちに太ったんですが、中学生になって芸名の由来である卓球部に入ったら、すぐに痩せました」

「食べ終わったあとの袋は隣のメッキ工場と自宅の間に溜めていたんですけど、2年後に建て直しで家を取り壊したら、その袋がごっそり出てきて家族に怒られました。あと、『ハッピーターン』も好きだったんですけど、当時は150円くらいだったから、うかつに『ちょうだい』とは言えなくて。おばあちゃんのお茶菓子のカゴに入っていると、表面の粉だけを舐め、食べていないフリをしてまた袋に戻す“妖怪粉ナメ”と化したときには、さすがに叱られましたね」。次々出てくる、可愛らしくも破天荒なエピソード。

画像: カルビーの「ポテトチップス うすしお味」(オープン価格) 「当時はまだコンソメパンチもなかったんですよ。今でもやっぱり一番プレーンなうすしお味が好きです」。ちなみにお皿は電気グルーヴのオリジナルプロダクツ「皿マンダー」 カルビー お客様相談室 TEL.0120-55-8570

カルビーの「ポテトチップス うすしお味」(オープン価格)
「当時はまだコンソメパンチもなかったんですよ。今でもやっぱり一番プレーンなうすしお味が好きです」。ちなみにお皿は電気グルーヴのオリジナルプロダクツ「皿マンダー」
カルビー お客様相談室 TEL.0120-55-8570

 石野さんが高校時代に作ったバンド「人生」が前身となり、1989年に四人体制で「電気グルーヴ」を結成。1991年にメジャーデビューを果たし、1999年からは、高校時代からの親友であるピエール瀧氏との二人体制になり、音楽ファン、そして世の中をしびれさせた。「レコーディングスタジオやライブのバックステージにもおやつはスタンバイされていて、必ずあったのは飴。当日は昼から翌朝までレコーディングとかはザラにあったし、室内でタバコが吸えたこともあり、“さぁ歌入れするぞ”ってときに声が出ないことも(笑)。大好きな『ミルクの国』『いちごみるく』、あとはお湯で溶いたのど飴にはお世話になっていましたね」

 海外でも勢力的に活動した。「DJでしょっちゅうヨーロッパにも行っていて。空港の免税店で大量に買っていたのが『ゴディバ』。チョコレートは小学生の頃から食べ続けていて、高級なものはやっぱりおいしいなぁと思うけれど、高カカオチョコも、準チョコレートみたいなインディペンデントなものも好き。エスプレッソを朝起きてから、あとは昼過ぎにも飲むので、そのアテとして食べています」

画像: ゴディバの「ゴールド コレクション(12粒入)」¥3,240 ベルギー発祥のチョコレートブランド。「当時、海外では日本で見かけないものがたくさんあって。空港の免税店で大量に買って自宅の冷蔵庫にストックしていました」。毎日食べるチョコレート以外にも、いちご大福、おはぎ、カヌレ……知らないお店にふらっと買いに行くことも多いそう ゴディバ ジャパン TEL.0120-11-6811

ゴディバの「ゴールド コレクション(12粒入)」¥3,240
ベルギー発祥のチョコレートブランド。「当時、海外では日本で見かけないものがたくさんあって。空港の免税店で大量に買って自宅の冷蔵庫にストックしていました」。毎日食べるチョコレート以外にも、いちご大福、おはぎ、カヌレ……知らないお店にふらっと買いに行くことも多いそう
ゴディバ ジャパン TEL.0120-11-6811

 年齢とコロナ禍が相まり、生活サイクルは夜型から朝型へ、音楽制作にも変化が訪れたという。「若い頃は、昼間は外部の刺激が欲しいせいか、周りが寝静まる頃にやっと自分と対峙できる感じ。ラブレターと同じで、曲作りは夜中に行うものと思っていました。が、今は周りがわさわさしてもあまり気にならなくなり、朝は5時に起きて犬の散歩、午前中に雑務を済ませたり、時には豊洲市場にお寿司を食べに行ったりして、午後からは音楽制作というスケジュールです。制作の場所は、主に犬が遊んでいるリビング。スタジオだとアイソレートされてしまった気がして集中できないし、思考が自由にならないから、最後の最後にこもって集中する感じ。5分で出てくるときもありますよ(笑)」

 ところで、天才と言われる脳内で、音楽はどのように生まれるのだろう? 「昔は思いついたアイデアを、紙にメモをしたり、留守電に残したりしたんです。だけど、一度でも言葉に変換しちゃうと本質とズレたり、“ブンチェチェ”みたいなつぶやきを吹き込んでも『いたずら電話かよ!』と、自分でツッコむほど何がやりたかったのかわからないので止めました(笑)。今は小さいキーボードを弾きながら、ボイスメモに録音するスタイルがしっくりきてますね。曲に関しては“最終地点が何かわからないけど、方向性はこっちだ”みたいにドミノ倒しのように連鎖して答えがパンパンパンッて気持ちいいくらいに出てきて1時間弱で完成することもあれば、2〜3週間かかることも。それは昔から変わらないです」

 昔は実家で、年齢を重ねてスタジオで、ライブ会場で、自宅リビングで…。音楽と同じように、卓球さんの人生に寄り添ってきたおやつとは、「“たばこ以上、食事未満”。付き合い方を間違えると、ちょっと危ない存在(笑)」だと言う。
 常に最前線でエポックメイキングな作品を生み出してきたからこそ、想像しがたいプレッシャーやストレスも寄り添ってきたはずだ。
「辛いとか苦しいの質によるんですけど、自分がたいした人間じゃない、自分の価値を過大評価すると納得いかないけど、自分はこれくらいのものだと思うと、それほど大変じゃないんですよ。あとはその困難を親身になって分かち合うどうこうじゃなく、それがいかにたいしたことじゃないかを共有し合える仲間や友達がいるか? たぶん僕にとってはそれがピエール瀧。あれ、もしかしすると瀧はおやつなのかも(笑)」

 目の前にいる卓球さんはウィットに富み、チャーミングで優しさにあふれた人。音楽面はもちろん、人やものに対しても思いやりという想像力にもあふれ、瀧さん、スタッフ、家族、昔からの馴染みの料理店、食べ慣れたおやつ…ブレない愛がある。それを伝えると、「確実に欠落している部分も多いですけどね。『開けろ〜出てこい!』と憎しみをもった人もきっといっぱいいますよ」と苦笑い。

画像: 石野卓球(ISHINO TAKKYU)さん 1967年静岡県生まれ。「電気グルーヴ」を結成し、テクノミュージシャン、DJ、プロデューサー、リミキサーとしても活躍する。2019年にマネジメント会社「macht(マフト)」を設立し、独立。2022年5月14日、SWEET LOVE SHOWER SPRING 2022 https://spring.sweetloveshower.com/2022/ にヘッドライナーとして出演。 公式サイトはこちら  COURTESY OF MACHT INC.

石野卓球(ISHINO TAKKYU)さん
1967年静岡県生まれ。「電気グルーヴ」を結成し、テクノミュージシャン、DJ、プロデューサー、リミキサーとしても活躍する。2019年にマネジメント会社「macht(マフト)」を設立し、独立。2022年5月14日、SWEET LOVE SHOWER SPRING 2022
https://spring.sweetloveshower.com/2022/ にヘッドライナーとして出演。
公式サイトはこちら

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