さまざまな分野で活躍する“おやじ”たち。彼らがひと息つき、渋い顔を思わずほころばせる……そんな「おやつ」とはどんなもの? 偏愛する“ごほうびおやつ”と“ふだんのおやつ”からうかがい知る、男たちのおやつ事情と知られざるB面とは。連載第27回は、演出家・演出助手の永井 誠さん

BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

 演劇人にとっては“夢の舞台”とも言われる帝国劇場。2022年はジョン・ケアード演出の『千と千尋の神隠し』、『ミス・サイゴン』……世界的に活躍する外国人演出家と、日本人キャストとの橋渡しとして舞台を成功へと導いた人物の一人が演出家・演出助手の永井誠さんだ。

 その永井さん、かなり異色の人生を歩んでいて、大学時代はなんと検事を目指していた。「演劇とは無縁の世界で生きてきましたが、新入生歓迎会で早稲田大学のミュージカルサークルのメンバーが合唱する歌声に感激し、飛び込んでしまいまして。最初は舞台上で歌ったりお芝居をしていましたが、どうにも自信が持てない。しかし法学部で数多くの判例を読み込んでいたせいか、論理性も必要とされる戯曲を読み解いてシーンを構築することは得意だし、すごく楽しい。自分が輝けるのは裏方、つまり演出なんじゃないかと気づきまして」

 大学4年の12月に、演劇の世界で生き続けることを誓う。東宝ミュージカルアカデミーを経て、東宝の演出部へ。演出助手として下積みを重ね、文化庁新進芸術家制度の舞台演出研修のため、30歳のときにミュージカルの本場・イギリスへ留学。帰国後は、学生時代に足を運んで「絶対にここで演出をするんだ」と誓いをたてた帝国劇場で活躍している。

 それとは別に、個人で翻訳と演出を手がけた『ヒストリーボーイズ』の稽古場での最終調整の時間——。カンパニーの動きを見つめるだけでなく、丁寧に言葉を紡ぎ、時には一緒に踊ったり跳ねたりしながら、キャスト一人一人とシーンを確認し合う。演出家の仕事とは、「定義はなくて、人それぞれ。僕にとってのそれは、セリフはこんな風に伝えてみては? 音楽はこのセリフのタイミングで流し、同時に照明も当てて。衣装の色を変えましょうかなどなど、“作品に合っているかどうかを冷静に見極めながら、すべてのジャッジをし、ブラッシュアップすること”。ストーリーテラーとして、そのためには目に見えないニュアンスやセンスを含め、明確に言語化して論理的に伝えないといけない」

 小規模の舞台なら15人程度、大所帯のカンパニーになると200〜300人近くを相手にするわけだから、10時間近くしゃべりっぱなしの日が続くことも。「舞台に立つ俳優が、稽古や本番終わりによく食べるのがアイス。理由は、酷使した声帯が炎症を起こしているからアイシングを兼ねています。僕もそれをマネして、控え室の冷凍庫にストックしておきます。特に好きなのが『アイスの実』。おいしい上に、口の中でコロコロ遊べるので、重宝しています」

画像: 江崎グリコの「アイスの実」7ml×12個入り¥152前後。“アイスにもひとくちサイズのものがあれば、新しい食べ方や楽しさを提案できるのではなないか?”という発想から誕生した1983年生まれのアイス。「特に<濃いアーモンドミルク>の風味や味が秀逸」だそう グリコお客様センター TEL.0120-917-111

江崎グリコの「アイスの実」7ml×12個入り¥152前後。“アイスにもひとくちサイズのものがあれば、新しい食べ方や楽しさを提案できるのではなないか?”という発想から誕生した1983年生まれのアイス。「特に<濃いアーモンドミルク>の風味や味が秀逸」だそう
グリコお客様センター TEL.0120-917-111

 永井さんが演出する現場は、和やかでフラット。想像していた緊迫感や威圧感は微塵もない。「俳優の春風ひとみさんが『舞台は寄ってたかって作るものだ』とおっしゃっていたのですが、本当にその通り。リモートは不可能だし、全員が揃わないと稽古ができないから正直、コスパは悪い(苦笑)。でも、稽古を含めて毎日がお祭りみたいだし、人と人とが情熱を持ってぶつかり合うし、それが許される。全員が命を削って生きている感じがするんです。だからこそ、誰かの意見をつぶして、僕が一方的に『こうしなさい』と決めつけるのは、全然クリエイティブじゃない。それぞれのキャスト、スタッフのやりたいことを理解し、最善の方法で成立させるためにセッションするんです」。永井さんにとっての“いい舞台”の条件は、「演技、ダンス、音楽、照明……何かが突出するのではなく、すべてのセクションがいい具合に調整されていること。理由はわからないけれどスゴいし、とにかく面白いこと」。そのスピリットが普段の稽古からもにじみ出る。

 いいムードを作りだすきっかけのひとつが差し入れ。「同じものを食み、みんなの心がひとつになったり仲良くなるきっかけになるし、休憩の合間の会話のネタにもなる。ダイエットや体型維持を心がけるキャストも多いので、おにぎりやカレーパンなど、食事になりそうなもののほうが案外喜ばれるのですが、『ブーランジェリー ニシノ』のクリームホーンは別。繊細なパイ生地の中に、自家製の冷たいカスタードクリームがぎっしり入っていて……。ある俳優さんから『お金を渡すので、明日も買ってきていただけますか?』と言われたほどです」

画像: ブーランジェリー ニシノの「クリームホーン」1個¥220 千葉県・本八幡にある人気パン店のシグネチャー商品のひとつ。バニラビーンズを贅沢に使った甘さ控えめのカスタードクリームがたっぷりIN ブーランジェリー ニシノ TEL.047(315)8138

ブーランジェリー ニシノの「クリームホーン」1個¥220
千葉県・本八幡にある人気パン店のシグネチャー商品のひとつ。バニラビーンズを贅沢に使った甘さ控えめのカスタードクリームがたっぷりIN
ブーランジェリー ニシノ TEL.047(315)8138

 現在34歳。38歳くらいまでには帝国劇場で演出家デビューをして、40歳過ぎる頃にはロンドンでも演出家として活躍したいと言う。その理由は、「ロンドンはミュージカルの本場だし、ジャン・ピエール・ヴァンダースペイやジョン・ケアードなど、憧れの人がそこにいるから」

 人生を逆算しながら、緻密な目標を立て、一歩ずつ着実に進む永井さん。「それぞれの舞台の演目には最高の結末がある。そこへ行き着くために、丁寧に戯曲分析をしていくと途中のシーンでは何をすべきかが自ずと見えてくる。人生もおそらく一緒で、最期に何をしていたいか?を具体的に掲げておくと、今、何をすべきかが見えてくる。役も人生も一緒なんじゃないかと思いますね」

画像: 永井 誠(MAKOTO NAGAI)さん 1988年埼玉県生まれ。早稲田大学法学部卒業。平成30年度文化庁新進芸術家制度で舞台演出の研修のため、1年間ロンドンに留学。ジョン・ケアード氏の個別指導や、演劇学校では演出論や古典を中心に学ぶ。帰国後は、東宝演劇部演出部に所属しながら、『ミス・サイゴン』や『ナイツテイル』、『千と千尋の神隠し』では演出助手を。今年9月に開演した『ヒストリーボーイズ』では翻訳と演出を手がける。 ©️ AYANO TOMOZAWA 公式ツイッターはこちら

永井 誠(MAKOTO NAGAI)さん
1988年埼玉県生まれ。早稲田大学法学部卒業。平成30年度文化庁新進芸術家制度で舞台演出の研修のため、1年間ロンドンに留学。ジョン・ケアード氏の個別指導や、演劇学校では演出論や古典を中心に学ぶ。帰国後は、東宝演劇部演出部に所属しながら、『ミス・サイゴン』や『ナイツテイル』、『千と千尋の神隠し』では演出助手を。今年9月に開演した『ヒストリーボーイズ』では翻訳と演出を手がける。
©️ AYANO TOMOZAWA

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