BY KIMIKO ANZAI
「E.ギガル」の創業は1946年。初代のエチエンヌ・ギガル氏が14歳の時に1781年創業の老舗メゾン「ヴィダル・フルーリィ」でワイン造りの修業を始め、「いつか自分自身のドメーヌを」という夢を叶えて独立したことに始まる。その後、約80年の間に著しい発展を遂げ、今では“ローヌの盟主(Masters of the Northern Rhône)”と称されている。
きっかけは、2代目のマルセル氏が80年代に父がかつて働いていた「ヴィダル・フルーリィ」を傘下に収めたことだった。このドメーヌはコート・ロティの素晴らしい畑「ラ・テュルク」を所有していた。また、父であるエチエンヌのドメーヌに対する強い思いもあったことから購入を決めたのだ。1995年にはコート・ロティの歴史的ドメーヌ「シャトー・ダンピュイ」を所有、メゾンのポートフォリオも多彩になっていった。
ドメーヌの吸収・合併は、ワインが造られる地域では多々あることだが、「E.ギガル」のスタンスは少しだけ違っている。それぞれのドメーヌが持つ歴史を敬い、テロワールの個性を大切にしながらワイン造りを行う。自分たちの土地であるコート・デュ・ローヌの素晴らしさを世界の人々に知ってほしいという思いからだ。
3代目のフィリップ氏はこう語る。
「北ローヌのコート・ロティやエルミタージュ、南ローヌのシャトーヌフ・デュ・パプ。コート・デュ・ローヌの土地からは、この地でしか生まれない素晴らしいワインが多数あります。ボルドーやブルゴーニュなどにも引けをと取らないと、私は強く信じています」。
その言葉を明確に表しているのが2017年に購入した「シャトー・ド・ナリス」だ。ここは16世紀終わりの土地台帳に記載がある古いドメーヌで、シャトーヌフ・デュ・パプ村と、教皇庁(シャトーヌフ・デュ・パプ 「教皇の新しい館」の意)に面したアベラシオンに位置する特別な存在だ。「E.ギガル」はこの由緒ある畑にシャトーヌフ・デュ・パプの規定で決められているグルナッシュやシラー、ムールヴェードルなどの13品種を含めた18品種を植樹している。
フィリップ氏は言う。
「多種のブドウを植えているのは、地球温暖化を見越してのこと。今はアロマティックでありながらもフレッシュ感のあるワインが求められています。ですから、アルコール度数は高くなく、酸味がきちんとある品種を増やしていけば、気候変動においてもプラスに働くのではないかと考えているのです 」
確かに、たとえば「シャトーヌフ・デュ・パプ シャトー・ド・ナリス ルージュ 2019」は、芳醇な果実味ながらもフレッシュさが感じられる 。今飲んでも十分おいしいが、緻密なタンニンが熟成の大きな可能性を物語っている。「E.ギガル」のワインの魅力は、すべてのラインナップから造りのていねいさが伝わってくること。「テロワールを大切にし、常に真摯にブドウと向き合うこと。祖父の時代から、私たちがずっと守っていることです。ただおいしいだけではない、クオリティの高さを感じさせるワインをお届けしたいのです」。
最後に、「E.ギガル」の成功の理由を聞いてみると、フィリップ氏は満面の笑顔で答えてくれた。
「土地を愛し、ただ懸命に働いたことです。シャトー・ダンピュイの壁にこんな言葉が書かれているのです。『努力をしないことには成功はない』。これからも、家族とともに夢中で働きます(笑)。素晴らしいワインを造るために」―――。
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