BY KIMIKO ANZAI
カリフォルニアワインの新世代醸造家として、今、世界トップクラスのソムリエから高く支持されているのがマイケル・クルーズ氏だ。国際品種であるピノ・ノワールやシャルドネだけでなく、ヴァルディギエやサン・ローランといったカリフォルニアでは珍しいブドウ品種を使って、この地らしいピュアな果実味と透明感を表現する「クルーズ・ワイン・カンパニー」と、シャンパーニュのレコルタン・マニピュラン(自家畑のブドウで造る小規模生産者)にインスピレーションを受け、単一畑・単一年のスパークリングワインを造る「ウルトラマリン」、2つの異なる発想のブランドを持つ。アイデンティが明確で、かつエレガントな味わいのそれらのワインは、有名ソムリエやバイヤーたちがこぞって欲しがり、その人気ぶりから時に“幻”とも評されるほど。
クルーズ氏はこう語る。
「正直、自分のワインがこんなふうに人気が出るとは思っていませんでした。2008年に友人とともに『ウルトラマリン』を立ち上げ、スパークリングワインを造り始めましたが、これは自分たちにとっては実験的なものでしかありませんでした。レコルタン・マニピュランのアイディアで造ったスパークリングワインなど、当時は誰も造っていませんでしたからね。そして、その後、友人から頼まれてヴァルディギエでワインを造ったところ、これが予想以上に高評価を受けました。実は、私自身もこの時ヴァルディギエという品種に魅せられ、2013年に『クルーズ・ワイン・カンパニー』として『モンキー・ジャケット ノース・コースト』をリリースしたのです。ヴァルディギエはとても生命力の強い品種で、完熟しても美しい酸を保っている。私はそこに大きな魅力を感じました」。
この「モンキー・ジャケット ノース・コースト」は瞬く間に評判となり、同時に「ウルトラマリン」も注目され、クルーズ氏は気鋭の醸造家として専門家たちから高い評価を受けるようになったのだ。折しも、当時はカリフォルニアワインの変革期とも言われる時期であった。『サンフランシスコ・クロニクル』のワインライターであったジョン・ボネ氏が著書『ザ・ニュー・カリフォルニアワイン』で、新世代の造り手によるエレガントで繊細なスタイルのワインを紹介したことから、従来の凝縮された果実味で芳醇なスタイルとはひと味違う“ニュー・カリフォルニアワイン”が一大ブームとなったのだ。
「タイミングも、運もよかったのでしょう。私は著書には書かれませんでしたが、多くのワイン愛好家の方々が私を“ニュー・カリフォルニア”の造り手と評価してくれました。これは、とてもうれしいことでした」。
クルーズ氏のワインは、品種の個性がきちんと感じられ、飲み口もエレガント。酸の美しさが印象に残る。「クルーズ・ワイン・カンパニー モンキー・ジャケット ノース・コースト」は繊細な酸がヴァルディギエという黒ブドウ品種の魅力を物語り、「クルーズ・ワイン・カンパニー スパークリング サン・ローラン リッチー ベティヤン・ナチュレル カーネロス」は、サン・ローランという黒ブドウ品種の上品な果実味とカーネロスという土地の冷涼さを教えてくれる。飲み疲れがなく、軽やかに楽しむことができるのも魅力のひとつ。
「ワインを造る際、私はなにより“飲みやすさ”を考えます。果実が豊かでも、アルコール感を感じるワインは飲んでいるうちに疲れてしまう。大切なのは酸味と果実味のバランス。これだけはいつも気を遣っています」とクルーズ氏。
だが、なんと言っても大きな魅力は、きちんと料理を引き立ててくれることだろう。マリアージュの素晴らしさは当然のことながら、クルーズ氏のワインは、料理のそばにあるだけで、その佇まいがどこか新しく、スタイリッシュな趣きを見せるのだ。「クルーズ・ワイン・カンパニー」と「ウルトラマリン」が持つマジックのようなもの。これこそが、世界の有名ソムリエたちを熱狂させている“秘密”なのかもしれない。
「このブドウからどんなワインができるかと、実験的にワインを造るのが大好きです(笑)。ただし、それはカリフォルニアらしく、クリアな果実味ときれいな酸味がなくてはいけないと思っています。ワインは、人と人とを繋げてくれる素晴らしい飲み物。私のワインで、多くの人が幸福な時間を過ごしていただけたらうれしいです」
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