地方創生やガストロノミーツーリズムへの関心が高まるなか、とりわけ注目を集めているのが山梨県だ。日本各地から食通を惹きつける大人のためのデスティネーションレストランの魅力を、ガストロノミープロデューサーの視点で案内する好評連載。今回は山梨県が誇る、屈指のフレンチレストランを紹介したい

BY KOTARO KASHIWABARA

画像: 無農薬アーモンドや甘柿のマリネ、マグレ鴨の自家製生ハムの前菜

無農薬アーモンドや甘柿のマリネ、マグレ鴨の自家製生ハムの前菜

 食を使って地方に観光客、特にインバウンドを呼び込み、消費をしてもらって地方を豊かにしよう、というガストロノミーツーリズムが注目されている。
 地方創生が叫ばれているなか、ガストロノミーツーリズムで集客しようと高らかに宣言している自治体も多数あるが、関東地方で一番活発に活動しているのは山梨県だろう。観光振興課のなかに「ワイン県・美食担当」を置き、「食」を目的とした誘客促進を図っている。
 その県内で活躍するシェフやソムリエなどで構成されたチームに「やまなし美食コンソーシアム」がある。新メニューの開発や、食文化形成をはじめ、歴史、芸術などの観光資源と連動した取り組みを進めることで、山梨県の新しい魅力を発信していこうというものだが、その一員として積極的にかかわっているのが、韮崎市のフランス料理「キュイエット」の山田真治シェフだ。やはり県が主催する「やまなしグルマン・エコノミー会議」のお招きで講演したときに知り合った。

画像: 店の目の前には葡萄畑が広がる

店の目の前には葡萄畑が広がる

 フランスの地方のレストランといえば、葡萄畑が広がる里山の一軒家を想像するが、キュイエットのロケーションもまさにそれ。JR中央本線の韮崎駅から車で10分ほど、葡萄畑と富士山が見渡せる一軒家なのである。うかがった日は残念ながら曇り空だったが、晴れていれば大きな窓ガラスのむこうに冠雪に覆われた富士山を望み、周囲には南アルプスや八ヶ岳が連なる。そしてレストランの目の前にはキュイエット専用の生葡萄の自家農園が広がる、絶景なのだ。
「フランスのシャンパーニュ地方で修業していた時のレストランが、店の前が葡萄畑、裏が山のロケーションで、地産地消の料理を提供していたんです。日本に戻ってきたらそれをやりたいと思ったんです」と話す山田シェフは、山梨県甲府出身。都内で修業後、フランスへ渡った。帰国後、当時甲斐市にあったフレンチレストラン「レストランベルク」にて料理長を務めながら県内に理想の土地を捜し歩き、この場所を見つけ、開店したのが22年前の2003年のことだった。

 県内でも屈指のフランス料理店だけに県外からも多くのファンが訪れる。山梨県は海がないため魚は他県に頼らざるを得ないが、それ以外はほとんど山梨県産を使う。
「山梨はフルーツも野菜も畜産も盛んですから、新鮮なものがすべてこの近くで賄えるのです。せっかく韮崎まで来ていただいたのなら、美味しいものを食べて非日常の楽しさを味わってほしいですね」

画像: 白ワインは山梨県産の甲州

白ワインは山梨県産の甲州

 山梨県は日本のワインの礎。独立当初はヨーロッパワインには太刀打ちできるものがなく、海外のワイン中心だったが、ここ12~3年で長足の進歩を遂げたという。私も今回、ワインペアリングをお願いしたが、奥様でソムリエの紫乃さんが選んだのは、どれも山梨県のワインだった。

 料理はコースで提供されるが、季節に応じて変化する食材に合わせ、少しずつ変わっていく。大きく変えるのは年4回。この日の料理は、店から歩いて5分ほどの農場でリッキーさんが育てている無農薬アーモンドや甘柿のマリネ、マグレ鴨の自家製生ハムから始まった。フレッシュなアーモンドはあんずの香りがすることを知った。
 

画像: 八ヶ岳湧水鱒の燻製にゆずのピューレを添えて

八ヶ岳湧水鱒の燻製にゆずのピューレを添えて

 その後も、八ヶ岳湧水鱒、甲斐路シャモ、山の水農場のナメコなどを使った料理が続き、メインは八ヶ岳山麓の鹿ロース。もちろん天然のもので、白州で採れたゴボウのピューレが合う。

画像: 広島県産の一年牡蠣には酸味のあるソースを

広島県産の一年牡蠣には酸味のあるソースを

画像: 甲斐路シャモのコンソメと山の水農場のキノコ

甲斐路シャモのコンソメと山の水農場のキノコ

画像: 宮城県産のムール貝はブイヤベース風ソースで

宮城県産のムール貝はブイヤベース風ソースで

画像: メインは八ヶ岳山麓で獲れた鹿ロース

メインは八ヶ岳山麓で獲れた鹿ロース

 アヴァンデセールは、店の前の農園で実ったブドウを使用したジュレとザクロのグラニテ。自家農園はピオーネを中心にシャインマスカットなども育てており、料理の付け合わせ、ソース、デザートなどに使う。デザートはキュイエット特製和栗のモンブラン。栗の香りが引き立ち、生クリームと見事にマリアージュする。

画像: ブドウを使ったジュレとザクロのグラニテ

ブドウを使ったジュレとザクロのグラニテ

画像: キュイエット特製和栗のモンブラン

キュイエット特製和栗のモンブラン

 コースの途中には、兵庫県産一年牡蠣やクロムツなどの他県産魚貝も使うが、皿の中には必ず山梨県の食材が入っている。
「山梨県はなんでも美味しいのですが、特にフルーツがいい。これからはイチゴの季節でパルフェがおすすめ。5月からはサクランボ、夏はブルーベリーやスモモですね」
 さらにその時期になるとキュイエットのスペシャリテの桃の冷製スープが始まる。
「もう始まった? と常連の方からのお問い合わせが一番多いメニューです」
 そして、桃が終わると秋は葡萄、栗という順番だ。
  
 もちろん、そのほかの食材も豊富。冬にはゴボウや大根などの根菜が美味しいし、近所のハンターが届けてくれる小鳩やキジ、鹿などフランス料理らしい食材もいい。
「22年前のオープン当初から通ってくださる常連の方も多くてうれしいですね。先日のクリスマスにも22年連続で来てくださった方がいらっしゃいました」

画像: 里山の一軒家で店を開いて22年

里山の一軒家で店を開いて22年

画像: 山田真治シェフ

山田真治シェフ

 山梨県というと、富士五湖のあたりを想像する方は多いと思うが、ここを訪れて、山に囲まれた里山の風景の素晴らしさに気づいた。そして山梨県のガストロノミーツーリズムをさらに応援したいと思った。

キュイエット
山梨県韮崎市穂坂町三ツ沢1129
TEL. 0551-23-1650
公式サイトはこちら

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柏原光太郎
ガストロノミープロデューサー。文藝春秋で「文春マルシェ」創設を経て、「日本ガストロノミー協会」会長、「食の熱中小学校」校長、「Luxury Japan Award 2024」審査委員などを務める。近著に『ニッポン美食立国論 ―時代はガストロノミーツーリズム』『東京いい店はやる店』。

画像: 本連載の執筆者・柏原光太郎氏の新刊が好評発売中。世界中の美食家を惹きつける日本を舞台に、ガストロノミープロデューサーとしての確かな視点で選び抜いた、450軒ものデスティネーションレストランを網羅した一冊。 『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ガストロノミーツーリズム最前線』 ダイヤモンド社 ¥1,980

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『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ガストロノミーツーリズム最前線』

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