TEXT BY YUKIHIRO NOTSU, ILLUSTRAION BY YOKO MATSUMOTO

子どもの頃からクラシック音楽が身近な存在だったのは、母親の影響が大きい。ピアノとマリンバのレッスンに通うことになったのもそうだ。家ではよくバッハのレコードがかかっていた。母親はプロテスタント系の女学校に通っていたので、きっとその頃によく聴いた曲なのだろう。なかなかの美声の持ち主で、家事をしながらよくいろんな歌を口ずさんていたが、その中には讃美歌もあったように記憶している。
僕も中高はプロテスタント系の学校だったので、毎朝の礼拝でオルガンに合わせて讃美歌を歌っていた。芸大のオルガン科を出た音楽の先生が立派なオルガンを弾いており、入退場時の即興演奏も楽しみだった。オルガンに魅せられたのは小学生6年生の頃で、夏休みにアメリカにホームステイした際にホスト・ファミリーが連れて行ってくれた教会の礼拝で聴いたオルガンの音だった。すっかりハマってしまった僕は、その年に行われた第1回武蔵野国際オルガンコンクールをどうしても聴きたいとせがんで、仙台から母に連れて行ってもらった。ヘルムート・ヴァルヒャの『バッハ:オルガン作品全集』なるものをお年玉で買ったのも、その頃のことだったと記憶している。ちょうどCDプレーヤーも普及し始めた時分で、祖父に買ってもらった自分だけのプレーヤーで、全12枚組のセットからランダムにその日の1枚を選び、気に入った曲はリピート再生をして何度も何度も聴いたものだ。
その後、普通の大学から音大へ、そして留学というクラシックの道を歩んできた僕が、突如として邦楽に心奪われたのは、留学から帰ってきてしばらく経ってからのことである。何を思ったのか国立劇場で行われていた『仮名手本忠臣蔵』を観に行ってのことだった。2016年10月のことである。国立劇場50周年を記念して3ヶ月にわたって全編を上演するという企画が面白そうと思ったのかもしれない。大序「鶴ヶ丘社頭兜改めの場」から義太夫節の格好良さに引き込まれ、観(聴き)進めていくと、四段目「扇ヶ谷塩冶館判官切腹の場」の静謐でありながら極めてドラマチックな音楽にノックアウトされた。太棹三味線が重く厳かに響く中、切腹に臨む塩冶判官高定。大星由良助が駆けつけるのを今か今かと固唾を呑んで見守る時間が尋常ならざるものに感じられたのである。終演後すぐさま、残りの公演のチケットを買い求め、結局4回ほど観ただろうか。

ずしりと腹に響いてくる太夫の声と太棹の音は、耳を通り越して身体に直接訴えかけてくる力があった。俳優・太夫・三味線の三者の間で阿吽の呼吸で演じられる台詞・音楽は、即興的であり、自在であった。この体験は、ともすると頭でっかちになっていた僕の西洋音楽観を壊してくれるきっかけとなった。指揮者の仕事の第一は拍子を取ることだが、それに縛られすぎると音楽が窮屈になってしまう。師セーゲルスタムは「音楽にはいわゆる一般的な意味での時間は存在しない」というようなことを常々話していた。確かにそうだと頭では理解していても、実践するとなると難しい。その突破口を開いてくれたのが、僕の場合、義太夫節だったのだ。
思い返すと、小さい頃よくマリンバで遊んでいた。曲を弾くわけでもなく、思うがままに鍵盤を叩き、即興でメロディーを作ったり、リズムを叩いたり。練習嫌いだった僕だが、自由な遊びは好きだった。マリンバの巨匠・安倍圭子の演奏会に行ったことも、この遊びに影響を与えた。彼女の演奏はとても即興的で、音楽がその場で生まれてくるような感覚を味わった。彼女の功績の一つに、マリンバの低音域を拡充させたことがある。唸るような低音は、ドーンと腹に響いてくる。子どもながら、いや子どもだからこそ、そんな原始的な響きに魅了されたのだろう。
音楽を「勉強」していくうちに忘れてしまった遊び心を取り戻し、時間から解放された自由な響きをこれからも追い求めていきたい。

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野津如弘(のつ・ゆきひろ)●1977年宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、東京藝術大学楽理科を経てフィンランド国立シベリウス音楽院指揮科修士課程を最高位で修了。フィンランド放送交響楽団ほか国内外の楽団で客演。現在、常葉大学短期大学部で吹奏楽と指揮法を教える。明快で的確な指導に定評があるとともに、ユニークな選曲と豊かな表現が話題に。
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マツモトヨーコ●画家・イラストレーター 京都市立芸術大学大学院版画専攻修了。「好きなものは各駅停車の旅、海外ドラマ、スパイ小説、動物全般。ときどき客船にっぽん丸のアート教室講師を担当。
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