館内の3つのレストランがミシュランの星に輝く「マンダリン オリエンタル 東京」。クリスマスと年末年始の5日間で提供される、シェフのニコラ・ブジェマ氏がフランス料理史に貢献した料理人たちへのリスペクトを込め、料理への情熱と絶え間なき研究心を注ぎ込んだ特別なメニューとは

BY OGOTO WATANABE

「伝統的なフランス料理の中から、ゲストの皆さまに、一生に一度は味わっていただきたいメニューを厳選しました」と語るのはマンダリン オリエンタル 東京の副総料理長にて、フレンチファインダイニング「シグネチャー」を長年にわたり牽引してきたニコラ・ブジェマ氏。フランス料理の歴史は深く、そのメニューもレシピも豊富だが、今日では、伝統的なフランス料理を提供するレストランは世界を見渡してもごくわずかである。ブジェマ氏は、新型コロナウイルス感染拡大防止のための休業期間、時間をかけて、あらためてフランスの食の歴史とシェフたちの料理について学んだ。その探求の時を経て再認識したフランス料理の発展に功績を残した先人たちへの敬愛を、5日間だけの特別なディナーにこめて表現する。

画像: NICOLAS BOUJÉMA (ニコラ・ブジェマ) マンダリン オリエンタル 東京の全レストラン&バーを監修する副総料理長。フランス・パリ近郊出身。15歳でホテルのキッチンでキャリアをスタートし、「ラ トゥール ジャルダン」で修行、ピエール・ガニェールのもとでも研鑽を積む。その後、南フランスに三ツ星に輝く「オーベルジュ・ド・リル」などで更に腕を磨き、マンダリン オリエンタル 香港の「ピエール」の料理長を務める。2016年、フレンチファインダイニング「シグネチャー」の料理長就任、2019年より副総料理長

NICOLAS BOUJÉMA (ニコラ・ブジェマ)
マンダリン オリエンタル 東京の全レストラン&バーを監修する副総料理長。フランス・パリ近郊出身。15歳でホテルのキッチンでキャリアをスタートし、「ラ トゥール ジャルダン」で修行、ピエール・ガニェールのもとでも研鑽を積む。その後、南フランスに三ツ星に輝く「オーベルジュ・ド・リル」などで更に腕を磨き、マンダリン オリエンタル 香港の「ピエール」の料理長を務める。2016年、フレンチファインダイニング「シグネチャー」の料理長就任、2019年より副総料理長

 前菜「エッグトリュフミモザ」「いわしとキャビアのカナッペ」「フォアグラブリオッシュ」に続いて登場するのは「9時間煮込んだ鮑のブレゼ キャビアリのキャビアと鮑のジュレ」。この一皿は、19世紀後半から20世紀半ばにかけて活躍した料理人であり、優れた料理研究の著作も遺したプロスペール モンタニェに捧ぐブラジェ氏のオマージュだ。「彼の著作のひとつにある、ゼリーに関する前菜とショー・フロワ(※ 加熱した肉や魚、野菜などを一度冷ますことで表面を固める)と呼ばれるテクニックを掘り下げました。彼の考えとアイデアをヒントに、豪華なアワビの“フロワ・ショー”を考案しました。プロスペール・モンタニェ氏の功績とフィロソフィーを私は尊敬しています」

 続く「茸とリ・ド・ヴォーのカスレ 黒トリュフの香り」はジャン・ドラベーヌへの敬慕をこめて。「ドラベーヌ氏は一般の人々によく知られたシェフではありませんが、フランスにおいては最も尊敬される著名なシェフの1人であり、私の師であるオリヴィエ・ブルラードの師匠、ロラン・デュランをはじめ、多くの優れたシェフを教えました。また、数少ない茸のスペシャリストでもあります。今回、私が用いることに決めた茸のレシピは、遺産ともいうべきもの。彼の芸術作品を尊重して、この一皿をつくります」

 6皿目「サメガレイとオマール海老の“アミラル”風」は、“現代フランス料理の父”とも称されるオーギュスト・エスコフィエへのオマージュだ。「エスコフィエ氏の“アミラル”は、私が参加した2011年のMOF(※フランス国家最優秀職人章)の料理のひとつでした。100年前のシェフがどのように料理をしていたかをお伝えしたいと思います。その当時、古い伝統の料理を時代にあわせて再現したオーギュスト・エスコフィエ氏に敬意を表し、同じように、現代にあわせてこの料理をご提供いたします」

画像: 「サメガレイとオマール海老の“アミラル”風 オーギュスト エスコフィエ スタイル」 こちらの写真は盛り付け前。ゲストの目を楽しませたあと、それぞれのお皿に盛り付けられてサーブされる。「ホリデイディナーはこの料理を銀のトレイでご提供するのに相応しい機会だと思います」とブジェマ氏

「サメガレイとオマール海老の“アミラル”風 オーギュスト エスコフィエ スタイル」
こちらの写真は盛り付け前。ゲストの目を楽しませたあと、それぞれのお皿に盛り付けられてサーブされる。「ホリデイディナーはこの料理を銀のトレイでご提供するのに相応しい機会だと思います」とブジェマ氏

 メインは二種からの選択で、肉料理「A5和牛フィレ肉のロティ ロッシーニ風 黒トリュフソースペリグー」は惜しくも2018年に世を去ったジョエル・ロブションへの敬愛とともに。「ロブション氏の料理で私が最も感動した一皿を、今回、提供することにしました。氏と同じテクニックと心からの敬意を以て、このロッシーニをご用意いたします」

 もう一種「ブレス鶏のドゥミドゥイユ トリュフを詰めたマカロニとともに」の着想は、リヨンで活躍し、近代フランス料理の母といわれるウジェニー・ブラジェから。「皮の下にトリュフが詰められた鶏料理は、彼女の数ある傑作のひとつです。シェフにとって、鶏肉を丸ごと調理するのはいつでも興奮を呼び起こすもの。そのチャンスをこのディナーで実現しました。偉大なシェフであるブラジェ氏の、シンプルで愛のある料理を尊敬しています」

 デセールは、焼いたメレンゲにアイスクリームやクリーム、フルーツなどを添えたヴァシュラン。ブラジェ氏自身が研鑚を積んだ南仏『オーベルジュ・ド・リル』への想いが込められた一皿だ。「ポール・エーベルランとマーク・エーベルランによるオーベルジュ・ド・リルで過ごした4年間は、いつでも私の心のなかにあります。ここのヴァシュランはとても美味しく、今回のディナーを締めくくるのにぴったりだと思いました。同じレシピに従い、サイズとプレゼンテーションを調整いたしました」

 9皿目「マルキーズショコラ“ミッシェル ゲラール”風とグランマニエのパルフェ」。「ミッシェル ゲラール氏によるこのデザートは、ホリデイディナーに最高のデザートだと思います。ベシャメルのマルキーズの柔らかさは独特で、このレシピに敬意を表する者として、ゲストに喜んでもらえるようにと願っています」

画像: 8皿目はデセール「トラディショナルなヴァシュラン ワイルドストロベリーのソルベ タヒチ産バニラのアイスクリーム シャンパンのサバイヨン ピスタチオとストロベリーのマシュマロ あまおうのジュース」 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF MANDARIN ORIENTAL TOKYO

8皿目はデセール「トラディショナルなヴァシュラン ワイルドストロベリーのソルベ タヒチ産バニラのアイスクリーム シャンパンのサバイヨン ピスタチオとストロベリーのマシュマロ あまおうのジュース」
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF MANDARIN ORIENTAL TOKYO

 この特別なディナーに注ぐ思いをブジェマ氏は次のように語っている。
「私は日本のゲストが物語と歴史のある料理に関心を持ってくださることをよく知っています。そして私はフランス人として、フランスの文化と食の歴史の一部をお届けできることを誇りに思います。この季節に日本の市場で入手できる食材、そして私のクリスマスの想い出も要素に加えて、最終的にこのメニューを決めました。私がこれらの料理を発見した時のように、記憶に残る想い出をゲストに贈りたいと思います」 

 今、時代が大きく移りゆく渦中に我々はいる。これまでも人間は幾度も大きな波をくぐりながら文化を育み、時に遠方からの新たな刺激も糧にし、発展させてきた。”ゲストの快適さ、健康、安全”を最優先に掲げ、細心の配慮がなされたマンダリン オリエンタル東京において、「シグネチャー」はいまも休業中である。だからこそ、この5日間は特別なひとときとなる。この9皿には、先人たちが培ってきたものを誠実に究めようとするシェフの志と、フランスの豊かな食文化の歴史が凝縮され、綾をなして宿っている。同ホテルは、健康と衛生のスタンダードを更に強化させた手順とプログラムを全館で実施中だ。すべてが”ゲストを喜ばせたい”という思いとともに。時空が交錯するひとときを深く味わいながら、美しい文化を次代へ守り伝える大切さを心にとめおきたい。そして、それぞれの場でできることに勤しみながら、明日を切り開く活力を養いたいものだ。

ホリディディナー
期間:2020年12月24日(木)、25(金)、31(木)、2021年1月1日(金・祝)、2日(土)
時間:17:30~
場所:東京都中央区日本橋2-1-1 マンダリン オリエンタル 東京 37階
フレンチファインダイニング「シグネチャー」
電話:03(3270)8954
料金:¥22,000(消費税込・サービス料別)
※ オプションでソムリエ野坂昭彦氏によるワインペアリングあり
公式サイト

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