JR東日本が「東北エリアへの観光流動の創造を通じて、3.11以降の震災支援と地域活性化に取り組みたい」と、2013年10月に運転を開始した“東北レストラン鉄道”こと「TOHOKU EMOTION(東北エモーション)」。その今を体感しに、この冬、北三陸の海岸線へ

BY YUKA OKADA, PHOTOGRAPHS BY TOMO ISHIWATARI

 ある事柄に関して、現地を訪ねてみて初めてわかる熱量というものがある。

「TOHOKU EMOTION(東北エモーション)」の発着場所となる青森県八戸駅に着くと目に飛び込んでくるその横断幕、さらにこれまでの新聞記事をスクラップしたボードの類から気づかされるのも、地元の人々にとってのTOHOKU EMOTIONの存在の大きさだ。

画像: 八戸駅構内に掲げられた横断幕のイラストは、当時東北を拠点としていたアキレス・グレミンガー氏と長谷部直美さんによるデザインユニットKOBIRIが担当。乗車記念のお土産として渡されるポストカードセット、列車内の壁に設置された見どころマップ、ランチョンマットなどにも彼らのイラストが採用され、ほかにないポップな魅力もエモーショナル

八戸駅構内に掲げられた横断幕のイラストは、当時東北を拠点としていたアキレス・グレミンガー氏と長谷部直美さんによるデザインユニットKOBIRIが担当。乗車記念のお土産として渡されるポストカードセット、列車内の壁に設置された見どころマップ、ランチョンマットなどにも彼らのイラストが採用され、ほかにないポップな魅力もエモーショナル

 ホームに降りると待機しているのはJR釜石線の急行に使われていたという、昔ながらの四角張った車両3両をリノベーションした列車。白一色のエクステリアにはグレーの線画でレンガのブロックを思わせる外壁などが描かれていて、これは列車を白いキャンバスに見立て、クレパスのようなタッチで“移動するレストラン”を表現したもの。ドアの左右には乗降時のみランプも吊り下げられ、足元に敷かれたレッドカーペットに至るまで、出だしから“エモーション(感情・感動)”の名に恥じないしゃれた演出に、早くも大人の遠足に出かけるような高揚感を覚えつつ、車内に乗り込む。

画像: 白いキャンバスに見立てた列車のエクステリアは、イタリア人以外で初めてフェラーリをデザインしたことでも知られ、秋田新幹線、北陸新幹線、クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」も手がけるデザイナーの奥山清行氏が担当。写真は久慈駅にて

白いキャンバスに見立てた列車のエクステリアは、イタリア人以外で初めてフェラーリをデザインしたことでも知られ、秋田新幹線、北陸新幹線、クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」も手がけるデザイナーの奥山清行氏が担当。写真は久慈駅にて

 3両の内訳は個室のコンパートメント、テーブル&チェアがレイアウトされた通常のオープンダイニング、調理の様子を目撃できるライブキッチン車両となっていて、開始から5年を経た今も満員御礼が続く。人気が衰えない理由のひとつでTOHOKU EMOTIONの最たる特徴は、コースメニューの監修を半年ごと、東京と東北の話題性あふれるレストランのシェフが交互に担うことで、ツーリスト以外にフーディーズ、さらにリピーターにも新鮮な体験を提供できている点にある。

画像: 1号車は7室のコンパートメントで、定員は各4人まで。シートの上の壁面のファブリックは福島の刺子織をモチーフにするなど、あらゆるディテールに東北テイストのキュレーションが貫かれている。なお、インテリアデザインはIntentionalliesの鄭秀和氏が担当。他に歴代シェフをはじめ、オリジナルBGMや車内アートまで、適材適所の配置を含むプロデュースとプロジェクトマネジメントはTransit General Officeが行なっている

1号車は7室のコンパートメントで、定員は各4人まで。シートの上の壁面のファブリックは福島の刺子織をモチーフにするなど、あらゆるディテールに東北テイストのキュレーションが貫かれている。なお、インテリアデザインはIntentionalliesの鄭秀和氏が担当。他に歴代シェフをはじめ、オリジナルBGMや車内アートまで、適材適所の配置を含むプロデュースとプロジェクトマネジメントはTransit General Officeが行なっている

画像: オープンダイニング車両の3号車。フロアは青森県津軽に伝わるこぎん刺し、照明は岩手県久慈の名産である琥珀、什器の仕上げ材は宮城県石巻の雄勝硯(おがついし)がモチーフに。華美な素材ではなくコンセプトで貫かれたシックな空間は、高級なものだけに捉われることのない成熟した大人にふさわしい

オープンダイニング車両の3号車。フロアは青森県津軽に伝わるこぎん刺し、照明は岩手県久慈の名産である琥珀、什器の仕上げ材は宮城県石巻の雄勝硯(おがついし)がモチーフに。華美な素材ではなくコンセプトで貫かれたシックな空間は、高級なものだけに捉われることのない成熟した大人にふさわしい

 2018年10月から2019年3月までは「予約が取れない」との形容詞でも紹介される一軒、東京のフレンチレストラン「Sincère(シンシア)」の石井真介さんが担当。どのシェフも探し当てた東北の食材を積極的に取り入れ、今期の前菜のアソートでも八幡平のサーモンや岩手牛のローストビーフ、ブリやサンマなど旬の食材、名産のウニまでが、石井シェフの世界に昇華されている。さらにクリエイティブな料理を盛りつける器には、TOHOKU EMOTIONのために特注した東北各県の伝統工芸を採用。それらの手仕事を巡る次なる旅への想像も広がる。

画像: アミューズ、前菜のアソートに続きサーブされたのは、鰯の照り焼きと新鮮なフォアグラをほぐし混ぜて食べる、あったかごはん。蓮の葉をほどくと香りも広がる。器に使用されたオリジナルの曲げわっぱは、秋田の天然杉を利用した大館市の柴田慶信商店の手仕事。ドリンクも岩手の「龍泉洞の水」や「あおもりシードル」、ワインは赤白ともに山形の高畠ワイナリーと、東北ブランドがオンメニュー

アミューズ、前菜のアソートに続きサーブされたのは、鰯の照り焼きと新鮮なフォアグラをほぐし混ぜて食べる、あったかごはん。蓮の葉をほどくと香りも広がる。器に使用されたオリジナルの曲げわっぱは、秋田の天然杉を利用した大館市の柴田慶信商店の手仕事。ドリンクも岩手の「龍泉洞の水」や「あおもりシードル」、ワインは赤白ともに山形の高畠ワイナリーと、東北ブランドがオンメニュー

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