BY YUKA OKADA, PHOTOGRAPHS BY TOMO ISHIWATARI
ある事柄に関して、現地を訪ねてみて初めてわかる熱量というものがある。
「TOHOKU EMOTION(東北エモーション)」の発着場所となる青森県八戸駅に着くと目に飛び込んでくるその横断幕、さらにこれまでの新聞記事をスクラップしたボードの類から気づかされるのも、地元の人々にとってのTOHOKU EMOTIONの存在の大きさだ。
ホームに降りると待機しているのはJR釜石線の急行に使われていたという、昔ながらの四角張った車両3両をリノベーションした列車。白一色のエクステリアにはグレーの線画でレンガのブロックを思わせる外壁などが描かれていて、これは列車を白いキャンバスに見立て、クレパスのようなタッチで“移動するレストラン”を表現したもの。ドアの左右には乗降時のみランプも吊り下げられ、足元に敷かれたレッドカーペットに至るまで、出だしから“エモーション(感情・感動)”の名に恥じないしゃれた演出に、早くも大人の遠足に出かけるような高揚感を覚えつつ、車内に乗り込む。
3両の内訳は個室のコンパートメント、テーブル&チェアがレイアウトされた通常のオープンダイニング、調理の様子を目撃できるライブキッチン車両となっていて、開始から5年を経た今も満員御礼が続く。人気が衰えない理由のひとつでTOHOKU EMOTIONの最たる特徴は、コースメニューの監修を半年ごと、東京と東北の話題性あふれるレストランのシェフが交互に担うことで、ツーリスト以外にフーディーズ、さらにリピーターにも新鮮な体験を提供できている点にある。
2018年10月から2019年3月までは「予約が取れない」との形容詞でも紹介される一軒、東京のフレンチレストラン「Sincère(シンシア)」の石井真介さんが担当。どのシェフも探し当てた東北の食材を積極的に取り入れ、今期の前菜のアソートでも八幡平のサーモンや岩手牛のローストビーフ、ブリやサンマなど旬の食材、名産のウニまでが、石井シェフの世界に昇華されている。さらにクリエイティブな料理を盛りつける器には、TOHOKU EMOTIONのために特注した東北各県の伝統工芸を採用。それらの手仕事を巡る次なる旅への想像も広がる。