JR東日本が「東北エリアへの観光流動の創造を通じて、3.11以降の震災支援と地域活性化に取り組みたい」と、2013年10月に運転を開始した“東北レストラン鉄道”こと「TOHOKU EMOTION(東北エモーション)」。その今を体感しに、この冬、北三陸の海岸線へ

BY YUKA OKADA, PHOTOGRAPHS BY TOMO ISHIWATARI

 八戸駅を出発し岩手の久慈駅まで、北三陸の海岸沿いを縦貫するJR八戸線は、片道約2時間の旅。春には3万匹以上が到来するウミネコの繁殖地で、日本では唯一間近で巣を観察できるという「蕪島(かぶしま)」、司馬遼太郎が『街道を行く』シリーズの『陸奥のみち』でその美しさを絶賛した、波打ち際まで芝生が広がる「種差(たねさし)海岸天然牧草地」といったビュースポットでは、列車はしばしば減速。日頃から八戸線に乗務しているスタッフの素朴なアナウンスも、景観への理解を助けてくれる。何よりふだんの忙しいスピードから物理的に離れ、コトコトと走る列車の音と昔懐かしい速度に身を委ねるひとときが、穏やかな心のテンポを取り戻させてくれる。

画像: サーフスポットも点在する海岸沿い、コンパートメントの窓から太平洋の波しぶきを眺める。車内では食事のメニュー以外に「景観のおしながき」と題されたパンフレットも手渡され、乗客がおすすめの見どころを見逃さないがための配慮が行き届いている

サーフスポットも点在する海岸沿い、コンパートメントの窓から太平洋の波しぶきを眺める。車内では食事のメニュー以外に「景観のおしながき」と題されたパンフレットも手渡され、乗客がおすすめの見どころを見逃さないがための配慮が行き届いている

 そして乗車して1時間を過ぎ、列車は青森県から岩手県へ。おおよそメインの料理にありつく頃、車窓の外に突如、大漁旗や手を振る人々の姿を見つけることができる。これは「洋野(ひろの)エモーション」と名づけられた、2013年の開始直後から洋野町の住人が持ち回りで行なうようになった乗客への歓迎の証だ。

画像: ある日の洋野エモーションの歓迎風景。その後、到着した久慈駅でも到着時と帰りの発車の際、「よぐぎてけさった 北いわてゆとり旅」とメッセージ入りの半被を着た地元の役場スタッフが、横断幕と大漁旗を降って歓迎の意を表してくれた

ある日の洋野エモーションの歓迎風景。その後、到着した久慈駅でも到着時と帰りの発車の際、「よぐぎてけさった 北いわてゆとり旅」とメッセージ入りの半被を着た地元の役場スタッフが、横断幕と大漁旗を降って歓迎の意を表してくれた

 ちなみに洋野がある種市駅から久慈駅は、震災後、八戸線で最後まで復旧に時間がかかった不通区間だったという。そんな時間を乗り越え、5年間、列車が運行する日は欠かさずに私たちを迎える人々。対して私たちは東北を想い続けてきただろうか。そんな気持ちにも駆られながら、まさにエモーショナルな物語に心を揺さぶられる。

画像: 伝統的な魚のパイ包みを鯛焼きの形に仕上げ、石井真介シェフの遊び心を感じさせる「Sincère」のシグネチャーがメイン料理。日常の器で知られ、明治時代にはこの地を訪れた柳宗悦にも評価されたという岩手小久慈焼のシンプルな皿に、2種のソースと新鮮な葉野菜が映える

伝統的な魚のパイ包みを鯛焼きの形に仕上げ、石井真介シェフの遊び心を感じさせる「Sincère」のシグネチャーがメイン料理。日常の器で知られ、明治時代にはこの地を訪れた柳宗悦にも評価されたという岩手小久慈焼のシンプルな皿に、2種のソースと新鮮な葉野菜が映える

 また、折り返し地点となる久慈は偶然にも、TOHOKU EMOTIONがスタートした同年となる2013年に放映された『あまちゃん』の舞台となった地。いまだこの聖地を訪れるファンに混じって、八戸に戻る列車の発車時刻までの約1時間半、降車時に配られる地図を手に町を散策することで、ここでも何らかの熱量を目の当たりにする瞬間があるはずだ。

画像: 到着したJR八戸線の久慈駅は、久慈―宮古間を走る三陸鉄道・北リアス線の久慈駅も併設。構内の「三陸リアス亭」では、鉄道が開業した1984年から店を守り続けるこちら工藤クニエさんと、常に売り切れと聞いていた幻の駅弁「うに弁当」と運良く対面。「初めは車内販売もしていたのよ」と懐かしそうにアルバムを見せてくれた女将の味は、蒸しあげた雲丹の白米に染みる風味まで絶品

到着したJR八戸線の久慈駅は、久慈―宮古間を走る三陸鉄道・北リアス線の久慈駅も併設。構内の「三陸リアス亭」では、鉄道が開業した1984年から店を守り続けるこちら工藤クニエさんと、常に売り切れと聞いていた幻の駅弁「うに弁当」と運良く対面。「初めは車内販売もしていたのよ」と懐かしそうにアルバムを見せてくれた女将の味は、蒸しあげた雲丹の白米に染みる風味まで絶品

 例えば今回、久慈駅のホームで一瞬を共にした現地の人々との立ち話では、TOHOKU EMOTIONの乗客の中にはそこにひとときの娯楽を求めようとする地元の人々も多いという。そして2019年3月には、東日本大震災で不通になっていたJR山田線の宮古~釜石間が復旧・移管し、久慈~盛間までが第三セクター鉄道としては最長の三陸鉄道「リアス線」と名付けられ、運行を開始すると。

 5年目を迎えたTOHOKU EMOTIONは、そうして復興のシンボルから地元や人々の日常に溶け込んだ存在となり、ここからの東北を伝え始めている。

画像: いきいきと調理するスタッフの様子も印象的だった、ライブキッチン車両となる2号車のカウンター。久慈駅から八戸駅の復路では、ホテルメトロポリタン盛岡の熊谷崇シェフが監修した季節のデザートブッフェがびっしりと並ぶ

いきいきと調理するスタッフの様子も印象的だった、ライブキッチン車両となる2号車のカウンター。久慈駅から八戸駅の復路では、ホテルメトロポリタン盛岡の熊谷崇シェフが監修した季節のデザートブッフェがびっしりと並ぶ

「TOHOKU EMOTION(東北エモーション)」

運行線区:八戸線(八戸駅〜久慈駅間)※各運転日に1往復
運行日:年末年始を除く金・土・日・月を中心に八戸線の臨時列車として運行
※ 詳細は公式サイトにて要確認
運転時刻:
往路(ランチコース付き)八戸駅11:05発→久慈駅12:56着
復路(デザートブッフェ付き)久慈駅14:20発→八戸駅16:07着
料金:
往路 大人¥7,900・子供¥7,300
復路 大人¥4,500・子供¥3,900
往復利用 大人¥11,900・子供¥10,700
※2名以上から申し込み可
公式サイト

 

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