BY HARUMI KONO

ホテルの中心部にあるインフィニティプール。プールの向こうに広がる海の色の移り変わりをずっと眺めていたい
COURTESY OF ROSEWOOD MIYAKOJIMA
ローズウッド ホテルズ&リゾーツ®は歴史的建造物を現代にコンバートした「ローズウッド ロンドン」や「ローズウッド ウィーン」、新たに建築した「ローズウッド香港」や「ローズウッド アムステルダム」など多様な30以上のホテルを世界21ヶ国の都市部とリゾート地で展開している。そのため「世界のローズウッドに泊まることが旅の目的」というウルトララグジュアリートラベラーが多く、日本での開業が長い間待ち望まれていた。そして2025年3月1日、満を持してローズウッド宮古島がそのドアを開いた。

大浦湾の岬に建つローズウッド宮古島。総敷地面積は9万5,000平方メートル。5つのエリアから構成されるヴィラは「だや(崖)」、「むい(山)」、「みじ(水)」、「うる(砂)」、「いす(磯)」と自然の地形に由来する琉球語の名前が付けられている。岬の最先端はカメを意味する「KAMII(カミイ ハウス)」
COURTESY OF ROSEWOOD MIYAKOJIMA
ローズウッドが日本初上陸の地に選んだのは沖縄県宮古島。手付かずの自然に恵まれ、独自の歴史と文化を継承する信心深い人々が暮らす宮古島は、ローズウッドの理念であるその土地の歴史、文化、感覚を反映する「A Sense of Place®(センス オブ プレイス)」と共鳴する。

ローズウッド宮古島 マネージング ディレクター 中山典子氏
慶應義塾大学大学院修了後、イェール大学にて環境科学修士号を修める。帰国後、マンダリン オリエンタル ホテル、パーク ハイアット東京などの外資系ラグジュアリーホテルでキャリアを積み、ザ・キタノホテル東京の総支配人を経て現職。カメとの出会いは子供の時に飼育していた金魚の餌を買いに行ったペットショップで
COURTESY OF ROSEWOOD MIYAKOJIMA
2023年に東京から宮古島に拠点を移したマネージング ディレクターの中山典子氏は、開業までの過程を振り返る。「地元の自治会、料理店、個人商店などを訪問して、ローズウッドとは何かを説明することから始めました。島の人々と交流ができたことはとても良い経験でした。もちろん今もその関係は続いています」。

カメ類の研究者であるマネージングディレクターの中山氏は、手前のスッポンの頭骨とハコガメの甲羅とを比較しながらウミガメの種類や生態系についてわかりやすく話をしてくれた
PHOTOGRAPH BY HARUMI KONO
次に中山氏は「宮古島の自然を地元の方々とローズウッドで一緒に守り、その自然をゲストと共有したい」と地域コミュニティとの共存への思いを語った。中山氏はカメ類の研究者であり、イェール大学で環境科学修士号を修めたホテリエとして異色のキャリアをもつ。豊富な海藻が生育する宮古島は多くのウミガメが棲息するが、日本では唯一のウミガメに関する継続調査が行われていない地域である。ホテルを拠点に、アカデミックな観点からウミガメを中心に島の生態系を観察することで、宮古島の環境保全に貢献できるのではないか。自然環境の専門家がマネージング ディレクターとして地元とホテルを結び、宮古島の美しい自然をゲストに伝えることができるのではないか。ローズウッド宮古島の誕生には、こうした意図も込められている。

絵画のフレームのように切り取られた「KUURA(クウラ)ハウス」の窓から見る景色
COURTESY OF ROSEWOOD MIYAKOJIMA
ローズウッド宮古島は、宮古島北部の、ありのままの自然が残された大浦湾の岬に建つ。琉球石灰岩が使われたシンプルでモダンなデザインは「ローズウッド アムステルダム」を手がけるオランダのデザイナー、ピート・ブーン氏によるものだ。スイートルームの「ハウス」3棟を含む全55棟のヴィラタイプの宿泊棟、4つのレストラン&バー、スパ、イベント用のパビリオン、ビーチを臨むインフィニティプールから構成されている。

各部屋には大きなテラスとプールがあるので開放感がある
COURTESY OF ROSEWOOD MIYAKOJIMA
各部屋は靴を脱いで部屋に上がる日本の生活様式で、プライベートプールを完備。プールから直接バスルームにアクセスできる動線は、居住空間として利便性が抜群だ。サンドベージュを基調にしたナチュラルテイストの部屋にはウミガメがモチーフのやちむん(壺屋焼の茶器)、カラカラ(泡盛を飲む酒器)、花器、海や宮古上布(織物)の柄をモチーフにしたアート作品が並び、宮古島の情緒たっぷりだ。

ウミガメがモチーフのやちむん(壺屋焼の茶器)は、ローズウッド宮古島のために作られた特別なもの
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レストランとインルームダイニングでは、地元の農家、持続可能な農業体系を尊重しながらクオリティの高い食材を使って調理する「パートナーズ イン プロヴァナンス」を採用しており、ゲストは新鮮な魚介類、野菜など宮古島産の味覚を存分に堪能できる。中には社会福祉施設で栽培された野菜も含まれ、食を通じた社会貢献につながっている。

オールデイダイニングの「NAGI(ナギ)」の朝食は和食、洋食、ビュッフェから好きなものを選ぶスタイル。夕食はサンセットを見ながら楽しみたい
COURTESY OF ROSEWOOD MIYAKOJIMA

「NAGI(ナギ)」の朝食。南の島らしく、フレンチトーストに添えられているのはドラゴンフルーツ
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「NAGI(ナギ)」の夕食。生ハムとメロンの定番メニューだが、宮古島産のメロンは果実味たっぷりの美味しさ
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オールデイダイニングの「NAGI(ナギ)」はイタリアン、島の特産物である塩をコンセプトにした「MAAS(マース)」は海外で人気の日本の居酒屋スタイルで、ともに新鮮な魚介類を提供している。今後展開予定の日本食レストラン「CHOMA(苧麻)」(宮古上布の原材料である多年草の植物で作られた糸の意味)も楽しみだ。バーでは宮古島に伝わる民話、童歌、祭りなどの固有の文化をカクテルで体現するバーマネージャー井崎宇太郎氏のクリエイティブな活躍に注目したい。

「Asaya Spa(アサヤ スパ)」ではカウンセリング時に、香りのサンプルから好みのオイルを選ぶ
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ウエルネスの中心「Asaya Spa(アサヤ スパ)」でもまた、自然の恵みを最大限に生かしている。アサヤ スパでは植物性由来の成分で作られたスキンケアブランド「LAPIDEM(ラピデム)」とコラボレーション。陰陽五行思想をベースにした木、火、土、金、水の5つのトリートメントオイルから好みのものを選び、沖縄産のハーブとソルトを使ったトリートメントが行われる(事前予約必須)。

4歳から12歳の子どもたちの滞在を一層楽しくする「ローズウッド・エクスプローラーズ・クラブ」。様々なプログラムを通して宮古島の文化と自然を学ぶことができる。1歳から3歳までの幼児にはベビーシッターのサービス(有料)がある
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家族連れのゲストに嬉しいホスピタリティは、4歳から12歳の子ども向けの「ローズウッド・エクスプローラーズ・クラブ」だ。子どもたちが自由に遊べるスペースがあり、ボディペイントなどのアクテビティに参加することで、宮古文化を楽しみながら体験できる様々なプログラムがある。小さなゲストを大切にする背景には、5人の子の母であるローズウッドCEOソニア・チェン氏の「大人も子どもも楽しんでほしい」という強い思いがある。中山氏は「宮古島の動植物に触れて、子どもたちに本物の自然を身近に感じてほしい」と願いを込める。

二方面に窓があるデラックスオーシャンビューヴィラのリビングルーム。ミニバーにはカクテルセットが用意されている。バーマネージャー井崎氏の話を聞けば、きっとカクテルを作りたくなるはず
COURTESY OF ROSEWOOD MIYAKOJIMA
ローズウッド宮古島に滞在して感じることは、ゲストとスタッフの距離の近さだ。スタッフはユニフォームに名札をつけていないのだが、朝食や夕食時のレストランではスタッフを名前で呼び、会話を楽しむゲストがほとんどだ。これはローズウッドが大切にしている「リレーションシップ ホスピタリティ」が確実に構築されている証だ。またゲスト同士が「この前はパリのクリヨンに泊まりました」、「私たちはローズウッド プーケットで休暇を過ごしました」と、ローズウッドの話題で盛り上がるシーンもしばしば見受けられるという。

テラスに面したヴィラの室内。朝日を浴びて目覚める一日がスタート
COURTESY OF ROSEWOOD MIYAKOJIMA
世界に展開するローズウッドは、ゲストだけではなくスタッフ間の交流ができることも大きな強みだ。実際、宮古島のスタッフの中にはサンパウロや香港のローズウッドでのキャリアを有する者、海外のローズウッドで新人研修を受けた者、初めて宮古島で現場に立つ者がゲストを迎える。現在15カ国のスタッフが在籍するローズウッド宮古島でスタッフをまとめるために大切なことは、との問いに中山氏は「言葉の壁を越えて助け合う精神を大切にしています」と答えてくれた。多国籍のゲストとスタッフが行き交うホテルの空間は、まるで異国にいるような感覚を覚えるが、随所に感じられる「センス オブ プレイス」のお陰で、ここは宮古島であるということを実感できる。

大浦湾の先端にある「KAMII(カミイ)ハウス」のテラス。ハウスは150平米以上のスペースに、キッチンとバーベキューグリルを備えて、バトラーサービスがある。家族や友人同士など、親しい人たちと海辺に暮らすような滞在ができる
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ローズウッド宮古島の将来について中山氏は、「宮古島出身のスタッフが増えて、ここで働きたいと思えるホテルにすることです。さらに今以上に地元の方々との交流が盛んになっていることです。そして、お客様が宮古島に帰ってきてくださるように、宮古島の良さをローズウッドの視点でもっと発信できるようにすることを目指しています」と語ってくれた。地域コミュニティと共に歩むローズウッド宮古島は、ラグジュアリーリゾートのあり方を教えてくれる貴重なホテルだ。
ローズウッド宮古島
住所:沖縄県宮古島市平良字荷川取1068-1
公式サイトはこちら
髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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