BY HARUMI KONO

1700年代に創業した郵便馬車の御者たちが休憩するコーヒーハウスが始まり、という歴史を有するザ バークレー。時を経てホテルとなり、1972年、現在の場所に移転。名前はコーヒーハウスがあったメイフェアのバークレー ストリートに由来する
前回の連載記事でご紹介したジ エモリー(以下、エモリー)と同じく、メイボーン・ホテル・グループ(以下、メイボーン)に属するホテル、ザ バークレー(以下、バークレー)。住所を見ると離れた場所にあるように思えるが、エモリーとは扉一枚を隔てた隣同士で、客室がある2階以上のフロアは廊下でつながっている。「レジデンスを意識したエモリーと比較すると、よりイノベーティヴで遊び心を感じていただけます」と総支配人のコスタス・スファルトス氏は言う。客室はテラス付きの「ナイツブリッジ パヴィリオン ペントハウス」、「アパートメント」と呼ばれるスイートルームなどがあり、デザインはアンドレ・フーをはじめジョン・ヘア、ヘレン・グリーンが担当、コンテンポラリーやエレガントなスタイルといったデザイナーのセンスが発揮されている。

アンドレ・フー デザインの「ナイツブリッジ パヴィリオン ペントハウス」のリビングルーム。窓から見えるロンドンらしい建物が趣を与えている。左側には広々としたテラスがある

美しいシンメトリーの「アパートメント」(スイートルーム)の寝室

「アパートメント」のリビングルームはモダンなデザインの部屋に現代アート作品がマッチしている

「セドリック・グロレ アット ザ バークレー」では毎朝焼きたてのパンを購入することができる。エモリーとバークレーに宿泊するゲストには、「abcキッチン」、「ザ バークレー カフェ」、インルームダイニングにて朝食時にサーブされる
バークレーの特徴はビジターにも優しいことだ。ホテルの1階部分、レストラン、カフェ、バーなどのダイニングエクスペリエンスは、宿泊者ではなくとも気軽に利用できる。中でも注目なのは「セドリック・グロレ アット ザ バークレー」。インスタグラムで1,283万人のフォロワーを誇り、パリの名門「ル ムーリス」で腕を振るうセドリック・グロレが初めて世界進出したのが、ここ、バークレーだ。毎朝、焼きたてのクロワッサンやヴィエノワズリーを買い求める人や「ザ バークレー カフェ」のアフタヌーンティーを目当てに訪れる人が後を絶たない。表通りにセドリック・グロレのパティスリーに直接アクセスできる入り口を設けたことで、ドアマンのいる玄関から高級ホテルへ入るという緊張感もなく、観光客や、ハイドパークに散歩にきたついでにと立ち寄る地元の人々で、毎日賑わっている。

パリのパラスホテル「ル ムーリス」のシェフパティシエとして活躍するセドリック・グロレが作り出す季節の果物を使ったスイーツの数々

セドリック・グロレのアフタヌーンティー。季節ごとに変わるメニューも注目される

アフタヌーンティやお茶を楽しむゲストで人気の「ザ バークレー カフェ」

南フランスの名店「ラ モーム」がロンドンに初上陸した「ラ モーム ロンドン」。テラスとバーカウンターを併設している
レストランもまた南フランス、カンヌの地中海料理レストラン「ラ モーム」が「ラ モーム ロンドン」としてロンドンに初上陸。テラス席を併設した広々とした店内だが、すぐに予約で一杯になる人気レストラン。生演奏を聴きながらディナーを堪能できる。

1階にある「ザ バークレー バー&テラス」のテラス席の目の前には聖ポール教会

「ザ バークレー バー& テラス」のテラス席から中に入るとピンクベージュを基調にした遊び心ある空間がゲストを迎える
建物裏手に入り口がある「ザ バークレー バー & テラス」は1階に。目の前の聖ポール教会を眺めながらカクテルを味わうこともでき、大人の雰囲気が漂う。
前回ご紹介したように、エモリーにはルーフトップバーとシガー マーチャンツがあるが、バークレーの最上階にはやはりロンドンでは珍しい「ルーフトップ プール」と「ルーフトップ バー」がある。プールの利用は宿泊のゲストに限られるが、プールサイドのルーフトップバーはビジターも受け入れている。ロンドンの空を近くに感じるフールトップ プールはとても人気で、「このプールを目的に、1カ月もの滞在をご予約されたお客様もいらっしゃるほどです」とスファルトス氏。

ロンドンの空を近くに感じる「ザ バークレー ルーフトップ プール」
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE BERKELEY
ビジターでも気軽に利用できるホテルであるがゆえに、バークレーでは宿泊ゲストへの配慮もなされている。たとえばレセプション周りの改装が行われ、今年の8月には宿泊手続きやコンシェルジュデスクの利用のほか、読書やちょっとした休憩など、ゲストが静かに過ごすことができるサロンが誕生した。この改装は、宿泊ゲストからのフィードバックをホテルが真摯に受け止めて実現したものだ。メイボーンのような小さな規模のホテルブランドでは、宿泊者の声がすぐに届くからこそ、細かな部分まで気を抜けないという緊張感が常にある。それでも改装のような大規模なことから日々の小さなことまで、スファルトス氏をはじめスタッフ全員がゲストの思いを察し、細やかなホスピタリティを提供することで、世界中から人々を惹きつけている。
バークレーに宿泊するゲストは、ウェルネス施設「シュレンヌ」や「abcキッチン」での朝食など、エモリーの施設を使うことができる。エモリーとバークレーを自由に行き来しながらロンドン滞在を楽しむ。そんな贅沢がかなうのは、名門メイボーンのホテルだからこそ――2つのホテルが、旅に美しい余韻を残してくれるのだ。
バークレー
The Berkeley
Wilton Place
Knightsbridge
London SW1X 7RL
公式サイトはこちら
髙野はるみ(こうの・はるみ)
株式会社クリル・プリヴェ代表
外資系航空会社、オークション会社、現代アートギャラリー勤務を経て現職。国内外のVIPに特化したプライベートコンシェルジュ業務を中心にホスピタリティコンサルティング業務も行う。世界のラグジュアリー・トラベル・コンソーシアム「Virtuoso (ヴァーチュオソ)」に加盟。得意分野はラグジュアリーホテル、現代アート、ワイン。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ。
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