BY MASANOBU MATSUMOTO MARCH 08, 2018
2018年1月に一般社団法人アート東京が発表したレポートによると、2017年の国内アート市場における美術作品の販売売上は約2437億円。依然、増加傾向にある。これまで敷居の高いものとされてきた「アート作品を買う」という行為が、徐々に一般的になってきたことの表れだ。大きなシェアを占める販売チャネルは、アートギャラリーや、外商を含む百貨店。上位には位置しないが、アート市場のなかで今後さらにドラスティックに変化する可能性があるのは、オークションだろう。
「かつてオークションは、会場に赴いて出品アイテムに入札する、という非日常的な取引でした。が、いまやeBayやヤフオクなどのサイトもあり、オークション自体が驚くほど身近なものなった」。そう話すのは、300年の歴史を持つ世界的オークションハウス、フィリップスの会長兼CEOエドワード・ドルマン氏だ。フィリップスは、20世紀&コンテンポラリーアート、20世紀のデザインや写真、宝飾品などのオークションや展覧会を運営。2017年9月には、フィリップNYが主催者となって、インテリアデザイナー片山正通のアートコレクションを取り扱うシングルオーナーオークションを開き、日本でも話題になった。「特にいま、日本では世界的にインパクトのある若いアートコレクターが増えている。この新しい世代にとって、オークションはさらにアートを買うための有効な選択肢になっていくはずです」
そもそもアート作品を買う際、オークションには確かなメリットがある。「それは、作品をマーケットプライスで買えることです。アートギャラリーと違い、オークションは“競り”。リアルタイムで価格が変わり、自分が提示したプライスに対し、周りの反応を読むこともできる。結果として、適正な価格で作品を購入できるのがオークションの魅力でしょう」とエドワード氏。実際、フィリプスで競り落とされるアート作品の平均額は約11万ドルで、大きくニュースになるような高額作品ばかりではないという。「1000ドルくらいの作品も出品されていて、特に、版画などの量産品、20世紀デザインのカテゴリーでもセラミック製のものは比較的安いプライスから競りが始ります。ビギナーがアート作品を買う場としても、オークションをお勧めしたいですね」
この数年、フィリップスはオンラインで入札できるオークションのライブプラットフォームの開発に力を入れてきた。フィリップスの競売場があるのは、ロンドン、ニューヨーク、そして香港の3都市。これまで、現地で自ら入札する以外にも、会場にいる日本人セールススタッフとの電話による入札、また書面で金額を残しておく不在ビッドなどの方法はあったが、このプラットフォームを使えば世界中のどこからでも簡単にオークションに参加できるようになる。「すでにフィリップス全体のオークション売上の約30%は、このオンラインで取引されたもの。それで入札する日本の方も増えています」。また、公式サイトでは、3月8日・9日にロンドンで開かれる20世紀&コンテンポラリーアートのオークションに先駆け、作品をスペースに設置して360度眺めることができるVRも公開。サイズ感や空間にどうフィットするかなど、作品を購入する上で重要な、フィジカルな要素をフォローする。