BY MASANOBU MATSUMOTO
国をあげて文化政策を推進する芸術大国・フランスで、日本の通称“人間国宝”(重要無形文化財保持者)にあたる「メートル・ダール」が策定されたのは、1994年。意外にも、日本の制度にならってのことだ。どちらの国の称号も工芸分野における最も名誉あるものに違いないが、「メートル・ダール」の場合、選ばれた職人は、3年のあいだ弟子を取り、後継者を育成することが義務付けられている。伝統文化の保護だけでなく、優れた技を未来に伝承し、ものづくりの革新に貢献することも「メートル・ダール」称号獲得者の使命ということだ。もちろん彼ら自身の創作も、たとえ古典的な技法であってもけっして保守的ではない。時に挑戦的で、イノベーティブだ。
その仕事ぶりをうかがえるのが、東京国立博物館 表慶館で開催中の「フランス人間国宝展」だ。「メートル・ダール」の称号を得た13人と、今後その授与を期待される2人、合計15人の工芸作家による作品が会場に集結している。
元エルメスの工房職人であり、かの「ケリーバッグ」を手がけたことでも知られる革職人セルジュ・アモルソ。イヴ・サンローランの愛用メガネの制作者で、ジャック・シラク、フランソワ・ミッテランなどの政治家を顧客にもつ、べっ甲細工作家のクリスティアン・ボネ。映画や舞台美術のシーンでも活躍し、世界の王族からも指名を受ける傘デザイナー、ミシェル・ウルトー。洗練された美を宿す大御所たちの傑作も見どころだが、実用品の延長にある工芸の枠を超えた、ファインアート的な作品も面白い。
たとえば、羽根細工作家のネリー・ソニエ。彼女は、これまでファッションやジュエリーブランドとコラボレーションし、装飾品としての羽根細工の可能性を拡張してきた。今回は、実用品ではない巨大な動植物のオブジェも展示し、羽根というモチーフに潜む自然観をスケールアップしてみせている。教会のステンドグラスの修復などを手がけていたガラス作家のエマニュエル・バロワは、近年、現代建築のファサードや内装のデザイン装飾も展開。“建築物にガラスのオートクチュールドレスを纏わせる”という作風を発展させ、本展のために、ガラスの素材的特徴に美のヒントを得た立体作品を制作した。
ネリーは、過去、京都・銀閣寺で華務・花方を務めてきた珠寳と、エマニュエルはマルセイユ現代美術館の設計で建築家、隈研吾と協業。そうしたアトリエの外で起こるコラボレーティブな経験も、彼らのクリエーションに大きな影響を与えたことは間違いない。巧みな手仕事を行う彼らの手は、アトリエの弟子や職人、時に他ジャンルのクリエイターともボーダレスに手を結ぶ。その自由な手の持ち主こそ、フランスの人間国宝であり、ものづくりのイノベーションの鍵であることも、本展は伝える。
フランス人間国宝展
会期:〜2017年11月26日(日)
会場:東京国立博物館 表慶館
住所:東京都台東区上野公園13-9
開館時間:9:30~17:00 ※金・土、11月2日(木)は21:00まで
(入館は30分前まで)
休館日:月曜日 ※10月9日(月・祝)は開館
入館料:一般¥1,400、大学生¥1,000、高校生¥600、中学生以下無料
TEL. 03(5777)8600(ハローダイヤル)