フィンランドを代表する「マリメッコ」と「アラビア」に愛された石本藤雄をご存じだろうか。地元の愛媛県美術館で始まった『石本藤雄展―マリメッコの花から陶の実へー』は、石本のものづくりに捧げた冒険的人生に触れるものであり、77歳での晴れ舞台を盛り上げる地方の懐深い取り組みでもある

BY YUKA OKADA, PHOTOGRAPHS BY HIROAKI ZENKE

 一度でも愛媛・松山を訪れたことがある人なら、市街地の彼方に連なる障子山の山並みを眺めたことがあるのではないだろうか。

 2018年10月、愛媛県美術館で個展が開幕した石本藤雄は1941年、この障子山のふもとにある砥部町に生まれた。日常使いの器で知られる砥部焼の里にあって、みかん農家を継いだ海軍出身の父と母のもと、6人兄弟の5番目として野山に遊び、ときには姉の持っていた美術の教科書を見てボナールなどの絵に魅了され、とかくものづくりに没頭する。1960年に東京藝術大学美術学部工芸科に進学すると、卒業後は藝大の先輩である石岡瑛子の勧めで繊維会社の市田へ。PR誌のグラフィックデザインから展示会のディスプレイ、呉服の柄から店舗設計までを手がける広告デザイナーとして、伸びやかに活躍する。

画像: 石本藤雄。2010年には国を代表するアーティストとしてフィンランドの最高位の勲章で知られるフィンランド獅子勲章プロ・フィランディア・メダルを受勲、日本では2011年に旭日小綬章などを受章。2018年で77歳を迎えた

石本藤雄。2010年には国を代表するアーティストとしてフィンランドの最高位の勲章で知られるフィンランド獅子勲章プロ・フィランディア・メダルを受勲、日本では2011年に旭日小綬章などを受章。2018年で77歳を迎えた

画像: マリメッコも全面協力した松山の愛媛県美術館での個展は2018年12月16日(日)まで。同期間中は第2会場として砥部町文化会館でも展示が実現。2019年春には京都の細見美術館、夏には東京のスパイラルでの巡回展も決定している

マリメッコも全面協力した松山の愛媛県美術館での個展は2018年12月16日(日)まで。同期間中は第2会場として砥部町文化会館でも展示が実現。2019年春には京都の細見美術館、夏には東京のスパイラルでの巡回展も決定している

 そして1970年夏、30歳を目前に大決断。「より広い世界が見たい」と退職金を手に、1年間に決められた移動距離内であれば行き先を変更できる、当時の日本航空が売り出していた世界一周パッケージをローンで購入。この一世一代の旅の途上、3カ月めに早くも所持金がわずかとなったコペンハーゲンでパリへ向かうはずのルートを変更。学生時代から興味を抱いていたフィンランドデザインの中心、ヘルシンキへと舵を切る。そこで日本で目にしていたマリメッコのテキスタイルと再会。本人いわく「今思うと無鉄砲としか言いようがない(苦笑)」と、突き動かされるように就職を懇願しに行ったマリメッコ創業者の一人アルミ・ラティアとの出会いが、50年におよぶフィランド生活とその人生を決定づけた。

画像: マリメッコに入社した直後にアメリカのハウスウェアブランドのために描き上げたファブリック(右と左は“Suvi【夏】”/1977年、中央の2点は“Onni【Happy】”/1975年)。今回の個展に合わせてリプロダクションが実現した。2019年春には限定で商品化も予定

マリメッコに入社した直後にアメリカのハウスウェアブランドのために描き上げたファブリック(右と左は“Suvi【夏】”/1977年、中央の2点は“Onni【Happy】”/1975年)。今回の個展に合わせてリプロダクションが実現した。2019年春には限定で商品化も予定

 今回、愛媛県美術館に設けられた2つの展示室のうちひとつは、石本がマリメッコのテキスタイルデザイナーとして2006年に定年退職するまで32年間に生み出した作品を、自身が展示構成を手がけインスタレーションとして紹介。圧倒的なのは、円柱状に丸められた35種の多種多様なプリントテキスタイルがランダムに天井から吊り下げられた一部屋。それぞれがまるで木の幹のような、そこにはカラフルなテキスタイルの森を散策するかのような体験が待っている。

画像: 石本が手がけた400以上のデザインから、自身が所有するものからマリメッコ所蔵のものまで、広い作風を感じさせる35種を厳選。色地に黒、左手前のテキスタイルが針葉樹林の草原を描いた“Suuri Taiga【大草原】”/1991年。25年ものロングセラーになった作品

石本が手がけた400以上のデザインから、自身が所有するものからマリメッコ所蔵のものまで、広い作風を感じさせる35種を厳選。色地に黒、左手前のテキスタイルが針葉樹林の草原を描いた“Suuri Taiga【大草原】”/1991年。25年ものロングセラーになった作品

「ドイツの建築雑誌で似たような展示方法を見たことがあって。テキスタイルというのは広げずに反物のように丸めて見ることで、柄が主張しなくなって、やわらかく見えるんです。逆に木枝でも小花でも、そのデザインは基本的には“リピート(繰り返し)”であって、それでいて退屈でないものじゃないといけないんですが、もうひとつ何かが足りないような柄でも、丸めて見ることでいいあんばいに見えてきます」(石本)

 個展の開幕に合わせて松山入りした石本が語ったそんな言葉は、テキスタイルのひとつの見方を指南してくれてもいるが、水田の稲穂が揺れるさま、四角を描くようなトンボの飛行跡、ときには夜明けのグラデーション……。ある種の規則性の向こう側に広がり見えてくるのはじつにおおらかな自然の情景であり、風であり、季節や間(ま)であり、光でもある。そんな私たちのDNAに刻まれながらも大人になるにつけ目を向ける余裕がなくなってしまった原風景に懐かしさが込み上げると同時に、それまでのマリメッコとは異なる作風でブランドの一時代を彩った石本の多彩な感性に惹き込まれる。

画像: 展示室ではヘルシンキの自宅で収録されたインタビュー映像も上映。アルヴァ・アアルトの名作スツールの座面には、石本デザインのテキスタイルが張られている。他に原画やドローイングをはじめ、色彩の実験や思考の軌跡をたどる展示も

展示室ではヘルシンキの自宅で収録されたインタビュー映像も上映。アルヴァ・アアルトの名作スツールの座面には、石本デザインのテキスタイルが張られている。他に原画やドローイングをはじめ、色彩の実験や思考の軌跡をたどる展示も

 

 

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