BY MASANOBU MATSUMOTO
『永遠のソール・ライター』展|Bunkamura ザ・ミュージアム
2017年に東京・Bunkamura ザ・ミュージアムで初の回顧展が開かれ、日本でもその名と作品が広く知られるようになった写真家ソール・ライター。いま彼の回顧展が同会場でふたたび開催されている。ライターは2013年に他界。自宅兼アトリエには、カラーフィルムだけで8万枚以上の作品が残されていたと言われ、いまもなお、作品の整理やアーカイブ化が行われている最中だ。前回から約3年後という短いスパンでのエキシビションではあるが、その間に発見された新たな名作も多く並ぶ。
ソール・ライターがこれほどまでに注目を集めるのはなぜか。その理由のひとつは、彼の特殊な経歴にある。もともと絵描きを目指してNYにやってきたライターは、画家リチャード・プセット=ダートや写真家ユージン・スミスらの勧めから、絵画と並行して写真による表現活動を本格的に開始。その後、アートディレクターのヘンリー・ウルフにその才能が見出され、1950年代からファッションフォトグラファーとして活躍した。しかし、81年頃に自らのスタジオを閉鎖。表舞台から突然、姿を消してしまう。
そうして自由気ままな創作生活、ある意味、隠遁生活を送っていたライターに、転機が訪れたのは93年。写真用品メーカー、イルフォード社の助成が決まり、未発表のカラー写真をプリントする資金を得たのである。じつはライターのアトリエには、経済的な理由からプリントできずにいたカラーフィルムが大量にあり、のち彼が再ブレイクするきっかけとなる、40年代後半から50年代に撮ったNYのスナップ写真もそこに含まれていた。97年、そのアトリエに眠っていたカラー写真を個展で発表すると、彼を再評価する動きはじょじょに高まり、2006年、アートブックの名門シュタイデル社が写真集『Early Color』を出版。ヨーロッパでの個展も開催され、83歳にして世界的に脚光を浴びることになった。
本展には、ライターを“伝説の写真家”に変えたNYのスナップ写真に加え、雑誌のファッションフォト、またあまり知られていないライターの作家性や創作エピソードを伝える作品や資料も展示される。たとえば、ライターが“スニペット(「切れ端」の意味)”と呼んだ小サイズの写真。彼は自身が愛する家族や恋人、飼い猫などを写した写真を名刺サイズに切り出し、それを並べては小さな展覧会を開いて楽しんだという。また、アトリエで発見されたカラースライドも世界初公開になる。ライターは、昔からよく自宅に友人を招き、スライドショーを披露していたそうで、写真を撮る、見せるという行為が彼の日常生活に真に根ざしていたことを伝える作品だ。
彼が残した絵画作品やスケッチブックも見どころだろう。彼のスナップ写真に見られる豊かな色彩感覚やダイナミックな構図は、こうした絵画制作にもよく現れており、ライターが驚くほど一貫した美意識を持っていたことを、まざまざと教えてくれる。
『ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター』展
会期:〜3月8日(日)
※新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため、2月28日(金)をもって本展は中止になりました
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1 B1階
開館時間:10:00〜18:00 ※金・土曜は〜21:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:2月18日(火)
料金:一般¥1,500、大学・高校生¥1,000、中・小学生¥700
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
公式サイト