東京都現代美術館ではじまった美術家、オラファー・エリアソンの個展。そこでオラファーが提示してみせる“新しいエコロジー”とは。本展のキュレーションを務めた長谷川 祐子さんに話をきいた

BY MASANOBU MATSUMOTO

 美術館のなかに人工的な虹や太陽を作り出し、ニューヨークの街中やフランス・ベルサイユ宮殿の庭に巨大な滝を出現させる――。オラファー・エリアソンは、光や影、霧、水、波といった自然界にある要素を巧みに操り、見る者をある種スペクタクルな視覚体験へと誘う現代美術家だ。1967年、コペンハーゲン生まれ。幼少期、週末や夏休みになると、離婚した父親が住む自然豊かなアイスランドで過ごしていたそうで、そういった経験も、彼のユニークな作品世界の下絵になっているようだ。

画像: 《ビューティー》1993年 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年) PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES ©1993 OLAFUR ELIASSON

《ビューティー》1993年
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年)
PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES ©1993 OLAFUR ELIASSON

 また自身のアトリエをいわば“ラボラトリー化”しているのも、美術の枠にとどまらないオラファーの創作の秘密である。この「スタジオ・オラファー・エリアソン」には、現在、科学者や建築家、エンジニア、リサーチャー、料理人といった100名以上の人材が集まり、そこで光学や図学、環境学、現象学や認知科学といった自身の関心分野をリサーチ、研究しながらオラファーは作品をつくる。とりわけ近年は、外部の専門家とも協業し「気候変動」や「エコロジー」といった実際的な社会問題に対して働きかけるプロジェクトに力をいれてきた。

 たとえば、地質学者ミニック・ロージングとともに、コペンハーゲン、パリ、ロンドンでの環境にまつわる国際会議期間中に行われた《アイス・ウォッチ》。グリーンランドの氷床から海に滑り落ちた巨大な氷の塊を拾い上げ、屋外の会場に放置しておくというパブリックプロジェクトだ。約1万年前にできた氷が冷気を放ち、内包していた気泡を放出しながら、パチパチと音を立て溶けていく――そこで鑑賞者は、頭のなかではなんとなく知っていた地球温暖化の一端を、目や耳、身体全体の実感を伴って知るわけだ。

画像: 《太陽の中心への探査》 2017年 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年) PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST AND PKM GALLERY, SEOUL © 2017 OLAFUR ELIASSON

《太陽の中心への探査》 2017年
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年)
PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST AND PKM GALLERY, SEOUL © 2017 OLAFUR ELIASSON

 東京都現代美術館ではじまった『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』は、まさに、いまオラファーが最も関心を寄せる「エコロジー」や「気候変動」を主題に据えた展覧会である。昨年も英国の現代美術館テート・モダンで大規模な回顧展が開催され(現在はスペインのビルバオ・グッゲンハイムに巡回中)、世界各地でエキシビションを開いているオラファーだが、じつは、それらを具体的にテーマとした展覧会は、今回がはじめてだという。

 キュレーターの長谷川 祐子さんは、そのいきさつをこう話す。「日本ではすでに2009年に金沢21世紀美術館で彼の仕事を紹介する個展が開かれています。海外でも華々しい展覧会が行われてきたので、私は、改めて東京で個展を開くならば、“今、この国に本当に必要なこと”をテーマにすべきだと思いました。つまり、津波や原発の問題を踏まえて、私たちは自然環境をどう考え直したのか、これからどう向き合っていくべきかーーオラファーに作品を通じて提示してほしい、と私からオファーしたのです」

画像: 《サステナビリティの研究室》 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年) PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

《サステナビリティの研究室》
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年)  
PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

画像: 《サステナビリティの研究室》(部分) 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年) PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

《サステナビリティの研究室》(部分)
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年)  
PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

 会場に並ぶのは、虹を人工的に作り出す初期の代表作《ビューティー》など、気象や自然現象がいかに人間の意識にまで影響を与えうるかを体感させるインスタレーション作品から、ソーラーパネルで稼動する《太陽の中心への探査》のように、再生エネルギーを活用したものまで。またオラファーのスタジオでは、野菜くずを原料にした顔料(絵の具)など、サステナブルな素材の研究開発も行っており、その一部も《サステナビリティの研究室》と題したスペースで紹介する。

 ところで、この準備中、長谷川さんは「オラファーというアーティストは、やはり只者ではない」と思った瞬間があったそうだ。今回、オラファーは、サステナブルな作品を見せるだけでなく、“展覧会自体をサステナブルに作り上げること”に挑戦。実際に、これらの作品は、作品の輸送によって発生するCO2の量を削減するため、スタジオのあるベルリンから東京まで、空輸でなく列車と船で運ばれた。「彼がすごいのは、その輸送のプロセスを作品にしたことです」

画像: 《クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 1-12》 2020年 『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年) PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

《クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 1-12》 2020年 
『オラファー・エリアソン ときに川は橋となる』展示風景(東京都現代美術館、2020年)
PHOTOGRAPH BY KAZUO FUKUNAGA COURTESY OF THE ARTIST; NEUGERRIEMSCHNEIDER, BERLIN; TANYA BONAKDAR GALLERY, NEW YORK / LOS ANGELES © 2020 OLAFUR ELIASSON

 その作品とは、新作のひとつ、円形の紙の上に黒い線画が走る《クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)no. 1-12》のことである。飛行機を使わないと決めたあと、オラファーは“揺れ”によって線を描く“ドローイングマシーン”を自作し、作品を運ぶ乗り物に搭載。会場に並ぶ12枚の線画の絵は、じつはベルリンから東京までの旅中、その装置が描いたものである。

「“飛行機を使わずに運びました”という事実だけだったら、展覧会の解説文で紹介して終わってしまいます。しかも、それは、地球温暖化を防ぐために、便利で効率的な手段の利用を制限したにすぎません。しかしオラファーは、それを創作のためのアイデアに変え、“地球がドローイングした”というコンセプトまでもっていったのです」

 

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